第65話 熱戦、烈戦、超激戦の様相を呈しております!
自分の頭なのに打撃を加えないと面は変えられない。
その衝撃的事実に驚きつつ、私は急いでアシュラボゥイの元へ走る。
でも一足遅かった。
こちらを向くアシュラボゥイの面、それはすでに〝悲しみ〟ではなかった。
〝恥じらい〟
私の記憶によれば、それは本体同様に一切の攻撃が効かない状態にする面だ。
はっとして私は、4本の手を相手にしているももちんさんのほうを見る。
ももちんさんもこっちに顔を向けた。
「あっれ、攻撃効かなくなってるーっ。また〝喜び〟になった?」
「い、いえ、〝恥じらぃ〟ですっ」
「マジ? じゃ、物理も魔法もだめじゃん。ぶっ叩いて面変えて」
「わ、分かりましたっ」
私はアシュラボゥイ本体の顔を……って、いない。
あれ? どこにいった??
私は周囲に目を向ける。
すると突出した岩の後ろで身を潜めている本体がいた。
ちらっとこっちを見て、さっと隠れる本体。
え、可愛い。
と思った私は、アシュラボゥイの術中に嵌められそうになっているのかもしれない。
だめだめっ、あれはモンスター。
ぶっ叩いて面を変えないとこっちがやられちゃうっ。
私は超俊足でアシュラボゥイのところへ高速移動。
まさかそんなに早く来るとは思っていなかったのか、体をびくっとさせるアシュラボゥイ。
可愛いけど――面、変えさせてもらいますっ。
私はエンシェントロッドを振り下ろす。
でも当たらない。
アシュラボゥイの動きが思いのほか早くて、逃げられたのだ。
でもまた追いかけて、叩けばいいだけのこと。
私は、別の岩の後ろに隠れているアシュラボゥイの元へ走り寄る。
そしてエンシェントロッドで頭を叩く――けど、そこにはすでにアシュラボゥイはいなくて、むなしく空振りする私だった。
えーっ、当たらないんだけどっ。
ももちんさんも面を変えるまで時間が掛かっていたような気がしたけど、こういうことだったのか。
「四葉、まだーっ?」
そのももちんさんに急かされる私。
「ご、ごめんなさいっ、けっこぅすばしっこくて……っ。すぐに追いつけるんぇすけど、そのぁと振りかぶって叩こうとすると逃げられちゃぅんですぅ」
「あー、振りかぶってんだ。突進して突く感じにしてみ」
突進して突く感じ。
確かにそれなら振り下ろす時間を省略することができる。
超俊足の勢いで突けば、面を変えるくらいの打撃を与えることだって可能だ。
よーしっ。
私は岩陰の後ろにいるアシュラボゥイに、螺旋を描くように突進。
本体に気づかれた。
でもそのときにはすでに、エンシェントロッドの先端が頭にヒットしていた。
「アガガガガガガッ」
奇声を上げるアシュラボゥイの顔が回転する。
やがて止まる顔。
正面にでてきた面は〝怒り〟だった。
〝怒り〟
その面は、手の攻撃力・防御力・俊敏さを大幅に増加させる……だったような。
攻撃の全てが無効ではなくなったけど、いい面とは言い難い。
一応、ももちんさんに聞いてみよう。
「ももちんさーん、〝怒り〟の面ぇすけど、どうしますっ? このままいけそぅですか?」
「その面でオッケーっ。うおりゃぁぁ、アダムス・ダダーンッ!」
アシュラボゥイの能力底上げもなんのその、ももちんさんのフルスイングが3本目の手を撃破する。
「私も加勢しますっ」
「だめだめ、四葉は本体担当ーっ」
「え? ……あっ」
そうだ。
アシュラボゥイは自分で面を変えられるんだった。
劣勢と見れば、また壁に頭を打ち付けて面を変えてしまうかもしれない。
ガンガンガンガンッ。
壁に頭を打ち付けているアシュラボゥイ。
って早速変えてるううううううっ!?
アシュラボゥイの顔が回転。
出た面は〝無表情〟。
無表情っ!
無表情……。
無表情の面ってどんな効果があったっけ?
刹那、ももちんさんのいる場所で異変が生じる。
壁と地面、そして天井から新たな手が3本出てきたのだ。
無表情の効果を思い出す私。
それはリセット。最初からやり直し。
「ももちんさん、リセットされちゃぃましたっ。復活した手に気を付けてくださいっ!」
「リセットォっ? マジかー」
「ご、ごめんなさぁいっ」
「いやランダムだし、しょうがないっしょ。――ってことは、手に掛かっている効果も全てリセット。これっていいじゃんっ」
「え? いいんぇすか?」
「だって6体分の血を浴びれるし♪」
めちゃんこポジティブ思考っ!
「四葉。……そいつの面、絶対変えさせないで」
ももちんさんの雰囲気が変わった。
何か大きな攻撃の予感を抱く私。
アシュラボゥイは今のところ、岩の影に身を潜めて様子を見ているだけだ。
また手が苦戦し始めたら面を変えるに違いない。
私はアシュラボゥイの動きを注視しながら、ももちんさんを視界に入れる。
6体の手の攻撃をその場にいながらはじき返すももちんさん。
すごい――と思った私はもしかたら失礼なのかもしれない。
だってももちんさんは金潜章のダンジョンシーカー。
クラスSのダンジョンだって踏破できる実力者なのだから。
6本の手が様子を見るようにももちんさんを囲む。
何かのタイミングで一斉に攻撃を仕掛けそうだ。
ももちんさんがラブランデスを構える。
その構えが野球のバッターの構えであるのは御馴染みだ。
だけどそれは、最近どこかで見たことがあるような構えだった。
私が知ってる人? え、誰だろ。
おぼろげに脳裏に過るけどはっきりとは出てこない。
そこに、ある種の気持ち悪さを抱いたそのとき――、
6本の手が一斉にももちんさんに襲い掛かった。
同時にももちんさんも動く。
「極の技――
大谷笑兵っ!
そうそう、その人っ。
ももちんさんの、いつもより力のこもったフルスイング。
通常の竜巻よりも暴力的な風の斬撃が巨大な手を切り刻む。
赤く染まるハリケーンの中で、ももちんさんが構えを右から左へと逆にする。
そしてもう一度、渾身の大振り。
二倍超の大きさとなった荒ぶる旋風が、終わりだとばかりに手に追い打ちを掛ける。
風が止んだとき、手の全てが消えていた。
血の豪雨を全身で浴びるももちんさんがはっきりと見えたとき、その彼女が私に向かって叫んだ。
「2本逃げたっ。気を付けてっ」
手が2本逃げた。
私のほうに来るかもしれない?
だったら対処するけど、その前に――、
私は壁に頭を打ち付けて面を変えようとしているアシュラボゥイに走り寄る。
でも顔を叩きはしない。
また〝無表情〟がでてリセットの可能性もあるから。
だから私はアシュラボゥイの足を叩いた。
倒れるイレギュラーモンスター。
壁から飛び出てくる、血だらけの2本の手。
私を捕まえようと迫ってくる。
私を捕縛してから面を変えようという魂胆だと思った。
でもそうはさせない。
「更なる付与を授からん――ヴァニシングノヴァッ!」
発射される4つの光が2本の手と正面から衝突。
ヴァニシングノヴァの光が拡散して散ったとき、2本の手もまたその存在をこの世から消していた。
「ア、ガガガガガ、ガ……ガ……」
本体が力なく、くずおれる。
私とももちんさんはアシュラボゥイに勝利した。
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