第73話 必勝法は誰もが想像つくものだったようです(笑
やはり、〝動く〟というのが厄介だ。
直線距離は200メートルはありそうだけど、道路の横幅は12、3メートル。
そこで数十体ものマネキンが規則性のない動きをしていたら、けっこうな確率で私に当たるような気がする。
当たっても声を出さなければ大丈夫なのだろうか。
ううん。多分ダメ。
往々にして敵から隠れて進むゲームは、その敵と接触した時点で襲い掛かられるのだから。
いや、それゲームじゃん。
自分の分析に自分で突っ込む私。
でもやっぱり……と思い直す。
現実ではあるものの、ダンジョンはファンタジー且つ、ゲーム的な側面を私達に見せてくる。
モンスター、奥義、魔法、宝箱、罠、武具――などなど。
ここまでゲーム的である以上、やはり〝接触した時点で襲い掛かられる〟というのは充分にあり得る。てゆーか絶対にそう。
そうなると、抜き足差し足忍び足で歩いている場合じゃないような気もする。
じゃあ、どうする?
私は脳内でその他の行動をシミュレーションする。
1
「やっぱり超俊足で駆け抜けようっ」
私はポン吉さんの助言を無視。
超俊足で走る。
マネキンの動きに気を取られ、地面の段差に足を引っかけコケる。
派手に音がなり、集まってくるマネキン達。
タコ殴りにされる私。
やっぱりだめっ。
次!
2
「やっぱり魔法を使っちゃおうっ」
私はまとわりつく倦怠感を我慢。
ヴァニシングノヴァを唱える。
何体か倒した。でも2回目を唱えたところで私はガス欠になる。
その場で倒れて動けなくなる私。
餓死するまでそのままだった。
だから魔法はだめだってっ。
次!
3
「引き返して別の道を探そうっ」
私は眼前のマネキン達にバイバイ。
途中、カーネラおじさんと遭遇。エンシェントロッドでぶっ叩いて倒す。
湘南新宿ラインまで戻った私。
途中に別の道はなかった。
時間切れ!? でも時間の無駄なのは確かっ。
次!
4
「よし、一体づつ暗殺していこうっ」
私は一番近くのマネキンに近づく。
エンシェントロッドを構える。
後ろからマネキンの頭を思いっきりぶん殴り、倒れたところをまたぶん殴る。
これ、暗殺じゃないことに気づく私。
音に気づいてタコ殴りしにやってくるマネキン達。
暗殺とかやったことないしっ!
次!
5
「 」
なんにもでなかった。
そんな……。
全てのシミュレーションを出し切ったというのに、打つ手なしだなんて。
もうこうなったらそこらへんの道路の破片を投げて、その音にマネキンの意識を向けさせる方法しか残されていないんだけど。
……。
それでいいじゃんっ!
私はなんてアホなんだろう。
むしろ、最初にその方法を思いつかなければならなかったのに。
今頃出てくるシミュレーションの5。
それは〝視聴者のみなさんに聞く〟であり、そのコメントのほとんどが〝物を投げて意識を逸らせ〟というものだった。
あぶないあぶない。
視聴者のみなさんにもバカにされるところだった。
やるべきことも決まったので早速、私は落ちている道路の破片を手に取る。
ほどよい大きさだ。
あとは遠くに投げて、且つ大きな音を鳴らせればいいだろう。
左のほうに赤い車がある。
あれを狙おう。
私は振りかぶって――投げる。
ガァァァァンッ
右のほうのマネキンに当たった。
ひいいいいっ。
そうです。私、ピッチング苦手なんですっ。
当てられたマネキンがキョロキョロとしている。
破片がどこから飛んできたかは分かっていないようだ。
良かったぁ。
ほっと胸をなでおろしたそのとき、
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!!」
その他のマネキン達が殺すの大合唱で、破片の当たったマネキンに群がる。
するとゾンビみたいに食らいついた。
えええええっ!?
バリッバリリッ、バキッベコッバキャッ、グチャグチャゴチャァ……。
やがて、その他のマネキン達が去っていく。
そこに残されていたのは、原型を留めない白い肉塊のようなもの。
まさか、よくあるゾンビ映画ような光景を目撃するとは思わなかった。
ぞっとする私。
それにしても仲間まで襲うとは……。
でもこれはいい発見をしたと思わず笑みが出た。
車に当たって大きな音がでてもオッケー。
マネキンに当たって食らいつかせてもオッケー。
どちらかといえばマネキンが減る後者だろう。
しかもそれを続けていけば、いずれマネキンは1体になる。
そうなってしまえば、それこそ超俊足で逃げるだけだ。
プランの決まった私は道路の破片を手にすると、別のマネキンに向けて投げつける。
ガアアアアンッ
青い車に当たった。
その青い車に群がるマネキン達。
でもかじれない車だと理解したのか、すぐに散っていった。
集まるのも早ければ散り散りになるのも早い。
その点、マネキンに当てると食らいつくので比較的長い時間、そこにいてくれる。
ゆっくり歩いて進むことを考えれば、やっぱりマネキンに当てるべきだろう。
よーし。
私は瓦礫を拾って車に向かって投げる。
近くのマネキンに当たった。
ふふふ、名付けて、〝車を狙ってマネキンに当てる作戦〟
ピッチングで明後日の方向に飛んでしまう、私ならではの作戦だ。
――30分後。
この作成が功を奏してか、マネキンの数はすでに半分くらいまで減った。
残りはだいたい30体か。え、まだ30体もいるの……。
休憩を終えたばかりだというのに、すでに疲れている。
なんども瓦礫を拾っては投げているからだろう。
ふうぅ。
だからといって止めるわけにもいかない。
私は何度目かの瓦礫拾いをする。
上体を上げる私は、ふと違和感を覚えた。
100メートルほど先にバスがあるのだけど、そこだけ明かりが強く感じられたのだ。
バスの中? バスの中に霊光石がある?
気になりながらも私は瓦礫を投げようと手を――、
視界の端でバスの中の光が動いた。
集中力が散漫になり、手から瓦礫がするりと落ちる。
ガシャンッ
私の足元で大きな音が鳴った。
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