第95話 やり過ぎかもですけど、きっちり決めたいので!


 星波ちゃんの言った通りなら、それは必殺攻撃の予兆。


 だったらバーストバーニングかバーストシンフォニーのどっちっ?


 GBレプリカが肩のメガ・レーザーキャノンに手を伸ばした。


 バーストバーニングだ。


 あっ。


 私はそこで、この場所に留まるのが非常にまずいことに気づいた。

 後ろにはカイさんを始め、ルカさんとソーラさんがいる。

 

 放出エネルギーは必殺攻撃であることを踏まえれば、通常のキャノン砲を超えてくるのは必至。

 間違いなく、彼らにバーストバーニングの影響が及んでしまう。


 私は即座に場所の移動を開始。

 GBレプリカを避けるようにして反対側へ。

 あまり奥に行くと、今度はナユタ王女に危険が及ぶ可能性がある。


 よって私とGBレプリカの距離は15メートルほど。

 

 え、近すぎかも……。


 砲撃された瞬間に前に疾駆して、その攻撃をよけつつ打撃を繰り出す。

 というさきほどの方法はタイミングがシビア過ぎて、ちょっと難しそうだ。

 そもそも打撃でダメージを与えたところで、それほど効果がないのだけど。

 

 キャノン砲が狭義の意味での物理攻撃でない以上、セイントシールドも止めたほうがいいだろう。

 物理攻撃の解釈を広げれば可能だと思うけど、そんな賭けはできない。


 ――なら、尚更あれをやってみるしかない。


 GBレプリカ全体から発せられる赤いオーラが、メガ・レーザーキャノンそのものを赤く染め上げていく。

 

 普通の砲撃とは明らかに違う、異質な光景。

 つまり圧倒的な攻撃力の塊がそこにはあった。


 私は魔法の詠唱を開始。

 ここで、緊張からのスーパー舌足らずで詠唱が認証不可になったら大変だ。

 慌てずに、慌てずに……。


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――」


 バーストバーニングの発動を感知したそのとき、


「スピリットマーキュリー、ダブルッ!!」


 エンシェントロッドを振り下ろす。

 頭上に発生した2つの水星に似た光球が前方へ吐き出される。


 一方のバーストバーニングは禍々しい赤い光の極大放射だ。

 ただのキャノン砲の3倍はあるかもしれない。

 威力も3倍と考えれば、ダブルにして正解だった。


 というよりダブルでないと押し切られていたのは、眼前の光景を見れば明らかだった。


 またしても拮抗する魔法と電磁波攻撃。

 でもさきとは違う。


 魔法はその属性に関わらず、多岐にわたる攻撃方法を有している。

 私の使う聖属性の中位魔法に限って言えば今のところ、


 複数にも対応できるヴァニシングノヴァ。

 ゼロ距離攻撃のイノセントライト。

 そして、同時、且つ連続発動が可能なスピリットマーキュリー。


 だから――


 私は大きく息を吸って、


「トリプルッ」


 それだけで良かった。

 3つ目のスピリットマーキュリーが発現して、先行した2つと美しき光体と融合。

 単純な攻撃力が3倍になった私のスピリットマーキュリーが俄然、勢いを増した。

 

 スピリットマーキュリーの輝く光が、バーストバーニングを押していく。

 やがて完全に飲み込んだところで、そのさきのGBレプリカに炸裂した。


 でも――

 

 小細工なしの、ガチンコ勝負。

 それに完全勝利するには、


「フォースッ!!」


 やりすぎなくらいがいい。


 魔法は同じでも、武具によって引き出せる攻撃力の限界は違う。

 3級武具で限界が50なら、2級武具で55、1級武具で60というように。

 つまり特級武具で発動したスピリットマーキュリーは、引き出せる攻撃力が最大だ。

 

 私に聖魔法の適性があれば更なる攻撃力の上乗せとなるけど、そこはまだ不明。

 だけど多分、相性ばっちりだと思っていて――、

 だからこれはやり過ぎなんだと思う。

 

 4つめのスピリットマーキュリーが、とどめとばかりにGBレプリカに激突。

 周囲までが光に覆われる中、轟音を立てて崩れ落ちていく黒いシルエット。

 やがて光が去ったとき、そこにあったのは胸から上を失ったGBレプリカだった。

 

 やったぁっ。

 

 この嬉しさを誰に伝えたいって、それはやっぱり視聴者のみなさん。

 なので、私はナユタ王女のほうを向いて、「皆さん、やりましたっ。私、ゲルダムバーストレプリカを倒しましたっ」と手を振った。


 すると視聴者さんの代表かのように、満面の笑みを浮かべたナユタ王女がぶんぶんと手を振り返してくる。


 すぐにソーラさん、カイさん、ルカさんを回復してそっちに連れていきますからね。



 ◇



 ソーラさんの顔にみるみる生気が戻ってくる。

 

 これで3人へのキュアが終わった。

 多分、魔力的にもギリギリな感じ。

 運動性能パフォーマンスも絶賛低下中で、超俊足なんてもってのほかだろう。


 早く、GBレプリカに触れて魔力回復したいかも。


「ありがとうございます、湊本様。深く感謝申し上げます。……っ! お、王女様は、王女様は無事なのでしょうかっ」


「あ、はい。ナユタ王女なら――」


「ソーラぁぁぁああぁぁああぁっ」


 すっ飛んできたナユタ王女が、私の傍を通ってソーラさんに抱きつく。

 あまりにも勢いがあったものだから、私の体が漫画みたいにくるくると回転した。

 

 ナユタ王女のハグに驚くソーラさん。

 だけどすぐに優しい笑みを携えて、主をそっと抱きしめた。


「王女様、ご無事のようで何よりです。本当に、本当に」


「ひどい火傷じゃったのだが、そなたのように四葉が回復してくれたのじゃ」


「そうでございましたか。――湊本様、王女様を救っていただき重ね重ねありがとうございました」


「いえいえ、当然のことをしたまでぇすから。みなさんが無事で本当に良かったですっ、はい」


「……湊本。お前、何者なんだ? なんであれを倒せた?」


 カイさんが倒れているGBレプリカを眺めながら聞いてくる。


「そうね。それは私も知りたいわ。どうして能ある鷹が爪を隠していたのかも、ね」


 ルカさんも、私についてのことが知りたいようだ。

 それはナユタ王女もソーラさんも同じようで、私がその謎を氷解するのを待っている。


 黙っていたのは別に隠そうとしていたわけではない。

 なのでこの場を借りて、今の私に至るまでの経緯を話してしまうことにした。

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