第69話 渋谷といえばこのモミュメントですよね、はい。
ある程度、歩くと霊光石の光が届かなくなってきた。
ここから先は暗視の能力でもない限り、別の霊光石が必要となる。
ただ、落ちている霊光石を持ち歩けば終始、光の恩恵に預かることができる。
本来許されることではないけれど。
実際、ギルドの策定したルールで、
【置かれた霊光石を拾って持ち歩くことは原則許されない】
とある。
とはいえ原則なので、のっぴきならない状況に置かれたときは持っていってもいいと暗に認めている部分はあった。
私ももし、今霊光石を持っていなかったらルールに背いていただろう。
誰だって生きるための選択肢を決して諦めはしないだろうから。
私はウエストポーチから取り出した霊光石を、緩衝材を取り外したのち指で2回叩く。
ぱああぁぁ、と淡い青の光が一気に拡散する。
私を中心に、半径100メートルほどの視界が目視可能になった。
右手にエンシェントロッド、左手に自撮り棒。
もう一本手が欲しいところだけどないので、自撮り棒と一緒に握ることにした。
左手が疲れてきそうなので、立ち止まって何かするとき霊光石は地面におくことにしよう。
地震の影響なのか、上で歩いていたときよりも建物の崩壊具合が激しい。
まるで、なんでもかんでも飲み込んでしまう超巨大ヘビの食道を通っているかのような、カオスな空間。
こ、これは……。
私は唾を飲み込む。
ライブ配信のし甲斐があるっ。
私は周囲にモンスターがいないか入念にチェック。
なんといってもライブ配信は、〝ダンチューバーがモンスターに殺されるきっかけとなる行いナンバーワン〟である。
ドローンがない今、モンスター警戒アラームだって鳴りはしない。
よって、自分の目で、耳で、なんなら鼻も活用してモンスターがいないことを確認しなければならないのだ。
そんなことまでするならダンチューバー辞めちゃえばいいじゃん。
なんて声が聞こえてきそうだけど、配信するのが好きなのだからしょうがない。
それが唯一の答えだった。
でなければ、同接ゼロの配信時にとっくに心が折れていたはずだ。
どうやら周辺にモンスターはいないようだ。
私はスマホのカメラを四方八方に向ける。
「いやぁ、すごぃことになってますね。みなさん、見ぇてますか? 建物がぐっちょぐちょのめっちゃくちゃです。渋谷の喧噪をなんかこう、物体的なあれでうまく表現した感じぇすねぇ。いやぁ、すごぃ光景です」
【コメント】
・ぐっちょぐちょっ!?
・表現がちといやらしい
・ぐちゃぐちゃだろw
・建物溶けてんのか
・物体的なあれとか草
・よっ散歩始まってる!?
・あ、いいなこの感じ
そうですね、これはよっ散歩かもしれません。
名付けて、よっ散歩渋谷B未踏の領域編です。
ちょっと捻りがないけど、そこはシンプルに。
いや長いかな。別にいいや。
私は渋谷Bダンジョンを歩いていく。
それにしても情報量が多い。
今までオーソドックスなダンジョンしか潜っていなかったから尚更、視線が落ち着かない。
一括りにダンジョンと言っているけど、その系統は
【天然系】
一切、あるいは加工されていてもほんのわずかである洞窟。
【混成系】
装飾などが多々用いられ、あらゆるところが加工されている洞窟。
または現代の建物が入り込んでしまっている洞窟。
【原生系】
原生林や湿地帯、砂漠など多様な生態系が含まれた自然に満ちた洞窟。
【文明系】
地球ではないどこか(異世界?)の文明で構成されている洞窟。
と、概ね4つに分類される。
圧倒的に多いのは天然系だ。
クラスCとDはほぼ、この天然系の洞窟となっている。
クラスBから混成系がちらほらと出てくるのだけど、渋谷Bはこの混成系だ。
しかもかなりのごった煮で無秩序の混成具合。
今度はもっと整然とした混成系洞窟に行ってみたいと思う私だった。
それこそエンドラさんの神殿のようなあんな感じの。
いや、あれは文明系なのかな。
っ!?
思考がぶっとび、私はぎょっとする。
とても大きな顔がこちらを見ていたからだ。
モンスター!?
身構える私だったけど、その正体を知って一気に力が抜けた。
「み、みなさん、大変なものを見つけてしまぃましたっ。ほら、あれですあれっ。
ハチ公像と同じくらぃ有名なモヤイ像です。あ、ごめんなさいっ、モアイ像ぇすね、モ・ア・イ像。相変わらずの舌足らずでもうしゃけぁございません」
【コメント】
・いや、それはモヤイ像であってるからねw
・モヤイ像が正解だよ
・モアイ像はイースター島にあるやつね
・ダンジョンにあると不気味だな
・よく彼女と待ち合わせしたなぁ・・・
・もう鮭はございません??
え? モヤイ像で合ってたんだ。
なんでモヤイなんだろう。
私みたいに舌足らずな人が命名したのかな?
ふぅ、でも驚いた。
ダンジョンで巨大な顔とか、心臓が縮み上がりますっ。
先に進むと、カオスな状態がやや落ち着いてくる。
それでも依然、現代文明の残骸がそここにあって、混成具合は相変わらずだ。
少し疲れたこともあり、ちょっと休むことにした。
アシュラボゥイとのバトルが思いのほか、私の体に疲労を蓄積させていたようだ。
リカバルを使えばいいのだけど、今は少しでも気力の減少を防ぎたい私。
タイミングよく視界に入ったソファに座ることにする。
どこかのお店のだろう。
なかなかゴージャスなソファだ。
さぞかし座り心地もいいのだろう。
10分も座って入ればリカバル並みの効果は期待できるかもしれない。
「みなさん、ちょっとそこのソファで休んでぃきますね。バトルの疲れがまだ取れていないよぅでして、なんかすぃません」
【コメント】
・うん、無理しないで休もう
・休憩は大事だからね
・モンスターには注意だよ!
・喋らんでもいいからな
・アシュラボゥイ戦見たけど激戦だったもんね
・休めるときに休もうっ
ありがとう、皆さん。
ではお言葉に甘えて休ませてもらいますね。
ソファに腰を下ろす私。
なんとなく横を見ると、奥のソファに座っている人がいた。
誰かいたっ!?
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