第64話 また新しい魔法、使っちゃいますッ。


「避けて、四葉ッ」


 そのつもりだった私は超俊足でその場から離れる。

 次の瞬間、地面から巨大な手が2本飛び出してきた。

 まるで獲物を捕まえるかのような仕草で。


 私は左へ、ももちんさんは右へと避けたけど、まだ終わりじゃない。

 手は6本ある。


 壁から生えてくる2本の大きな腕。

 その2本の手が私を捕獲しようとする。

 けど私は捕まらない。


 エンシェントブーツが、まるで体の一部のようになっていると感じる私。

 それは感動的で、ちょっとやそっとじゃ捕まらないと確信すらできた。


 ちょっとやそっとじゃなくても、捕まったら最後なんですけどね。


「やるじゃん、四葉。やっぱ、特級武具ってすっごいねー」


 と喋りながら、ラブランデスで迫りくる腕3本をかっとばすももちんさん。

 ダメージこそ通らないけれど、ああも簡単にはじき返されてはアシュラボゥイも屈辱だろう。


「はいっ。特級武具様様ぇすね。あ、あの、今なら魔法は効きますよね?」


「ガッツリ通るよ。やっちゃって、四葉」



【コメント】

 ・やっちゃいましょう、よっちゃん

 ・やっぱり魔法師必要だよな

 ・聖魔法だっけ? 見たーい

 ・ホーリーなんちゃら使っちゃえ

 ・物理がダメなら魔法。これ定説です

 ・ホーリーバレンタインなら一瞬じゃね?



 ホーリーヴァレスティはすいません。使いませんっ。


「了解ですっ」


 さて、どの魔法にするかな……と考え始めたとき、ももちんさん担当の3本の手までが私に襲い掛かってきた。


 えええええええっ!?

 

 絶対、私のほうが弱いと判断したに違いない。

 それは事実なのだけど、なんとなく腹の立つ私だった。


「四葉、なんかごめんっ。でもこれってチャンスじゃん」


 チャンスなのは確かだ。

 それも二重の意味で。


 とはいえ、倍に増えた6本を相手にするのはちょっときつい。

 超俊足とはいえ、そもそも動体視力が追い付かない。


 やばいやばいやばいっ――と焦る私の後ろには、幸いにも100メートルほどのスペース。

 

 まずは念のためにあの魔法を掛けておこう。

 中位魔法なので気力の消費が大きいけど、相手はレベル470の強敵。

 それにダンジョン踏破するわけでもないので、多少の倦怠感もどんとこい。


 と判断した私は6本の巨大な手が迫る中、魔法を唱える。


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――セイントシールドッ!」


 詠唱を終えたそのとき、私の体に光の膜ができる。

 

 セイントシールドは物理攻撃を一時的に無効にする魔法だ。

 光の膜が全ての物理攻撃をガードして、絶対に私までダメージを通さない。

 物理攻撃しかしてこないアシュラボゥイには最適な魔法だろう。


 実際、どんなものだろうと6本の手の攻撃を受けてみる私。

 殴られても、叩かれても、チョップされても、つねられても、引っ張られても、投げられて壁にぶち当てられても平気だった。


 セイントシールド、最高ですっ!


 ダメージはないけど、やられっぱなしではいたくない私。

 なので当初の予定通り、攻撃系魔法の詠唱を開始。


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――ヴァニシングノヴァッ!」


 隻眼のオゥガ戦で大活躍したヴァニシングノヴァが、4つの弾丸となり飛翔する。

 その全てがアシュラボゥイの3本の手に着弾。

 痛みからなのか、3本の手がその場で暴れる。


 すると奥からももちんさんがやってきて――、


「烈の技――フェニックス・ロドリゲスッッ」


 烈の技を発動させた。



【コメント】

 ・フェニックス・ロドリゲスの本名は

 ・フェニックス・エマニュエル・ロドリゲスで、出身は

 ・アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市ブルックリン

 ・元プロ野球選手で今は野球解説者。愛称は

 ・B-ロッド

 ・です



 フェニックスさんの説明はいいですっ!

 ぶっちゃけあんまり興味がないのでっ。


 ももちんさんのフルスイングの一撃で、手の1本が空中に運ばれる。

 

 でもそれで終わりじゃない。

 フルスイングの回転力をそのまま利用するかのように、ももちんさんが頭上に跳躍。

 今度は上から下に向かって、アシュラボゥイの手を思い切り叩きつけた。

 

 攻撃の圧倒的な威力と竜巻効果もあってか、地面ではじけ飛ぶ手。

 飛散する血をしっかり浴びるももちんさん。

 そこまでがセットらしい。

 

「ギャアアアアアアアッ」


 という叫び声がアシュラボゥイの本体から聞こえた。

 

 アシュラボゥイの本体は、いついかなるときでも完全なる無敵。

 だけど6本の手はそうじゃない。

 その1本を倒されダメージを負ったから、アシュラボゥイは叫んだのだ。


「ナィスです、ももちんさんっ。物理攻撃が効いたってことは面を変ぇられたんぇすね」


 アシュラボゥイの面は、顔を叩けばランダムで変えられる。


「うん。でも時間が掛かったー。すばしっこいったらありゃしない。多分、四葉のほうが向いていると思う」


「じゃあ、そうしますか?」


「そうだね。って、四葉なんか光ってない?」


「あ、これ、セイントシールドっていう魔法なんぇすけど、物理攻撃を一時的に無効にできるんです。良かったらももちんさんにも掛けましょぅか?」


「それは大丈夫。全部これラブランデスではじき返すし? つーか一気に畳み込んで終わりにしなきゃっ」



【コメント】

・我らが姫は全て物理で解決

・ラブランデスは神器

・まほー? なにそれおいしいの??

・特級武具でもおかしくないよぁ

・魔法も竜巻で消し去る万能武器


 

 はい、特級武具でもおかしくないというのは一理あると思いますっ。


 ところで、今は物理攻撃が効く。

 私と話している暇があったら、攻撃にあてたほうがいい。


 ちなみに魔法はまだ効くのだろうか。


 私は手の攻撃を全方向から受けながら、アシュラボゥイの面を確認する。

 遠くにいるのでわかりづらかったけど、その顔は〝悲しみ〟。


 あ、確か魔法がダメな面。


〝悲しみ〟は魔法攻撃無効。

 だったら私も、エンシェントロッドで手をなぐればいいだけのことである。


 物理良し、魔法良しのエンシェントロッド、最高ですっ!


「四葉、本体のところに行ってっ」


 2本目の手を撃破して血を中塗りしたももちんさんが指示を出す。


「え? でも物理攻撃が通りますし、私も加勢したほうが……」


「あいつ自分で面を変えることができる。だから早く」


 自分で面を変える。

 自分の頭なのだから当然可能だろう。


 なんでそんな当たり前のことに気づかなかったのか。

 今頃すでに、本体についている通常の手で面を変えているに違いない。


 私はももちんさんからアシュラボゥイに視線を移す。


 アシュラボゥイは壁にガンガン頭を打ち付けて面を変えようとしていた。


 自分の頭ですよねっ!?

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