第94話 皆さま。絶好調の四葉が帰ってきましたよ?


「ではでは、GBレプリカとバトってきますッ」


「お、おいっ、四葉、正気かっ!? あ、あんな化け物、一体どうやって倒すというのじゃっ」


「えっと、なんとか倒しますっ」


「な、なんとかって……」


 唖然としているナユタ王女に、私はスマホを渡す。


「なのでナユタ王女には、私の代わりにライブ配信の続きをお願ぃしたいんぇすけど、いぃですかね?」


「はへ? ラ、ライブ配信??」


 今度は目が点になるアクレシア国王女。


「はい。こんなときもライブ配信かと呆れてぃるかもしれませんけど、視聴者のみなさんが見てるって思うと、がんばれるんです。勇気をもらぇるんです。だからお願いしますっ」


 ソーラさんに負けじと、いつもより精度のいい90度のおじぎですっ。


「そ、そこまで言うならやってもいいが……。四葉のお願いは聞く約束だしの。で、でも何もしゃべれんぞ。こういうの、よく分からんからな」


「はい、私のほうにカメラを向けてくれるだけでいいぇす。では、お願ぃしますね。それと、GBレプリカの左手の後ろに隠れていてください。あそこなら攻撃されませんから」



【コメント】

 ・一国の王女にライブ配信を頼むよっちゃんw

 ・これはありがたい! よっちゃんの雄姿が見れるっ

 ・ナユタ王女、手振れはなるべく抑えてください

 ・応援するぞーっ。

 ・あっ

 ・あ、やばいて

 ・後ろ向いてえええええ

 ・よっちゃん、うしろうしろっ



 はい、分かってますっ。

 視聴者のみなさんが、もう私のことを騙したりしないことも。

 そして、GBレプリカが肩のメガ・レーザーキャノンで私を撃とうとしていることも。

 

 スマートフォンの画面に反射してちゃんと見えてますっ。


「更なる付与を授からん――」


 私は振り返る。

 メガ・レーザーキャノンの砲口が凝縮した光を吐き出した。


「ヴァニシングノヴァッ」


 4つの光の弾丸が一糸乱れぬ軌跡でもって、キャノン砲の一撃と相まみえる。

 激しくぶつかり合う、聖と邪の光束。

 やがて甲高い鉄琴のような音が消失すると、光も同時に霧散した。


「おおおおおおおおおっ! すごいではないかっ、四葉! あの攻撃を魔法で相殺するとは……っ。そなた、やはりすごかったのじゃな」


「へへ。ありがとぅございます。これも全てエンドラさんから頂いたエンシェントシリーズのおかげぇすけどね」


「えんどらさん?? おっ、そなたのファンからもたくさんコメントがきておるぞ。どれどれ――よっちゃ、まほ、すご、おおお、これ、ヴァニ、草、かっこ笑い だぶりゅーだぶりゅーだぶりゅー――だーっ、早すぎて読んでいられんっ! 文字も小さすぎるッ!!」


「こ、声に出して読まなくてもいいぇすよ。ではバトルに戻りますっ」


「おうっ、みんなで応援しとるからなっ」


 私はバトルフィールドに戻る。

 なんとなくこちらを警戒しているようなGBレプリカ。

 やれると思っていたメガ・レーザーキャノンを打ち消されたからだろうか。


 バーニアでの姿勢制御にも慣れたのか、左足一本で立っているGBレプリカ。

 その偽りの魂を与えられしロボットが、右手で持っていたビームブレードを構える。


 遠距離がダメなら近距離で、らしい。


 だったらこっちも受けて立ちますよっ。


 私もエンシェントロッドを構える。

 それが合図となったのか、敵意を原動力に突っ込んでくるGBレプリカ。

 同時に私も大地を蹴った。


 ビームブレードを振り上げるロボットモンスター。

 

 でも――遅い。


 魔力の回復はすなわち運動性能パフォーマンスの回復でもある。

 あっという間にエンシェントブーツの付帯能力〝超俊足〟でGBレプリカの足元に迫る私。


 これだ。

 これなんだ。

 これが私なんだっ。


 体中に溢れる歓喜と高揚感。

 

 全く負ける気が――、


「てやああああああああっ」


 しませんっ!!


 私はエンシェントロッドをフルスイング。


 ボゴンッ!

 

 会心の打撃が、GBレプリカの左足脛のアーマーを大きくへこませた。

 体勢を崩した巨大ロボットが左方へ倒れて、ダンジョンが揺れる。


「わたたっ!?」


 私は振動に足を取られて、地面を転がった。

 

 うーん、これ、前にもあったような気がする。

 超俊足には慣れたけど、踏ん張る力がまだまだなっていない。

 これも慣れ、なのかな?


「み、みな、もと……か……?」


 誰かと思えば、カイさんだ。


 そうか。

 GBレプリカの足を攻撃してそのまま反対側にきてしまったんだ。


 カイさんはダンジョンの壁に寄りかかって、息も絶え絶えといった感じだ。


「カイさんっ、大丈夫ですかっ!?」


「だ、大丈夫に、見えるか……? ひ、左手の骨と脇腹が数本折れて、む、虫の息だよ、ちくしょう……。っ、ほ、ほかのみんなは……っ?」


 そう問われて、私はルカさんとソーラさんを探す。


 2人は横になって倒れていた。

 どちらも苦悶の表情を浮かべて辛そうだけど一応、無事ではあるようだ。

 当然、ナユタ王女もだ。

 

 私はそれをカイさんに伝える。


「そ、そうか。そりゃ、良かった……。い、いや、よくねぇだろっ。ゲ、ゲルダムバーストはっ? あ、あいつは今、どこに――っ!?」


 カイさんが苦痛に表情を歪めながらGBレプリカを探す。


「レプリカでしたら今、私の攻撃で倒れてぃます。けどすぐに――あ、言ってるそばから立ち上がっちゃぃましたね。ではバトルに戻ります」


「は……? お前の攻撃で倒れた? バトルに戻る? ……な、何を言ってるんだ……??」


 珍妙な生き物を見るかのようなカイさん。

 

 GBレプリカが私をロックオン。

 カイさんと話している暇はもうない。もちろん、キュアを掛ける時間も。


「ごめんなさい。あとでみんなのこと回復しますので、もうちょっと待っててくださぃね」


 カイさんが何か言おうとしたけど、私の意識はすでに巨大人型ロボットに向いていた。


 

 バーニアをうまく使って、左足だけで立っているGBレプリカ。

 左足脛のアーマーをへこませたくらいでは、大したダメージにはならないのかもしれない。


 いっそのこと、ホーリーヴァレスティを使って一気に決めちゃう?

 ううん、ダメ。

 もしもそれで倒せなくて、私がガス欠で動けなくなったら一貫の終わり。


 ケルベロスと戦ったときの私じゃないし、魔力の総量も増えているとは思う。

 とはいえ、〝絶対にガス欠にならない〟という確信がない以上、やっぱり使えない。


 じゃあ、地道にジョイント部を狙って部位を破壊していったほうがいい?

 でも、動き回っているGBレプリカのジョイント部を狙うのって難しい気がする。

 そもそもこの方法で倒すのって、すごい時間が掛かる。


 できるかぎり早くこのバトルを終わりにしたい。

 カイさん達を回復させるためにも。


 だったら――、


 そのとき、GBレプリカの体全体が赤く光った。


 え? それって……っ。

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