第81話 厄介そうなモンスターでてきましたねっ。
霊光石で照らせる範囲に道路の終わりが見えてくる。
どうやらその先にも道があるようだ。
転移門を見つけられないのは残念だけど、道路の終わりがダンジョンの行き止まりではなくて良かった。
「道路の先にモンスターは見えねえな。ルカ、後ろはどうだ? 車の影とかにマネキン野郎、隠れてねえか?」
車は私達にとってもモンスターにとっても絶好の隠れ蓑だ。
カイさんが気にするのは当然のことであり、私はルカさんと一緒に背後の気配を探る。
「後ろは大丈夫ね。このまま先に進んでいいわよ」
うん。確かに大丈夫そうだ。
「そうか」と頷くカイさんが踏み出そうとしたとき、
「動かないでください!」
ソーラさんが叫んだ。
刹那、ズゴオオンッという耳をつんざくような音。
何かと思えば、電柱がカイさんの目の前の道路に突き刺さっていた。
「うおっ! なんだぁ!? この電柱どっから飛んできたんだよっ?」
「あそこです。倒壊した建物の上」
ソーラさんが右斜め上に指を向ける。
そこには倒壊した建物に立つモンスターがいた。
霊光石の光で浮かび上がる姿。
ピンと尖った耳、ぽっこりとした腹。赤く光る両眼。
その、どこかで見たことのあるモンスターはとにかく小さかった。
多分、阿修羅ボーイの3分の2くらいだろうか。
「やけにちんまい奴じゃのう。あんな小さな体で電柱を投げれるものなのか」
「ナユタ王女の言う通りだぜ。投げた奴は別のモンスターかもしれねえ。とにかく一旦、ここから離れるぞ。立ちっぱじゃ恰好の餌食だ」
私達はちんまいモンスターから離れて距離を取る。
カイさんは別のモンスターがいるかもと言ったけど、どこにも見当たらなかった。
「あの小っちゃい奴、知ってる。でも名前が出てこないのよね。スロー何とかだったような気がするけど」
出てきそうで出てこないルカさん。
私も全く、存じ上げません。
もしかしたらと、私はコメント確認。
【コメント】
・カイさん危なかったな
・ソーラさん、めちゃファインプレー!
・つーか別のモンスターいるの?いないの?
・¥10,000《あのモンスターはスローインプ。レベルは190。触れた物を持ち上げて投げてくる。体格は関係ない。それとポン吉なのは特段、意味はない》
・お、星波様キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
・早速の赤スぺアドバイスっ!!
ポン吉には特段、意味はないんですね、分かりましたっ。
ではなくてっ!
「あのモンスターはスローインプって名前だそぅです。レベルは190で、触れた物を持ち上げて投げてくるそうぇすね」
私は星波ちゃんから得た情報を集まっている皆さんに教える。
「そうそう、スローインプっ。湊っちゃんの視聴者に物知りがいて助かったわ」
「どうりでほかにモンスターがいないわけか。しっかし、あんなチビが……っておい、あいつどこにいった?」
見れば、さきまでいた建物の上から忽然と消えているスローインプ。
一体どこへ――?
「あそこです。あそこの建物の上。今度は樹木を投げようとしています」
再び、ソーラさんがスローインプを発見。
幹の太い樹木を投げようとするスローインプ。
「そこのダンプカーの後ろへ行けッ!」
私達はカイさんの指示に従い、ダンプカーの後ろへ。
次の瞬間、樹木がダンプカーを揺らした。
その後、場所を変えては色々な物(タイヤ、岩、キッチンカウンター、信号機、車etc)を投げてくるスローインプ。
でも私達は、それらの全てをダンプカーをグルグル回りながら回避していた。
「ほう、丈夫なダンプカーじゃのう。で、カイよ。いつまで続けるのじゃ? いい加減飽きてきたぞ、この遊び」
「遊びじゃねーですよっ、ナユタ王女。……ただいつまでも続けていられねぇのも事実。別のスローインプが来て挟まれたらもう回避はできねえ。くそっ、どうするっ!?」
苛立ちからなのか、カイさんがダンプカーを叩く。
逃げたとしても、後ろから追いかけられて物を投げられる可能性は非常に高い。
そうなったら回避は困難を極めるだろう。
【コメント】
・確かにいつまでやってるんだw
・遊びだと思ってたんかいっ!
・セイントシールド並のダンプカーとかワロタ
・やっぱりいずゞのダンプカーは丈夫だね
・都合よくエンジン掛かって乗って逃げれん?
・しつけーな、スローインプ
ちょっと期待したけど、コメントに星波ちゃんからの赤スぺはきていない。
こうなったら、こっちから星波ちゃんに呼び掛けて打開策を聞いたほうがいいだろうか。
このままじゃジリ貧のような気もしますし。
私もコケて逃げ遅れる可能性大ですし。
「ねえ、カイ。あいつって誰かを狙って投げているわけじゃないと思う」
これはルカさん。
何か気づいたようにカイさんに聞く。
「だろうな。俺達がここに集まっているから投げているだけで……」カイさんの眉毛がぴくりと動く。「そっか。明確なターゲットがいれば、そっちを狙うはず」
「そういうこと」
「よっしゃ、やるか」
そこでカイさんが、私、ナユタ王女、ソーラさんに視線を向ける。
「3人はここで隠れているんだ。もしもスローインプが移動したら、今まで通り対角線上に移動するように」
何か策があるらしい。
それがなんなのかと聞いている余裕はない。
ナユタ王女が聞きたがっていたけど、空気を読んだソーラさんが制止した。
カイさんとルカさんが立ち上がり、ダンプカーの傍から離れる。
なんの障害物もない状態でスローインプと向き合う形となった、2人の銀潜章。
一体、何をするつもりなのだろうか。
私は自撮り棒をしっかりと握りしめた。
戦えないのなら、それこそ職務を全うしなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます