第63話【悲報?】ケルベロスより強いモンスターがでてきちゃいました。
「地震か? うわーマジぃ? ダンジョンで地震とかチョー嫌なんですけど」
ももちんさんが本気で嫌な顔をしている。
でもそれは分かる。
万が一、ダンジョンに潜っているとき大きな地震が発生したら、最悪閉じ込められてしまうからだ。
近くに転移門があればいいけど、ない状況で閉じ込められた場合、ほぼジエンド。
ほぼと言ったのは、地震の影響でダンジョンの内部形状が変わり、突破口が開かれることもあるからだ。
でもそれは稀であり、私の知るところでは世界中で5件しかなかった。
ちなみにその内の3件が日本だ。
地震大国日本ゆえに、である。
「早く1〇9に行っちゃったほうがいいぇすね。あそこはダンジョンの外ですし、中にぃるよりかは安全なはずです」
「そだねー。ちゃっちゃっと、でも思う存分血の狂祭を楽しみながら鋳薔薇の姐さんに会いにいこー。四葉ももっと血を浴びたいでしょ?」
今までの私、そんな風に見えました!?
でも――、
「まあ、ほどほどには。慣れておきたいといぅのもありますし」
「今日一日で完全に慣れちゃうかもね」
それはそれで怖いのですが……。
あ、そうだ。
「あの、ももちんさん。クリアの魔法って他人にも使えるのぇすけど、もし良かったら掛けてぁげましょうか?」
「だめっ!」
「え……?」
けっこうな勢いで拒否られた。
「な、ならいいんぇすけど……あまりにも血だらけだと普通に嫌かなって思ぃまして」
「嫌どころかこの状態がいいんだよー。モンスターの血に別のモンスターの血を重ねて、更に別のモンスターの血を浴びる。下塗り、中塗り、上塗りって感じ? こうしてボクの全身が美しく仕上がるんだから」
家の外壁ですか!?
血の狂祭で血を浴びたももちんさんが、その血に不快感を示したことはない。
でももしかしたらキャラを演じるために無理をしているのかなと思ったけど、予想以上に血に魅入られていた。
【コメント】
・今日の下塗りいい感じだね
・下地の色もまあまあ隠されているな
・次のモンスター、相性のいい血ならいいんだけどな
・弾性のある血がいいか
・透湿性のある血がよくね?
・耐熱性もあればなお良し
花婿さん達のコメントも、まるでももちんさんが外壁かのように聞こえてくる。
お互いその認識なら別に問題はない。
いい関係だな、と私は思った。
すたすたとダンジョンの先へと歩いていく、下塗り状態のももちんさん。
後ろについて歩く私だったのだけど、ふと前方の光景に違和感を覚えた。
それは、建物と融合した渋谷Bダンジョンであればあり得ることなのかもしれない。
でもやっぱり、ファンタジー然としたダンジョンには相応しくないように思えた。
「電車ぇすね。電車がダンジョンに食べられて、まるでトンネルのようになってますね」
「でしょー、しかも湘南新宿ラインっていうのがしぶくない? これが山手線や埼京線だったら興ざめだよね」
どれも同じ電車なんですが。
とういうより、ダンジョンに電車がある時点で興ざめはしないと思います。
「そ、そういぅものなんぇすかね」
と、無難に答えたそのとき。
誰かの叫び声が聞こえてきた。
それも複数。
湘南新宿ラインの車列の奥のほうからだ。
私とももちんさんは目を合わす。
すると武具を装着したダンジョンシーカーが数名、逆走してきた。
何かに恐れを為してきたかのように。
「な、なにかあったんぇすか?」
「うるせークソガキっ、話かけるんじゃねーっがはっ!!?」
私をクソガキ呼ばわりしたダンジョンシーカーが一回転したのち、地面に激突。
ももちんさんがラブランデスの柄で、ダンジョンシーカーの顎を下から打ち据えたからだ。
「ボクの友達侮辱したら許さないよ。それで一体何があったの? そっちのキミ、教えてくれる?」
キミと呼ばれたダンジョンシーカーが、顔に恐怖を張り付けている。
それが叫び声をあげることになった元凶なのか、はたまたももちんさんに対してなのか分からなかった。
「そ、それは――ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ」
ダンジョンシーカーが前方に怯えた視線を向けたのち、地面で伸びている仲間をかついで去っていく。
一体、何に対してそんなに怯えているのだろうか。
【コメント】
・そんなにびびるモンスターいるのか?
・今の奴ら、あからさまなモブだったなw
・あれ? けっこうやべーのいる??
・ちょっと緊張してきた
・ももちんなら大丈夫だろ
・車掌???
花婿さん達のコメントから緊張が伝わってきたそのとき
ウゥー、ウゥー、ウゥー、ウゥー。
ももちんさんのドローンから、モンスター警戒アラームが鳴り響く。
湘南新宿ラインに目を向ける私。
穴の開いた最後尾の車両からでてくるモンスター。
どんなお強そうなのかと思ったら、幼児みたいにちんまいモンスターだった。
色は緑がかった色だけど、実際に体は人間の幼児そのものだ。
ただ頭が異様に大きくて、体とのバランスが明らかにおかしい。
それはともかく、ダンジョンシーカーが脱兎の如く逃げ出すようなモンスターには見えなかった。
あ、違う……。
私、知ってる。あのモンスター。
「アシュラボォイじゃんっ。うっそ、イレギュラーモンスター出てくるとかボク、超、ついてるかもっ」
そう。
あのモンスターの名前はアシュラボォイ。
モンスター大図鑑の〝あ〟から勉強しているので知っていた。
そして所沢Dで遭遇したケルベロス同様、イレギュラーモンスターであることも。
レベルは確か470。
ケルベロスより若干、上というのが信じられない見た目だけど、それには理由がある。色々と厄介なのだ、アシュラボゥイは。
アシュラボォイは頭に、阿修羅のように複数の面を持っている。
通常、阿修羅は3面だけど、アシュラボゥイは6面。
つまりアシュラボゥイは、サイコロのように頭が動くのだった。
その面によっては、攻撃が強力になったり、魔法攻撃が無効になったりとあるのだけど、今のアシュラボゥイの面は〝喜び〟。
「笑ってますね。あの面は確か、物理攻撃無効……ぇしたよね」
「そだね。一切、物理攻撃が通らない。それはさておき四葉、気を付けて」
「は、はいっ。めちゃんこ警戒してぃますっ」
【コメント】
・アシュラボゥイかよ。マジか
・いきなりイレモンかー!
・モブシーカーが逃げるのも当然だな
・やっかいな相手なのは確か
・よっちゃんいてある意味助かった
・運が悪けりゃ・・・考えたくねー
・まずは攻撃にそなえろ!!
阿修羅には手が6本ある。
アシュラボゥイも、別の6本の手を操ることができた。
遠隔操作で。
刹那、私とももちんさんの立っている場所の下から音がした。
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