第75話 私のほかにダンジョンシーカーさんがいらっしゃいました!


 魔法? 

 一体、誰が……。


「おい、お前、立てるかっ?」


 男性の声。

 さっきの魔法は女性の声だったような気がする。

 

 そんなことより――、


 私のほかに、やっぱり人がいたんだ。


 地面に両手を付いたまま、声のほうに振り向く私。

 

 短髪の男性がいた。

 20代後半から30代前半だろうか。

 一般的な剣士の恰好をしたその人が、私に手を差し伸べる。


「あ、ありがとうございます」


 私は両手がふさがっていることに気づく。

 スマートフォンの付いた自撮り棒をエンシェントロッドと一緒に右手で持ち、霊光石をウエストポーチに入れると、男性の手を握った。


「まだほかに人がいたとはな。とりあえず、バスの中に避難だ」


「は、はいっ」


 私は男性に手を引っ張られるようにして、バスの乗降口に辿り着く。


「早く乗ってっ。くそ、あいつら死んでないっ。やっぱり2級武具では、一発じゃ無理ね」


 そこにいたのは、ショートボブの女性ダンジョンシーカー。

 恰好は魔法師のような軽装備。

 こちらの女性は、男性ダンジョンシーカーより幾分若く感じる。

 20代前半だろうか。


 今のを聞く限り、彼女が魔法を使って私を助けてくれたのだろう。

 あとでお礼をちゃんと言わないといけない。


 私がバスに乗り女性も後に続くと、その女性が扉をロックする。

 そこへ焼けただれたマネキンが激突してくる。

 しばらくすると興味を失ったのか、去っていった。


「ふう、みかけによらず狂暴なやつらだ。さっきまで大量にいたときはどうしたもんかと思ったが……あいつらは一体、どこにいったんだ?」


「さあね。一定時間いると別の場所に移動するのかもしれないわね。なんにせよ、2体で良かった。あなた無事? ケガはない?」


 あなたとは当然、私のことだろう。


「は、はい。ちょっと疲れてますけど、ケガとかはぁりません。あの、助けてぃただきましてありがとうござぃましたっ」


 びしっと90度のお辞儀でお礼ですっ。


「お前はどうしてあんなところにいた? もしかして電車と一緒に落ちたのか? 俺達の前に2人くらい歩いていた奴がいたような気がしたが」


 男性ダンジョンシーカーが無精ひげを撫でながら聞いてくる。

 

「そ、そうぇすね。湘南新宿ラインの中を歩いてぃたら地震があって、それで落ちちゃぃました」


「やはりそうか。ん? 一緒にいたお仲間はどうした?」


「ももち、あ、お友達は地震が起きる直前に電車から降りたので、大丈夫ぇす」


「そうか。……そりゃなんというか、災難だったな。ずっと一人で心細かっただろうよ。ここは鉄潜章には難易度が高すぎる。今後は俺達と一緒に行動したほうがいい」


 ん? 鉄潜章??


 私の幼さ、あとマネキン相手に殺されそうになったことからそう判断したのだろうか。

 

 友達が銀潜章以上で、その付き添いで渋谷Bにきた初心者のガキンチョ。

 よく見ると、男性ダンジョンシーカーの顔にはそう書いてあった。


 でも実際、ももちんさんが金潜章だからこそ渋谷Bに入ダンできたわけで、初心者といえば初心者である。


 積極的に訂正しようという気が起きないでいると、話は先に進んでしまった。


「そうえば、あなた。そのスマートフォンを付けた自撮り棒。もしかしてダンチューバーなの?」


 今度は女性ダンジョンシーカーが、髪を耳にかけながら聞いてくる。


「は、はい。ダンチューバーやってます。――って、あ」


 視聴者のみなさんのことを忘れていた。

 私が倒れた後から今までのことを、ちゃんと伝えなければいけない。

 絶対、みんな心配してるだろうから。


 私は、ちょっとすいませんと一言述べると、自撮り棒を持ち上げてスマートフォンのカメラを自分に向けた。


「み、みなさん。ご心配をおかけしました。それと忘れていてすぃません。まずは無事だといぅことをご報告いたします」



【コメント】

 ・お、やっと気づいたかw

 ・やっぱり忘れていたよな

 ・無事っぽいのはなんとなく分かった

 ・誰かいるよね??

 ・放置プレイ♥

 ・ほかのダンジョンシーカーか??



 映像はともかく音声は拾っていたので、無事だということは伝わっていたようだ。


 それはそうと、恩人のダンジョンシーカーさんを紹介しなくては。


「はい、今ここに私の窮地を救ってくれた2人のダンジョンシーカーさんがぃらっしゃいます」私はその2人のダンジョンシーカーに聞く。「あの、映しちゃっても大丈夫ぇすか? 視聴者のみなさんに紹介したいんぇすけど……」


 2人のダンジョンシーカーは顔を見合わせる。

 すると頷いた。


「正直、そういった状況じゃないんだが……まあ、少しなら」


 男性ダンジョンシーカーが代表して了承してくれた。


「ありがとぅございます。えっと、じゃあ、まずは……」私はカメラを女性ダンジョンシーカーに向ける。「私が倒れたとき、襲ってきた2体のマネキンを魔法で足止めしてくれた魔法師さん」


「はぁい。みなさん、こんにちは。ルカっていいます。適性的に〝火〟が合ってるので、炎熱の魔法師を勝手に名乗ってます。みなさん、よろしくね」


 ルカさんが、愛想よくみんなに手を振ってくれた。


 そう、適性。

 魔法はその属性の武具さえあれば基本、誰でも使える。

 

 ただ適性というのがあって、その属性が向いているか否かというのが魔法の威力や効果に影響を与えていた。


 この適性はギルドの手形式という方法で調べてもらえる。

 なんとなく聖属性が適性だと思っている私だけど、もしかして違うかもしれない。

 例え違ったとしても、エンシェントロッドはずっと私の相棒ですが。



 【コメント】

 ・よっちゃん、助けてくれてありがとー!!

 ・ルカさん、きれい!

 ・大人の女性って感じなのがgood

 ・炎熱の魔法師、いいねっ

 ・ルカおねーたん、こちらこそよろしくお願いします♥



 うんうん、ルカさん綺麗ですよね。

 こんなお姉ちゃん欲しかったなぁって今、本気で思ってます。


 続きましては……。

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