第83話 第3の戦士――覚醒ですっ。


「ギィヤァァァァァッッッ………」


 スローインプの耳障りな叫び声が、鼓膜を震わせる。

 完全なるカイさん&ルカさんの勝利だった。



【コメント】

 ・ナイスコンビネーションっ!

 ・これは作戦勝ち

 ・息の合ったコンビだなぁ

 ・烈の技・大・炸・裂

 ・ルカさん、イイっ!!

 ・カイさん、素敵♥


  

 みなさん、やりましたねっ。

 

 ルカさんの魔法でコンテナを退けて、間髪いれずにカイさんの烈の技。

 これがパーティーでのバトルだって感じで、とてもカッコ良かったですっ。


「ほう、やるのう。ここまで阿吽あうんの呼吸でお互いを信じあえるとは、もしやカイとルカは夫婦めおとの契りを結んでおるのか?」


「断じてそういう関係じゃありませんよ、ナユタ王女っ」


「そうですよ、ナユタ王女。恋愛感情とか一切ないんで」


 ナユタ王女の声が聞こえていたのか、カイさんとルカさんがはっきりと誤りを指摘する。

 まだ短い付き合いだけど、確かに2人の間に恋愛感情の片鱗は確認できなかった。


「あの二人の関係って何なんぇしょうね……」


「背中を任せられる戦友ともじゃないでしょうか。湊本様」


 私のつぶやきに答えてくれたソーラさん。


「確かにそれがしっくりきますね。私もそうだと思ぃます」


「ふん。どうせ照れ隠しであろう。ダンジョンから脱出したあとは高揚感が覚めやらぬうちにお互いの体を求めて快楽に身を委ねるはずじゃ。ぐふ、ぐふふふふ」


「控えめに言って最低です。王女様」



【コメント】

 ・ナユタ王女!?

 ・妄想力すごwww

 ・ソーラさんも相変わらず容赦なしw

 ・そういうキャラでしたっけ?

 ・本当に王女様でしょうか??

 ・生中継ですよっ、王女様!


 

 ナユタ王女、責めすぎですっ。

 というより、配信しちゃって大丈夫かなっ!?

 ……でも、当のナユタ王女から了承貰っているからいっか。


「よっしゃ。先に進むぞ」


 カイさんが、倒したスローインプのいる場所から下に降りてくる。


 そのときだった。

 車の影から、ぬっと


 カイさんは気づいていない。


「カイっ、横ッ!!」


 気づいたルカさんがカイさんに知らせる。

 でもそれは数秒遅くて――、


「うおっ? うおおおおおっ!?」


 スローインプに触れられたカイさんの両足が地面から離れた。

 どうやら物だけではなく、人間も持ち上げられるらしい。

 

 スローインプはカイさんを一体どうするつもりだろうか。

 

 投げる? 

 どこに?

 ダンジョンの壁?


 だとしたら大変だ。

 スローインプが投げる物はその質量に関わらず、ほぼ一定の速度だったような気がする。多分、時速にして70~80キロくらいだろうか。


 人間がその速度で壁に投げつけられたら、全身の骨が砕けかねない。


 スローインプが、カイさんを投げる構えを取る。

 魔法は巻き添えになると判断したルカさんが、スローインプの元に走る。

 でもそれはおそらく間に合わなくて――、


 そんな――っ、カイさんっ!!


 ヒュンッ。


「ギッ!?」


 スローインプの体に矢が刺さった。

 

「いってっ」


 カイさんが重力を取り戻して、尻から地面に落ちる。

 次の瞬間、

 

「アギギギギギッ!!?」


 体を痙攣させるスローインプ。

 それはまるで感電でもしているかのように。

 矢は私がいるほうから飛んでいったように見えたけど……。


 感電? 矢?

 もしかして――っ


 私はソーラさんを見る。

 ソーラさんは手にライトニングボウを握りしめていた。


「ソ、ソーラさん!? え? ソーラさんが矢を放ったんぇすかっ!?」


「はい。少々、たしなんでいたこともありまして使わせていただきました」



【コメント】

 ・ソーラさんだったのかよ!

 ・すげーっ。一発必中なんだけど!!

 ・完全に弓使いじゃん

 ・そんな特技があったとは・・・

 ・ますます惚れた

 ・戦力強化やな

 


 これには私もびっくりですっ。

 ソーラさんにこんな特技があるとは思っていなかったので。

 

「おう、そうじゃった。ソーラは弓が使えんたんじゃな。よくやったぞ、ソーラ。ソーラのおかげでカイが大けがを負わなくて済んだのじゃからな」


「本当にそうぇすよっ。ソーラさん、すごいすごいっ」


「いえ、当然のことをしたまでですから」


 得意気になることもなく、どんなときも平静なソーラさん。

 そんなソーラさんの元にカイさんとルカさんがやってくる。


「ソーラさんだったのかっ。助かった。ありがとう。1体倒したところで油断しちまった」


「すごいじゃない、ソーラさん。まさかあんな上手に弓を扱えるなんて思わなかった」


「国での経験が生きたようです。カイさんを助けることができて良かったです。ほかにモンスターはいないようですね。では行きましょう」


 なんとなく居心地の悪そうなソーラさんが、ダンジョンの先へとみんなを促す。

 もしかしたら照れていたのかもしれない。

 そんな風に見えたのは多分、間違っていないような気がした。



 ◇



「池、だな」


「池ね」


「池じゃ、池じゃ。のう、ソーラ」


「はい、池です。王女様」


「池のようぇすね」



【コメント】

 ・うん、池だ

 ・池としか形容できないな

 ・池かぁ

 ・池なんてあるんだな

 ・なんでもあるな。渋谷Bは

 


 そう。私達の眼前には池があった。

 それも4000平方メートルはありそうな大きな。


 渋谷にこんな大きな池はない。

 だとするとこの池は、ダンジョンオリジナル(この言い方が正しいかは分からないけれど)ということになる。


「おいおい、まさかここを進んでいけってわけじゃねぇよな」


「それは無理ね。だってけっこう深いんじゃない? 武具装着したままじゃ確実に溺れるわ」


「余、余も無理じゃぞっ。余は全然泳げないのじゃ。えぇい、ソーラよっ、別の道はないのかっ?」


「あそこにあります。王女様」


 あるんだっ。

 

 私達は一斉に、ソーラさんが指を向ける池の右側に視線移動。

 分かりづらいんだけど、崩壊した建物の向こうに通れそうな道が見えた。


 近くにいくとそれはやっぱり道だった。

 ただ、池の横を通っていくその道はかなり狭くて、足を滑らせようものなら池ポチャ確定だろう。


「向こうにもございます、王女様」


 ほかにもあるんだっ。


 今度は池の左側に指を向けるソーラさん。

 見ればそこには、池の上に架けられた吊り橋が見えた。

 

「2択ってことか。さて、どっちの道を使って先に進むかね」


 カイさんが皆の考えを聞くかのように、言葉を投げかける。


 2択かぁ。

 あれ? でもこれって……。

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