第74話 無双ゲームの爽快感ってくせになりますよね。
うそ……っ
私は恐る恐る、周囲に目を向ける。
全てのマネキンが私のことを見ていた。
あ、やばい。
と思った瞬間、
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!!」
私目掛けて、マネキン達が走り詰めてきた。
とっさに私はそこから逃げる。
せっかく前に進んでいたのに、あろうことか後ろへと。
死のマネキン通りの出発点へと戻ってしまった私。
転ばなくて良かった。
それは良かったのだけど、状況は最悪だ。
マネキン達は変わらず、走るゾンビモードで私に猛進してきているのだから。
これはもう、背に腹は代えられない。
あと1回くらいなら大丈夫。
私は私の気力を信じるっ。
「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い
これはシミュレーションの6だ。
マネキンの攻撃方法は食らいつき。
つまり、物理攻撃であることが確定したとき浮かんだ作戦だった。
あのまま瓦礫投げ作戦を続けられると思っていたから採用する気はさらさらなかったけれど――私のバカ。なんで瓦礫落とすかなー。
多数のマネキンが大口開けて、私を噛む。
でも噛んでいるのは私を包む膜のようなシールドであり、痛くもかゆくもなかった。
ただ、その光景が怖気をふるうほどに不気味だ。
このシミュレーション6はセイントシールドで防御して終わりじゃない。
エンシェントロッドでの攻撃も含まれている。
中位魔法の使用は一回で済み、尚且つ無敵状態で私がマネキン達をタコ殴り。
シミュレーション6を採用する気はなかったとはいえ、現状これ以上ない作戦ではあった。
「ちょっとキミ達、私から離れて――くださいっ」
私はエンシェントロッドを、ももちんさんばりにフルスイング。
目の前で咀嚼している3体のマネキンが、派手な音を立てて後方へ倒れる。
1体目は頭が壊れ、2体目は右腕が壊れ、3体目は胴体が真っ二つになっていた。
さすが1級弱の打撃力を誇る杖だ。
クラスBダンジョンのモンスターであっても、ほぼ一撃で倒せるらしい。
勢いづいた私はエンシェントロッドをぶんぶんと振りまわして、次々とマネキンを打ち倒していく。
「えいっ、とりゃぁ、このぉ、たぁっ、うおりゃぁぁ」
破壊されたマネキンが私の周りに積み重なっていく。
え、なんだろ、この感覚。
爽快感バツグンで、めちゃんこ気持ちいい。
そうか、これは――無双。
私は今無双系ゲームの主人公になっているんだ。
四葉無双、最高ですっ。
バキッ、ドカッ、ゴンッ、ベキッ、ズガッ、グシャッ。
という疑問を抱くほどに、いとも簡単にやられていくマネキン達。
やがて全てのマネキンを倒したとき、私はあまりの疲労感から道路に大の字になっていた。いくらエンシェントロッドが軽くても、振り回す行為そのものがきつかった。
だというのに私は――。
ラ、ライブ配信しなきゃ。
ウエストポーチからスマホを取り出してライブ配信の続きを始めようとしていた。
もうちょっと休めばいいのに、四葉無双の結果を早く視聴者のみなさんに伝えたかったのだ。
ライブ配信開始ぃぃ。
「はぁ、はぁ、はぁ、み、みなさん、お待たせしましたぁ。ライブ配信の、再開ぇす。はぁ、はぁ」
【コメント】
・良かった生きてた!!
・心配してたよーっ!
・つーか大丈夫か!?
・めっちゃ疲れてない!?
・一体、何がおきたんや!?
・マネキンはどこいったの??
もちろん、生きてますよー。
死ぬときはたくさんの子供と孫に看取られてって決めてますから。
前にも言ったけっけな、これ。
「す、すぃません。こんな疲労困憊の状態でライブ配信したら、何事かと思ぃますよね。まずマネキンですが、見てください。エンシェントロッドによる四葉無双がさく裂してご覧の通りぇす」
スマホのカメラで、私を中心とした360度を撮影する。
そこら中にマネキンの残骸が転がっている。
これを私がやったことに今更ながら驚いた。
レベルが存在すれば5は上がっていたかもしれない。
【コメント】
・!?
・これをやったの!?
・よっちゃん、すげーや!
・やりすぎだろwww
・四葉無双の映像は・・・ないかぁ
・四葉無双が見たかった!!
四葉無双の映像が見たかったというコメントが多く流れる。
私も撮りたかったです。
でもスマホじゃ無理だったんですぅ。
「うー、それはホントに私もお見せしたかったぇす。ごめんなさぁい。ドローンだったら勝手に撮ってくれたんぇすけどね。なんでドローン持ってこなかったんだろーって、今、めちゃんこ後悔してぃます」
【コメント】
・確かにドローンがあればなぁ
・ソロのときはドローンがいいかもな
・スマホの配信は危ないしね
・配信されてたらバズったと思う
・次回こそは四葉無双の配信頼む!!
・次からはドローン必須やな
そうですね。
次こそはドローンを伴って、また四葉無双をやってみたいと思いますっ。
すごい疲れますけどね。
私は何とか立ち上がると、先へと歩き出す。
まるで四葉無双の副作用かのよう一歩一歩が重く、だるい。
多分、今の私は、相手がマネキン1体でも苦戦するような気がする。
またどこからか湧いて出てくるとも限らない。
早くこのマネキンゾーンから出たほうがいい。
超、ではないやや俊足で私は道路の終点を目指す。
周囲に転移門がないか探しながら。
湘南新宿ラインと共に落ちてから、結構な時間を歩いている。
でも未だ転移門は見つからなくて、さすがにちょっと不安になってくる私。
道路の終着がダンジョンの終着だったらどうしよう。
実際、その可能性は高いような気がする。
地震でダンジョン崩落に巻き込まれた人のほとんどが、閉じ込められたまま生を終えているのだから。
だめだめだめっ。
そんなネガティブな思考が、最悪の状況を呼び寄せるんだから。
ほら、言ったそばからマネキンが2体湧きましたっ。
でも音を立てなければ大丈夫。
私の足が道路の破片を踏み、ガシャンッ。
ひいいいいっ。
戦っても勝てる気がしない。
私は逃げる。
ガクンと膝が折れ、前に倒れた。
あ、まずいかも。
「ファイアウェイブッ」
誰かの声が聞こえ、迫りくるマネキンが炎で燃え上がった。
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