第84話 私、単なるお荷物のままではいたくありません!


、ありませんか?」


 疑問に思ったそれを、私は口に出していた。

 

 先日、星波ちゃんと一緒に潜った台東C。

 あそこのダンジョンでも通り道で2択を迫られて、一方は罠だった。

 だから目の前の2択もそうなのではないかと私は思ったのだ。


「そうね。それは充分にあるわ。そもそもあの吊り橋怪しくない? まるでこの池を渡るためのお膳立てみたいじゃない」


 同調してくれるルカさん。

 同時に、言われてみれば吊り橋の怪しさが際立ってもいた。


「ならば右の池沿いを通って行けばよかろう。答えは出た。さあ、先に進もうぞ」


「お待ちください、王女様」


 歩いていくナユタ王女の服を掴んで離さないソーラさん。


「わたたっ、何をするのじゃ、ソーラ。吊り橋が怪しいから、あっちの道を進むのではないかっ」


「吊り橋が怪しいと思わせてそっちの道に行かせる罠かもしれません、王女様」


「むむ……。確かにその可能性はあるのう」


 ナユタ王女が勇み足を反省するように、おとなしくなる。


「単純に2通りの行き方があるってことも考えられるが、ここは湊本の言った通り、ダンジョン罠が仕掛けられていると思ったほうがいい。だとすると、正解の道を導くためのダンジョン語がどこかに書かれているはずだ。それを探してくれ、みんな」


 そうだ。

 ダンジョン罠があるところにダンジョン語あり。

 なので、必ずどこかにダンジョン語が書かれているはず。


 カイさんの号令で皆がダンジョン語を探し始める。

 やがて「ありました」と見つけたのは、やはりというかソーラさんだった。


 池の直前にある岩に書かれたダンジョン語。

 なにやら文字が長いが、これは翻訳が大変そうだ。


 と思ったら、


「フタツ ノ ミチ ハ シ ヘノ イリグチ マンナカ ヲ ススメ……って書いてあるわね」


 ルカさんが翻訳書なしで、さらっと翻訳してくれた。

 私は取り出そうとしていた翻訳書をそっとポーチに戻した。



【コメント】

 ・翻訳早っ!

 ・まるで翻訳AIのようだなw

 ・ルカさんすごーいっ

 ・頼れる姉貴分

 ・よっちゃんの出番なしかぁ

 


 はい、めちゃんこ翻訳早くてびっくりしましたっ。

 もしかして星波ちゃんより早いかもっ?

 ルカさんにしてもソーラさんにしても、別の特技みたいなのがあって素敵ですよね。


「2つの道は死への入口。真ん中を進め――か。しかし真ん中ってなんだ? 2つの道が池沿いの道と吊り橋だとしたら、その間の道ってなるよな。どこにもねぇぞ、そんなもん」


 カイさんが指摘した通り、そんな道はどこにもなかった。

 あるのは、何者かに引きずりこまれそうな暗い池だけ。


「もう少し探してみる? この文言なら少なくともあと1つは道があるはずだから。例えば吊り橋の左端にも池沿いの道があるかもしれないし、ほかには、少し戻ってどこかに池を迂回するような道があったかもしれないから」


 ルカさんの提案を受けて、道を探し始める私達。

 でも第3の道はどこにもなくて、終結した面々は一様に難しい顔をしていた。


 すると重苦しい雰囲気の中、ソーラさんが口を開く。


「もしかしてですが、3じゃないでしょうか」


「池の中? 本気で言っているのかソーラよ。あったとしても完全に水没してるではないかっ。よ、余は絶対の絶っっっ対に潜らんぞっ」


 泳げないナユタ王女の完全拒否。

 死んでもヤダって感じだ。


「それはちょっと現実的じゃねぇな。深さも不明なんだ。下手したら全員池の底でお陀仏って可能性もある。だからといってほかに道はない……」


 カイさんが眉間に皺を寄せて腕を組む。


 私がそこでコメントを見たのはライブ配信中だからというだけであって、いつものことだった。



【コメント】

 ・道なかったのか・・・

 ・お通夜みたいな顔してるな

 ・こうなったら、どっちか通るしかないんじゃね?

 ・いっそ、二手に分かれてみるか

 ・¥10,000《第3の道は池の中。ほかに探してなかったのなら多分そう。池の水はおそらく高度な三次元映像かそれに類するもの。以前あったのは、水の抵抗はそのままで呼吸ができて視界がクリアな謎空間。誰か池に顔突っ込んでみて》

 

 

「えええっ!? 池に顔突っ込むんぇすか!?」


 みんなの視線が一斉に私に刺さる。

 いきなり叫んだからだ。


「どうした? 湊本。池に顔突っ込むって聞こえたが」


「え、えっと、またダンジョンに詳しぃ視聴者の方からアドバイスが来まして――」


 私は、星波ちゃんからのアドバイスをカイさん達に話す。


「なるほど。高度な三次元映像かそれに類するもの、か。確かにそういった罠があるってのは聞いたことがある。だが池があまりにも大きいからその発想が出てこなかった。よしっ、湊本、池に顔突っ込んでみるか」


「私ぇすかっ!?」


 星波ちゃんの言ったことだから信じたい。

 でも100パーセント絶対ってこともない。

 

 もしも星波ちゃんの言ったことが間違っていた場合、汚い池の水に顔を付けただけではなく飲んでしまうわけで――。


 乗り気でない気持ちが顔に出てしまったのだろう、


「カ、カイっ。か弱い女子にそれをやらせるというのかっ。えぇい。男の風上にも置けん奴じゃっ」


 と、ナユタ王女が私をかばうかのように、カイさんに食って掛かる。


「そ、そういうわけじゃねぇですけど、湊本のファンの情報ってなると流れ的にそうかなぁって。でもまあ、湊本にやらせるのは酷か」


 ぽりぽりと頭を掻くカイさん。

 私への非を認めるような視線が痛い。

 するとこの場を収めるかのように、


「では、私めがやりましょう」


 ソーラさんが名乗り出てしまった。

 ここで本当にソーラさんがやってしまったら、私は罪悪感で押しつぶされてしまう。


 ……この4人と出会ってから私は何もやっていない。

 

 命を懸けてモンスターと戦ってくれるカイさんとルカさん。

 察知能力と長けた弓の扱いでサポートしてくれるソーラさん。

 その明朗さと奔放さで重苦しい雰囲気を和らげてくれるナユタ王女。

 

 一方の私は自分の仕事をしているだけの、ただのお荷物だ。

 

 そんなのは嫌だ。彼らのためにもっと役に立ちたい――。


「いえ、私がやりますっ。私が池に顔を突っ込みますっ!」

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