第90話 ナユタ王女がやらかしちゃいましたっ。


 巨大人型ロボット兵器ゲルダム。

 当然そのゲルダムが動くのはアニメやゲームの中であり、現実の世界ではない。

 それが例えレプリカであっても、だ。


 でも眼前のゲルダムバーストは動いていた。

 ズシン、ズシン、と歩いてこちらにやってくる。


「う、動いている? ゲルダムバーストが……」


 カイさんが口をわなわなと動かしたのち――、


「すげえええええええっ! マジかよっ。アーマーパーツや稼動フレームに準じた動きの再現度もばっちりだ。肩にはちゃんとメガ・レーザーキャノンも付いているし、背後にはビームブレードの柄も見えるっ。うそだろぉっ! はっはーっ」


 全身で歓喜を表現するカイさん。

 大好きなゲルダムバーストが動いていたら、誰だってそうなるだろう。



【コメント】

 ・!?

 ・え?なにこれ?えっ??

 ・動いとるやんっ!!

 ・特撮?合成? 

 ・急にゲルダムバーストの実写版始まったんだがΣ(・□・;)

 ・アニメの世界に転移したのか・・・



 視聴者のみなさんは混乱しているようですね。

 カイさんみたいに歓喜しないだけ、現実が見えていると思いますよっ。

 それと、ある意味、実写版なのは確かだと思います!

 

「……カイ。バトルの準備して」


 ルカさんが杖を構える。


「バトル? 一体、どこにモンスターがいるってんだよ? 目の前にはゲルダムバーストしかいないぜ。いやぁ、マジでかっけぇわ。そ、そうだっ、スマホで撮影しておかねぇと」


「カイ。もう一度言うわ。バトルの準備をするの。現実を見てっ」


「現実って今、見てるじゃねぇか。おっ、しっかり目光ってんなぁ。プラモなんかだとLEDで光らせたりするが、やっぱり本物は違うね。くぅっ」


 幻惑されたようにゲルダムバーストに魅入っているカイさん。

 レプリカと本物の区別もつかなくなったようだ。


 そんなカイさんの両肩に手を置いて揺さぶるルカさん。


「カイっ。しっかりしてっ。あれは本物じゃないっ。虚構のロボットであるゲルダムバーストは、そもそも現実には存在しないでしょ!」


「あ? ……ああ、そうか。あれはレプリカだったな、レプリカ」


「そう、レプリカよ。じゃあ、そのレプリカがなんで動いているの?」


「そりゃお前っ…………」


 真顔になるカイさん。


「なんで動いてんだ?」


 ゲルダムバーストレプリカの両眼が蒼く光る。

 その奥に見える敵意が私達に向けられているのは、明らかだった。

 

ですよ、カイ様。あのゲルダムバーストのレプリカは、おそらく白いおじさんや赤いおばさん、そしてマネキンが動いていたのと同じ原理でしょう」


 ソーラさんが筒から矢を取り出す。


 赤いおばさんって本当に誰!?


「その原理とは一体なんじゃ? なんで命を持たぬガラクタが意志を持って動くのじゃ?」


「ガラクタじゃねぇですよっ! ゲルダムバーストのレプリカはっ!」


 ナユタ王女達は知らなかったらしい。

 イミテーションソウルというモンスターが、偽りの魂を与えているということを。


 私は手短に説明する。

 そういうことかと納得する4人。


「なるほどね。それは相当に厄介ね。ただのマネキンでもあの強さだったのよ。それがこんな大きなゲルダムバーストのレプリカとなったら、さすがに手に負えないんじゃない?」


「そ、そうは言うても逃げるわけにはいかんじゃろ。行先はあやつが壁となって遮っとるし。でもあれじゃ、ルカ。使。だってレプリカじゃ。


 あっ、ナユタ王女それは――っ!


「それは大変な失言でございます、王女様」



【コメント】

 ・やべ。それ絶対に言っちゃいかんやつ!

 ・確率85パーが100パーになったなw

 ・文句なしのきれいなフラグを立てよる

 ・あるあるすぎて草

 ・これで撃たん世界線もあるあ・・・ねーよっ。


 

 ソーラさんも視聴者のみなさんもさすがに分かってますね。

 ナユタ王女がやらかしちゃいましたっ。


 見れば、GゲルダムBバーストレプリカが肩のメガ・レーザーキヤノンに触れている。


 さっそく、フラグを回収するらしい。


「ね、ねえ、ちょっと待ってよ。撃つっていってもレプリカよ。百歩譲って動くのはいいとして、メカ的な機構も燃料も何もないのにどうやって……」


「命を吹き込んだとすればなんら不思議ではございません、ルカ様」


 

 キュイィィィーン――。

 


 メガ・レーザーキャノンの先端が光を放つ。

 その凝縮された光の禍々しさたるや、隻眼のオゥガの〝目から怪光線〟なみだ。


 ここにいたらまずい。


「やべぇっ、に、逃げろおおおおっ!!」


 カイさんの号令を聞き終わる前に、私はその場から逃げる。

 ナユタ王女とソーラさんと一緒に、落ちていたレプリカの腕の後ろに滑り込むように隠れたそのとき、


 

 ギャオオオオオオオオッ!


 

 見開き1ページでどでかい擬音が描かれたかのごとく、とてつもないエネルギーが放出された。


「わっ、たたた、のわああああぁっぁあぁっ!?」


 キヤノン砲の一撃からは逃れたものの、突風で吹き飛んでいくナユタ王女。


「王女様ッ」


 手を伸ばすソーラさんが、なんとかナユタ王女の手を掴んで引き寄せた。


 私も危うく飛ばされそうになったけど、レプリカの腕の指先にしがみついて事なきを得た。

 


【コメント】

 ・あぶねええええええええっ

 ・これで心配するなって無理な話なんだがっ!!

 ・アニメの定石通りやな

 ・マジで殺す気やん・・・

 ・バーストはまず遠距離攻撃。これ常識

 ・よっちゃん、自撮り棒落とさなかったのえらいっ



 本当に危なかったですっ。

 アニメ見てたら挙動とかで、もっと早く分かったんですかね?

 だとしたらカイさんが気づいているはずですね。


 あ、もちろん自撮り棒もエンシェントロッドもちゃんと持ってますよ。

 ここは、よくやったと自分を褒めたいですねっ。


「おいっ、そっちはみんな無事かっ!?」


 反対側の岩の影に隠れているカイさんだ。

 ルカさんもいる。

 良かった。みんな無事のようだ。


「こっちは大丈夫です、カイ様。ところでこのあとはどうしたらよいでしょうか? カイ様の許可さえあればライトニングボウを放ちたいのですが」


「お、俺の許可ぁ? そりゃ一体どうして……?」


 ソーラさんに対して首をかしげるカイさん。


「モンスターとはいえ、カイ様の愛する下痢ダムバーストのレプリカですから。了承を得るのが礼儀かと思いまして」


ダムなっ。つーか、許可なんかいらねぇですよ。俺の知ってるゲルダムバーストは、間違っても人間相手にメガ・レーザーキヤノンを撃ったりはしねぇ。やっちゃってください。あいつを倒して先に進みましょうっ」


 明確な私達の敵となったGBレプリカ。


 ところで私なんですけど……、

 もしかしたら、とっても大変なことに気づいたかもしれないですっ。

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