第66話 なんとなく気になる4人組が同じ電車に乗っていました。


 2人がかりとはいえ、レベル470のアシュラボゥイを倒した。

 隻眼のオゥガを単身で倒したときの達成感には及ばないものの、この高揚感はとても心地いい。


「四葉ーっ」


「やったっ、やりましたよ、ももちんさーん」


 両手を上げて走ってくる血だらけのももちんさん。

 乾いていない血で全身をギラッギラにてからせながら。

 

 ハ、ハイタッチならいいか。

 と思ったら全力で抱きつかれた。


 きゃあああっ。


「ごめんねー、2本逃しちゃって。でも四葉なら魔法で倒してくれると思ってたよーっ」


「は、はぃ、しっかり倒しましたっ。……うっ」


 めちゃんこ、くっさーいっ。

 で、でもこの状況は臭い耐性上げる大チャンスかも。


 ももちんさんが私の手を取る。


「ねえ、ボク達ってさぁ、けっこういいコンビじゃない?」


「え? あ、そぅ思ってくれるなら嬉しぃです。……うッ」


「ボク、ソロがいいってわけじゃないんだけど、どんどん組んでくれる人いなくなっちゃてさー、いつの間にか星波みたいなソロを愛する人扱いされちゃってんだよねー」


 いなくなる理由は分かりますっ。

 でも正直には言いません。


「そ、そうなんぇすか。ももちんさんなら頼りになると思うんぇすけどね。……うぅっ」


「だよねーっ。だから今度から2人でダンジョンに潜るってなったとき組まない? 四葉は銀潜章並の実力はすでにあると思うし、それになんてったって魔法が使える。最強のコンビになれると思うんだけど、どうかなー?」



【コメント】

 ・おー、それはいい提案

 ・さんせーさんせー!

 ・物理と魔法のブレンド具合もいいしね

 ・よっちゃんは確かに銀潜章並だと思う

 ・最強伝説が渋谷Bから始まる!?

 ・ももよつコンビの語呂もいい

 


 花婿さん達は歓迎ムード。

 それは嬉しいし感謝ですっ。

 でも……。


 ふと、星波ちゃんの顔が過る。

 それだけで充分だった。

 私がコンビを組むなら、その相手は絶対――


「す、すごく嬉しぃです。で、でもごめんなさい。た、たまにならいいぇすけど、正式なコンビとかはその……ごめんなさいっおええええええ」


 申し入れを断るためのお辞儀で私は

 吐しゃ物が出やすい角度になってしまったらしい。

 あのとき全部出したと思ったのに、まだこんなに出すものがあったなんて。


「は、吐くほど嫌だったっ!? そ、それはちょっとショックゥゥゥゥッ」


 

【コメント】

 ・そういうことだよね?

 ・そこまで嫌なのか

 ・最大級の拒絶でたな

 ・ももちん悲しんでる・・・

 ・よっちゃん、いくらなんでもそれは


 

 やばーいっ。

 ももちんさんと花婿さん達の誤解を解かなくてはっ!


「ち、ちがちが、違ぃますっ。こ、これはあまりぃも血の臭いを嗅ぎ過ぎて我慢できなくて、それでお辞儀で胃から食道の角度がいぃ感じになっちゃって、吐いちゃっただけぇすっ。間違っても吐くほど嫌とか、そんなことはぁりませんっ!!」


 私の必死の弁明の甲斐あってか、ももちんさんと花婿さんは納得してくれた。

 血の臭いへの耐性は40パーセントくらいだろうか。

 クリアの魔法はまだまだ必須のようです。


 私は本日、3度目のクリアを使うのだった。



 ◇



 私とももちんさんは湘南新宿ラインの中に入っていく。


 入ってみて分かったのだけど、一車両毎に不規則に傾いていて非常に歩きにくい。

 しかも車内は割れた窓ガラスの破片や入り込んだ土や石などが散乱していて、足の踏み場がないと言ってもおかしくない状況だった。

 

 さっさと先頭車用?に行って電車から降りたい私。

 でも超俊足を使うたびにつまづいてコケるのが分かるので、ゆっくりと下を向いて歩いていくのだった。


 あと3両で先頭車両というところで、私はふと後方に視線を向ける。

 すると4両後ろくらいに4人の人が見えた。


「ももちんさん、後ろのほうに誰かぃますね」


「あ、本当だ。まあ、いても不思議じゃないけどねー」


 それがどうしたのって感じだ。

 元々、入ダンするダンジョンシーカーが多い渋谷Bだから、確かに取り立てて気にすることもない。


 なのになぜか気になってしまったのは、明らかにダンジョンシーカーっぽくない人が2人混じっていたからだ。


 残りの2人(男女)はそれっぽい武具を装着しているので、ダンジョンシーカーだろう。


 ツアーかな?

 だったら分かるけど、こんなところ通るかな。

 何かあった場合、対処がすごく難しいと思うのだけど……。

 

 気にしたところで4人の行動が何か変わるわけでもない。

 せめて彼らがこの先で危険な目に合わないように、と願うのみだった。


 

 ◇



「よっし、着いたー。四葉も早くー」


 ももちんさんが先頭車両で私を呼んでいる。

 あんな大きな斧を持っているのに、よくスムーズにそこまで行けましたね。


「ご、ごめんなさい。やっぱなんか歩きにくくて――のわっ!?」


 視線を前にした瞬間、じゃりで足を滑らせコケる。

 

 それに比べて私と言えば、転んだのはこれで4回目だ。

 本当に早く電車から出たい。

 

 というより、なんで先頭車両まで行かないと出れないのでしょうか。

 窓から外を見る私はそこで理由を知った。


 電車の両側は歩ける場所がどこにもないのだ。

 つまり崖のようなところに電車がうまく乗っている状態。

 なので歩行可能なのは、先頭車両と後尾車両の先にしかなかった。


 ある意味、橋とも形容できる湘南新宿ライン。

 

 これ、下手したら崖の下に落ちたりしそう……。


 なんてことを思った刹那。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!


「きゃっ」


 地鳴りとともに揺れが発生する。

 さきのとは比較にならないほど大きな地震。


 やばい。

 この状態での地震は――っ!


 視界がぶれる。

 と思ったら体が宙に浮き、右のドアにぶつかった。


 四葉あああぁぁぁぁッ――……


 ももちんさんの声が聞こえる。

 そのあとのことはよく覚えていない。

 気づいたときには、私は座席の上で仰向けになっていた。

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