第77話 地震の影響でまさかの場所も崩落したようです。


 とんでもない事実を知ってしまった私。

 アクレシア国の王女様と出会ったことだけでも驚きだけど、その王女様が内緒でダンジョンに来てしかも地震による崩落に巻き込まれたなんて。


 撮影で外交問題にならなくても、この状況って充分外交問題になりますよね?  


 という表情でカイさんを見ると、当のカイさんは口をわなわなと振るわせて、


「俺達だって知らなかったんだよっ。ナユタ王女がナユタ王女だってことを。けったいな服着てんなとは思っていたけど、まさかアクレシア国の王女だなんて思わねーだろ、普通。言ってくれねえとさ」


「言ってしまったらダンジョンツアーを引き受けてくれないであろう? 余はどうしてもダンジョン、しかも渋谷Bダンジョンに潜ってみたかったのじゃ。だからカイとルカには黙っていたのじゃ」


 と、ナユタ王女。


 あまり悪いと思っていないように見えた。

 ダンジョンに潜っていることが楽しくて、その後のややこしいことは二の次三の次みたいだ。


「何を言っても後の祭りね。外交問題になるかならないかは、このダンジョンを無事に脱出できるか否かで決まる。2人でなんとかするしかないわ」


「そうじゃ。その意気じゃ、ルカ。それに余に何かあっても自己責任じゃから大丈夫じゃぞ」



【コメント】

 ・いや、自己責任じゃすまんだろ

 ・ナユタ王女、いい性格してるでゴザイます

 ・本当にアクレシア国の王女なのか・・・

 ・何かあったらある意味ゲームオーバーか

 ・高難度の護衛ミッションかと思われ

 ・えらい楽観的やなwww



 そうですよねっ。 

 王女という立場をもっと考えたほうがいいんじゃないかな、と私でも思ってしまうほど楽観的な王女様だった。


 そう言えば……と私はカイさんに聞いてみる。


「あの、ケガしてる方とかぃませんか? 電車と一緒に落ちたわけぇすし、大丈夫なのかなぁって」


 事実、私は怪我こそしてないけれど体中が痛かった。

 キュアの魔法で今はもう大丈夫だけど。


「それだったら、俺が肋骨にヒビが入ってナユタ王女が数ヶ所かの打撲。ソーラさんが右手の挫傷で、ルカに至っては足が折れたな」


 ええっ!?

 全員、けが人っ。

 それも私以上にひどい!


「み、みんな大変だけど、特にルカさん、足折れてるんぇすかっ!? 大丈夫なんぇすかっ!」


 私があたふたとしているとルカさんが、


「今はもう治ってるから大丈夫よ。私だけじゃなくて全員ね。ナユタ王女が治癒のお香を焚いてくれたから」


「治癒のお香? それで骨まで治せるんぇすか?」


 だとしたらスーパーキュア並の治癒力だ。

 

「そうね。煙を吸い込むことによって治癒の効力が全身に行き渡り、骨はおろか傷ついた内臓も修復できる超すぐれもの――で、良かったでしたっけ? ナユタ王女」


「ああ、そうじゃ。本当に持ってきておいて良かった。ただ一回ぽっきりなので、もう使うことはできんがのう」


 のちに知ることになるのだけど、治癒のお香はナユタ王女が日本の知人からもらったダンジョン遺物らしい。

 ナユタ王女のダンジョンへの強い好奇心を裏付けるエピソードでもあった。



【コメント】

 ・そんな治癒アイテムあったのか

 ・ばあちゃんちの匂いしそうw

 ・五千円ぽっきりみたいな怪しさw

 ・大事な一回だけどそれは使うわな

 ・え? この先回復なし??


 

 はい。使いどころは正しいと思います。

 ただ今後、極力ケガをしないように気を付けないといけませんね。

 私もキュアは使えますが、多分2回が限界のような気がしますし。


 ピロピロピロ♪


 何か電子音が聞こえる。

 と思ったらカイさんがスマートフォンを取り出して、耳に当てた。


「おう、どうなった救助のほうはっ? ……ああ、それで? ……ああ、ああ……は? なんだとおぉっ!? マジかよっ、じゃあどうするんだ!? ああ、ああ……ち、くっそっ、ああ分かったよっ。分かったっつってんだろっ!!」


 カイさんが乱暴に通話を終えると、バスの座席を蹴った。

 めちゃんこ怒ってるけど、何があったのだろうか。


「今のあんたの態度で救助は来ないっていうのは分かった。でも理由は何?」


 ルカさんが聞く。


。重機が入るにしても2、3日は掛かるってよ。なんとかそっちで脱出してくださいって淡々と言い放ちやがってよ、あの災害担当。ナユタ王女がいるって伝えてあったのに緊張感の欠片もねえ、くそっ!」


 ダンジョンの入口が崩壊っ。

 これは大変なことになりました。

 

 ただ、最初から脱出のことしか考えていなかった私には、それほどショックではなったですが。


 ん? あれ? 


「あ、あの、救助を求めていたなら電車のところにいたほぅが良かったと思うんぇすが……」


「あー、それね。それは、すごーい複雑な事情があって……」


 ルカさんがちらりとナユタ王女を見る。

 するとナユタ王女は涼しい顔でこう言った。


「救助がきたら救助されてしまうであろう? だからその前にもっとダンジョンを満喫しておこうと余が我儘を言ったのじゃ。でも救助がこれないなら結果オーライで良かったで良かったではないか、ぬふふ」

 

 その冒険心、ダンジョンシーカーになれますよっ。



 【コメント】

 ・ただもんじゃねー、この王女様

 ・ピンチはチャンスw

 ・そのポジティブ思考最高すぎるwww

 ・ダンジョン愛が半端ない

 ・緊張感緩和しすぎだろw

 ・やばい。ナユタ王女好きになるかも


  

 視聴者のみなさんもびっくりのようですね。

 それにしてもナユタ王女。

 まさかここまで、いい意味でおめでたい性格だったとは。


「うふふふふ……はっ、すいませんっ、笑っちゃぃましたっ」


「いいのじゃよ、四葉。笑う門には福太郎来るじゃ。たくさん笑って福もたくさん集めれれば、どんな苦境も屁の河童寿司なのじゃ」


 ことわざにも詳しいんですねっ。

 なんかちょっと違うけど。

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