第76話 とんでもない方もいらっしゃいましたっ!


 私はカメラの向きを男性ダンジョンシーカーに向ける。

 

「続きましてはこの方です。倒れていた私を立ち上がらせてくれて、バスまで連れていってくれた剣士さんです」


「名前はカイだ。なんつーか、まぁ……よろしく」


 鼻をぽりぽりと掻き、視線を逸らすカイさん。

 どうやらカメラで撮られることに照れているようだ。



【コメント】

 ・助けてくれてありがとうございます!

 ・なんか強そう!!

 ・カイさんの無精ひげがいい・・・

 ・カメラ慣れしていないのが可愛いw

 ・パーティー組んでみんなで脱出だ

 ・力強い仲間ができてよかったね、よっちゃん


 

 そうですね。

 ここからさきは私一人ではなく、ルカさんとカイさんとご一緒できればいいなって思ってます。


 私が自己紹介も兼ねてその旨を伝えると、カイさんとルカさんが、


「俺達は構わない。そうするべきだとも思っているからな。ただ、雇われている俺達に決定権はない」


「そうね。私達には決められない。それを決めるのは雇い主」


 2人の視線が後部座席へと向けられる。

 ほかにも人がいた?

 ずっと後部座席のほうに背中を向けていたので、気づけなかった。


 私は後ろを振り向く。

 後部座席に2人、女性が座っていた。

 中央に座る女性に私は目を奪われる。


 煌びやかな装飾が施されたティアラと首飾り。

 袖の部分が膨らみ、おへそが出たパフスリーブのトップス。

 ボトムはバギーパンツのようにダボっとしたシルエット。

 

 全てのアイテムがライトグリーンで統一されたその恰好は、着用しているのが可憐な女性というのもあってか、まるでお姫様のようだった。


 その隣に座る女性は、中央に座る女性より幾分シンプルだ。

 まるで御付きの者といった印象を受けた。


「カイにルカよ。その言い方だと、まるで余が反対するかのようではないか」


 中央の女性が立ち上がり、優々たる足取りでこちらへと歩いてくる。

 深紅の髪を腰のあたりで揺らす彼女は私の前で止まり、

 

「湊本四葉と言ったか。余もそなたの同行を歓迎するぞ。一人でさぞかし不安だったじゃろう。共にこのダンジョンの脅威を乗り越え、ポロネを交わそうではないか」


 ポロネ??


「あ、はいっ、そうぇすね。一緒に乗り越えていけたらと思ってぃます。よろしくお願いします。えっと……」


 そこで、女性がはっとした表情を浮かべる。


「余が何者であるか言ってなかったのう。余は、ナユタ・アクレシアじゃ。こちらこそよろしく頼むぞ、四葉」


 アクレシア国。

 王女。


 ……え?

 ええええええっ!?


 アクレシア国といえば、日本の東にある小さな島国だ。

 地理的な位置関係から、政治的にも経済的にも日本と大きな繋がりがあり、お互いがお互いを尊重し合う友好国でもあった。


 日本語がやけに達者だけど、それもアクレシア国にとって日本語が準公用語だからだろう。なんかちょっと変だけど。



【コメント】

 ・!?

 ・ふぁっ!?

 ・アクレシア国の王女さん!!?

 ・どういうこと??

 ・可愛いなぁ

 ・お姫様みたいだと思ったけどマジか

 ・なんで渋谷Bにおるの??


 

 そうですよね。

 アクレシア国の王女様がなぜ渋谷Bにいるのでしょうか?


 って、私、承諾もなしに王女様を勝手に撮ってるっ。

 やばーいっ。


 私は自撮り棒をさっと下に降ろす。


「す、すぃませんっ。無断で撮影してました。今後はもう撮ったりしませんので、どぅか外交問題にはしないでぃただければと……」


「それは大丈夫じゃ。全く気にしとらん。むしろ、余が無事であることを国民に伝えられるのであれば逆に歓迎じゃ。民よ。余は生きておるぞ。安心せい」


 私のライブ配信がナユタ王女の生死を伝えるツール、ですか。

 それはそれで責任重大では!?

 万が一のことがあったら大変なことになりそうですっ。


 あ、そういえばもう一人いましたね。

 その方はこっちに来ないようですが……と見ていると、ナユタ王女が、


「後ろにいるのは私の侍女であるソーラじゃ。今回の強行的なダンジョン探索に理解を示し、同行してくれた友人でもある。そしてカイとルカは、ソーラが選んでくれた最高のダンジョンシーカーじゃ」


 ソーラさんが会釈する。

 こちらに来る気はなさそうだ。


 でも強行的って……。


「最高のダンジョンシーカーがマネキン恐れてバスに隠れていたなんて、笑い話にもなりませんよ。ナユタ王女」


 カイさんが面目なさそうに顔を歪める。


「それは余とソーラを守るためであろう。ここにくるまで白いおじさんと赤いおばさんの人形からだって守ってくれたではないか。お前達は充分に最高のダンジョンシーカーじゃ、うん」


 白いおじさん――カーネラおじさんのことだ。

 赤いおばさんってなんだろ!?


「そうですけど、やっぱり最高のダンジョンシーカーって言われるとみじめになるだけね。うちら銀潜章なりたてだし。それこそ虹潜章の剣聖や、ほら、湊本さんと同じダンチューバーの鳳条星波だったら分かるけど」


 星波ちゃんの名前が出ました!


 ところでカイさんとルカさんが潜章ランクが分かりましたね。

 なりたてとはいえ銀潜章。私も早く銀潜章になりたいですっ。



【コメント】

 ・星波様は最高にして最強!

 ・分かってるね、ルカさんは

 ・剣聖はもはや伝説級だからな・・・

 ・星波様なら確かにバスには隠れんだろうな

 ・轟の技でマネキンは一掃確実

 ・ルカさんとカイさんは銀潜章か。頼もしいね!


 

 ですよね。

 星波ちゃんがいれば……って、いえいえカイさんとルカさんがいればこの難局を乗り越えることはできるはず。


 私も戦力になりたいけど、それには気力の回復が不可欠。

 エナジルの実、どこですかーっ。


 ……ところでナユタ王女が気になることを口にしていた。


 強行的。


 私は聞いてみる。

 何が強行的なのかと。

 するとナユタ王女は驚くべきことを口にした。


「国王である父やその側近に了承を得ずに、この渋谷Bダンジョンを探索しているのじゃ。あまりにも彼らが反対するので、反発心に火が付いたのかもしれんな。ソーラと一緒に潜ることを決めて今に至る。でも楽しいので後悔はしておらんぞ。ぬふふ」


 楽しんでいる場合じゃないですよ!!

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