第78話 おねんねモードのデメリットがでちゃったようぇすね。
「実のところ、救助が来るのを想定してバスに隠れているっていう考えもあったんだが、救助が来ないんじゃ、それこそ先に進むしかねえな」
カイさんが汚れた窓を手で拭くと外を確認する。
どうやらマネキンはもういないらしい。
さっきの2体が気になるけど、カイさんとルカさんがいれば大丈夫だろう。
「余は最初からそれを希望していたので問題はない。ソーラ、こっちへ来るんじゃ。もう行くぞ」
スッと立ち上がったソーラさんがこちらへやってくる。
年の頃は20代前半。ルカさんと同じくらいだろうか。
ナユタ王女の斜め後ろに立つソーラさん。
ナユタ王女の侍女だからなのか、全てに於いて王女より出しゃばらないという
「ソーラです」と、無に近い表情を崩さずに会釈してくるソーラさん。
私は「ど、どうもですっ」と返す。
「すまんのう、四葉。ソーラは余以外とはあまり喋ろうとはしないのじゃ。それなのに、どうしてもダンジョンに潜りたい余のために、カイとルカに話を付けてくれた素晴らしい交渉人でもあるのじゃ。のう、ソーラ」
「私めはただの侍女にございます、王女様」
ナユタ王女に褒められても、眉一つ動かさないソーラさん。
侍女という仕事のプロフェッショナルという感じだ。
なんとなく、ナユタ王女以外とは一定の距離を保ちたい雰囲気も感じ取れた私。
ソーラさんは撮影ダメっぽいなぁ。
でも、一応聞いてみる。
「あ、あのソーラさん。カメラで撮っちゃったりしたら怒ります、よね?」
ソーラさんが、私に射抜くような視線を向ける。
ひっ。
たじろぐ私。
「それが湊本様の仕事であれば構いません。どうぞご自由に」
意外にも了承。やったぁ。
「で、ではお言葉に甘ぇて……。視聴者のみなさーん。声は聴こぇていたと思うんぇすけど、この方がソーラさんですよ」
私は恐る恐るカメラをソーラさんに向ける。
一貫して無表情だった。
【コメント】
・こ、こんにちは
・あの・・・はい
・めっちゃ睨まれてるような
・えっと、侍女っていいですねっ
・やばい、俺タイプかも、です。
・執事っぽいっすね
一線引いてしまっている視聴者の皆さん。
分かります。
ちょっと、近寄りがたいオーラがありますからね。
でも大丈夫っ。
これから一緒にダンジョン探索をしているうちに、きっと打ち解ける!
――はず。
でも仕事かぁ。
私の仕事はウバウバイーツ……じゃなくって、ダンチューバーでいいんだよね。
なんとなく仕事っぽくないけど、ダンチューバーは立派な仕事です、はい。
一応、事務所にも入っていますからね。
ん? 事務所……。
「あっ」
地震による渋谷Bのダンジョン崩落。
そこに私が巻き込まれて、ダンジョンに閉じ込められているという現実。
少なくとも、ももちんさんが伝えているはずなのだから。
だとしたら私が無事かどうかの連絡だってしてきているはず。
でも着信とかは一切……って。
完全拒否のおねんねモードにしてたあああああっ!!
「おい、湊本。どうかしたのか。すごい顔してるが」
「そうね。可愛い顔が台無し。どうかしたの?」
カイさんとルカさんが怪訝な表情を浮かべている。
「え、えっと、す、すぃませんっ。ちょっと電話してきていいぇすか?」
2人のダンジョンシーカーが頷くと、私は後部座席のほうへいく。
「し、視聴者のみなさんっ。申し訳ないんぇすけど一旦、ライブ配信のほう、中断しますね。潜姫ネクストの事務所から連絡がぁったかもしれなくて、でもおねんねモードで拒否してて、なので今から連絡しますっ」
【コメント】
・まだ連絡とってなかったのかーいっ。
・そういやよっちゃん潜ネクのメンバーだった
・それは早くしたほうがいいな
・ライブ配信観てるのは間違いない
・ある意味配信者の鏡やなw
・すぐに再開してね♪
「はい、連絡が取れたらすぐに配信開始しますっ。なんども放置しちゃってごめんなさい」
私はライブ配信を中断すると、すぐに事務所に電話を掛ける。
一番合戦さんはいるだろうか。
いなかった場合のことを考えたそのとき、一番合戦さんが電話に出た。
「おう、四葉かっ!」
「よ、良かった、繋がったっ。あ、あの私……」
「待て待て、おねんねモードのことは謝らなくていいぞ。配信中はプライバシー保護のため誰だってそうするからな。ただ配信を開始する前に連絡してほしかった。そこは減点100だな」
100!? 100点満点中で??
「それと大体のことは、お前のライブ配信を観ているから知ってる。……まず最初に、四葉が無事でよかったッ。それが何よりも心配だったからな」
「一番合戦さん……」
とても嬉しい言葉だった。
気持ちがこもっているのも伝わってきた。
特別枠で正式なメンバーでないのに、本気で心配してくれる社長を持てて私は幸せ者だ。
「グッズをバンバン売っていこうっていう矢先に、何かあったらどうしようかと思ったぞ、ほんと」
グッズありき!?
ちょっと軽蔑してもいいですか!?
「という冗談はさておき――」
本当に冗談なのかな??
「救出が不可能になった今、四葉の当初の予定通り脱出するしかない。だが幸いにも銀潜章持ちが2人いる。お前の気力が回復するまで素直に彼らを頼ったほうがいい」
「はい、そのつもりです。カイさんもルカさんも頼もしいダンジョンシーカーですからね。エナジルの実がどこかにあればいいんぇすが……って、あれ? でも一番合戦さん、よく私の気力がやばいこと分かりましたね」
「いや、あたしは分からなかったが星波がそう言っていた。その星波がお前と話したがっている。このあと電話を掛けてやってくれ」
「星波ちゃんが、ですか? 分かりましたっ」
「それとナユタ王女だが、絶対に五体満足でダンジョンの外に連れ出すんだ。……分かっているな? これは非常にセンシティブな問題だ。最低ラインはナユタ王女の生還。なんとしてもやり遂げろ」
「は、はいっ、なんとかがんばります」
日本とアクレシア国の軋轢を危惧する、我らが社長。
これが全うな感覚なのだろう。
さすがにその常識は持ち合わせている一番合戦さんのようだ。
「それに四葉が活躍して王女が生還できれば、アクレシア国からたんまり謝礼がもらえるだろうし、ギルドからの恩賞も出るだろ? 事務所経営ってそれなりにお金が掛かるからねぇ。がんばれ」
「……」
腹黒い
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