第71話 エナジルの実、宝箱の中に入ってないかなぁ。


「みなさん、ごめんなさいっ。みなさんが必死に、カーネラおじさんが動ぃて襲い掛かろぅとしてるって教えてくれてぃるのに、私ったら……。なんか意固地になっちゃって本当、すいませんぇしたっ」


 

【コメント】

 ・謝んないで、よっちゃん!

 ・よっちゃんが謝るのはおかしい

 ・幽霊でだました奴、謝っとけ

 ・すいませんでした!!

 ・悪ノリが過ぎた。ごめん

 ・マジで謝罪します。ごめんなさい

 ・赤スペの人もありがとー!!



 良かった。

 視聴者さんとの間に溝ができなくて。

 いつも通りの関係に戻れればそれでいい。

 

 多分、こういったことを乗り越えて、配信者と視聴者の絆も深まっていくんだろうなとも思えた。


 それと――


「そぅですっ、スぺチャで謝罪してくれた方、本当にありがとぅございますっ。ああやって目立つ形にしてくれたことで、私の意識がカーネラおじさんに向きました。あのスペチャがなかったらと思うと、ぞっとしますね。本当にありがとうござぃましたっ」


 そのスペチャはコメント欄から消えていた。

 本来1時間は残るはずだから、コメントした視聴者の方が自分で消去したのだろう。


 名前はなんだったっけ。

 1万円ものスペチャをしてくれたのに覚えていない私。

 会って90度の謝罪をしたいくらいだった。



 ◇



 その後、私は安全な場所で10分ほど休憩した。

 リカバルに近い効果はあったけれど、やっぱり気力の回復はできなかったようだ。

 それは感覚的に分かっていて、この感覚を養うのも大事な気がした。


 でも本当にエナジルの実、どっかにないかな。


 あるとすれば宝箱の中か。

 その宝箱がどこにもないんぇすけどねぇ。


 私は休憩のため静止画にしていた映像を、カメラに戻す。

 モードはコメント拡大モードのままでいいだろう。

 

「みなさーん。それでは休憩を終えて先に進もうと思ぃます。お待たせしてすぃません。おかげ様で体力は回復しましたっ」



【コメント】

 ・お、休憩終わったか

 ・このまま始まらないかと不安になってた

 ・きっちり10分だな

 ・暇なんでシャワー浴びてたわ

 ・よっしゃ、脱出脱出っ


 

 そうですね、脱出ですっ。

 すぐにでも転移門が見つかればいいんですけどね。

 あとはやっぱり宝箱があると嬉しいな。


 私は休憩していた四角い物体から腰を上げる。

 なんとなく丁度良さそうなので座っていた物体。

 改めてよく見ると、汚れの下に装飾が見える。


 汚れを拭いてみる。

 宝箱だった。


「み、みなさん、宝箱を見つけましたっ。なんか私、ずっと座ってたみたいぇす。宝箱なぃかなぁって思った矢先に大発見っ。灯台下暗しとは、こぅいうことを言うんぇすかねぇ。いやぁ、びっくりしました」



【コメント】

 ・まじかw

 ・気づかないものなのか

 ・確かに腰を下ろすにはいいかもしれないが

 ・なんという幸運!

 ・いきなり開けないようにっ

 ・ダンジョン語を探そう


 

 大丈夫ですっ。

 さすがにいきなり開けるようなことはしません。

 宝箱関係が一番、ダンジョン罠が多いですからね。


 重量の変化で作動する罠じゃなくて良かったと、内心ほっとする私。

 さて、肝心のダンジョン語はどこかなと探してみれば、宝箱の前の地面に書いてあった。


 えっと何々……。


 ダンジョン語について勉強はしている。

 とはいえ、まだ翻訳書がないと分からない箇所のほうが多々あった。


 テ デ フレズニ アケヨ


 手で触れずに開けよ。


 つまり手で空けてしまった場合、なんらかの罠が作動するのだろう。

 その罠が気になるけど、試すなんてことは当然しない。


「手で触れずに開けなさぃって書いてありますね。普通は手で開けるものぇすけど、さてどぅしましょうか」



【コメント】

・手がだめなら足か

・足で蹴ってみる?

・頭??

・エンシェントロッドでもいいんじゃね?

・そこらへんの石とかでもよさそう


 

「色々出ましたけど、エンシェントロッドの先端を使ぅことにしますね。先端を引っかけて、下から上に持ち上げるよぅにすればおそらく開くかと……」


 宝箱は基本、鍵の類はない。

〝施錠していなので罠が怖くなければ勝手にどうぞ〟というスタンスだ。


 なのでエンシェントロッドの先端をこじ開けるように差し込んでから、てこの原理を使用すれば開くはず。

 果たしてその思惑はうまくいき、宝箱は開いたのだった。


 中を覗く私。

 そこにはショートボウとたくさんの矢が入っていた。

 

 宝箱の蓋の裏を見ると、ダンジョン語発見。

 解読した結果、このショートボウは2級武具のライトニングボウだということが分かった。


「ライトニングボウみたいぇすね。確か雷属性の武器だったよぅな気がするのですが、知ってる方合ってますぇしょうか」



【コメント】

 ・合ってるはず。ライトニングだしね

 ・そうだよ。それで間違いない

 ・2級なら轟の技まで使えるな 

 ・クラスB相応のダンジョン遺物だね

 ・よっちゃん使うの?


 

 そっか。ライトニングが稲妻という意味だったっけ。

 エナジルの実でなかったのが残念だけど、悪くない武具だ。


 但し、おそらく私には扱えない。

 物理攻撃系の武具の中でも、特に弓はある程度の熟練度が必要だ。

 今の私が使っても、放つ矢は全て明後日の方向に飛んでしまうだろう。

 あるいは飛びもしないか。


 練習する?

 でも遠距離攻撃は魔法で事足りるしなぁ。

 今はとにかく先に進んで、転移門を探すべきだよね。


「このライトニングボウなんぇすけど、今の私には扱えなぃしそれにエンシェントロッドもありますので、とりあぇず持っていくだけにします。後日、別のダンジョンで練習するかもです」


 私はライトニングボウと、矢の入った筒を肩にかけた。



【コメント】

 ・特級武具、持ってるしね

 ・矢を放つよっちゃんもそれはそれでいい

 ・うん。今は脱出のことだけ考えよう

 ・弓は難しいもんな、実際

 ・ひのきの棒切れよりかは相当マシだけどなw


 

 誰かに譲ってもいいかな。


 でもその誰かが全く思いつかない私だった。

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