第62話 星波ちゃんのこと考えましたけど、い、いけませんかっ?


私は魔法の詠唱へと入る。


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――スピリットマーキュリー!」


 私はエンシェントロッドを前方へ振り下ろす。

 次の瞬間、頭上に発生していた直径3メートルの巨大な光の玉が鬼牛に向かって飛んでいった。


 スピリットマーキュリー。

 水星のように綺麗な光の玉が特徴的な、聖属性の中位魔法。

 

 私がなぜこの魔法を使用したか。

 それはスピリットマーキュリーが貫通攻撃だから。

 

 先頭の鬼牛に直撃したスピリットマーキュリーが、そのまま後方の2体目も光の玉で飲み込んでいく。そしてダンジョンの壁に当たると拡散して消えた。鬼牛達と共に。



【コメント】

 ・おおお!!

 ・魔法やっぱすげーっ!

 ・魔女っ娘よっちゃんかっこいいっ

 ・綺麗な魔法だったな

 ・なんか慣れた感じだね!  

 ・魔法を使ったよっちゃん絵になるなー


 

 嬉しいコメントが並んでいるのが見えた。

 花婿さん達、ありがとうございますっ。



「聖属性魔法やっばっ。2体同時とかやるじゃん、四葉」


「えへへ。鬼牛が丁度、前後で並んでぃたので、貫通攻撃のスピリットマーキュリーを使ってみました。初めて使ったんぇすけど、うまくぃって良かったです」


「初めてとは思えないくらい慣れてる感じがあったよー。やっぱ、台東C踏破しただけのことはあるね」


「はいっ。星波ちゃんと一緒に、台東Cを踏破したことが自信となって今につながってぃると思ってます。星波ちゃんが色々と手取り足取り指導してくれたおかげぇすね。星波ちゃんに感謝感謝ですっ」


 するとももちんさんの顔が、にたぁって変容した。

 え? 何っ?


「星波ちゃん、星波ちゃん、星波ちゃんってさぁ……もしかして四葉、なの? 恋してるって意味で」



【コメント】

 ・え?

 ・マジ?

 ・そうなの??

 ・やっぱり

 ・いいカップルだと思う

 ・その百合は充分にアリ


 

 …………は?


「ど、どど、どうしてそうなるんぇすかっ!? 好き? 恋? え、え、えっ!?」


 ホットの魔法を掛けたかのように体が熱くなってくる。

 そんな魔法があるか知らないけれど。


「どうしてって、感情の駄々洩れ? 好きっていうのがすっごい伝わって来たんだけど。それにほら、耳のイヤリング、お揃いんなんでしょ? 星波と」


「つ、番のイヤリングは誰かと一緒に付けないと意味がなぃんで、だから星波ちゃんとお揃いにしてるんですっ。そ、それは別に好きとかそういぅの関係ないと思ぃますっ」


「じゃ、聞くけど星波のこと嫌い?」


「嫌いじゃないですっ!」


「ほら、大好きなんじゃん」


 〝大〟が付いてるっ!

 ――ってっ


「き、嫌いじゃなぃなら好きって極端すぎですっ! ……まあ、恋とかは置いておぃて、星波ちゃんのことは人間として、す、好きですよっ。いけませんか?」


「ううん、全っ然いけなくない。今ってほら、そういう時代だし? 添い遂げる相手が同性だって全然いいと思う」


 それはがっつり恋の絡んだ好きだと思いますっ!


「こ、この話ぁもう止めましょうっ。あ、ほらっ、鬼牛が3体出てきましたっ。話している場合じゃないぇすよっ!! なんかぃきなり突っ込んできましたけど!?」


「カル・リプレイン」


 ももちんさんが振り向きざまに、ラブランデスをフルスイング。

 発生した竜巻が3体の鬼牛を巻き上げていく。

 ケチャップのシャワーが降り注ぎ、私とももちんさんは血だらけになった。


「それでいつから好きなの?」


 それどころじゃないですううううううっ!!


「血ぃぃぃぃぃぃぃっ。ク、ク、クリアの魔法っ、クリアの魔法っ! さ、更なる付与を授からん――クリアッ!!」


 光の環が上から下に移動しながら私の体をお掃除。

 血がきれいさっぱり消え去った。

 

 良かった。省略でも自信なかったけどなんとか言いきれた。


「それでいつから好きなの?」


 しつこいと思いますっ!


「こ、答ぇませんっ。さ、早く1〇9に行きましょうっ。鋳薔薇さんが待ってますよっ」


「んんー、分かった、一旦引き下がる」


 私の完全黙秘オーラが伝わったのか、ももちんさんは不満そうな顔をしながらも諦めてくれたようだ。



【コメント】

 ・それでいつから好きなの?

 ・ダンチューバーになる前から?

 ・大東Cに一緒に潜ったときから?

 ・星波様に助けてもらったときから?

 ・ぶっちゃけどうなの??

 ・言ってすっきりしちゃいなヨ


 

 あなた方も引き下がってくれます!?

 姫の決定に従順であるべきですっ。


 ――なんていう余計な一幕が終わると、私とももちんさんは先へと進む。

 鬼牛のほかにも、別の店から店員擬態モンスターが出てくるかなと思ったけど、そんなことはなかった。


 モンスターは基本、ダンジョンのクラスに応じてランダムで発生するので、次回潜ったときには出てくるのかもしれない。そこに楽しみを見出してしまいそうな私だった。


 そういえば星波ちゃん、今頃何しているのかな?


 同じ潜姫ネクストのメンバーといっても、各々の活動を全て把握しているわけじゃない。

 

 公式サイトでは開催イベントと参加メンバーの公表はしていても、個人の活動についてはノータッチ。じゃあ、星波ちゃんのSNS――Zwitterズイッターのほうはどうかなと見ても、先日の大東C踏破の話以降は日常のつぶやきだけだった。


 最後のつぶやきはなんだっけ?

 えっと確か……あ、新しい靴を買ったって内容だった。

 あれ、動きやすそうなスニーカーだったなぁ。それにおしゃれだったし、私も買っちゃおうかなぁ。


 番のイヤリングに続いて靴も星波ちゃんとおソロ。

 嫌がるかな? 色違いだし大丈夫だよね?

 ううん、例え色が一緒でも星波ちゃんは嫌がったりしない。


 だって星波ちゃんは、とっても優しいから。


 星~波ちゃんっと、オ・ソ・ロっ♪

 星~波ちゃんっと、オ・ソ・ロっ♪


 わぁぁぁい。


「ねえ、四葉。……今もしかして星波のこと考えてない?」


 ギクゥゥゥゥゥッ!!


「かかかかかか、考えてないぇすよっ! 少しは考えましたけど」


「考えてんじゃん」


 星波ちゃんは多分、ダンジョンに潜っているのだろう。

 もしかしたら星波ちゃんのチャンネルでライブ配信のお知らせがあったかもしれない。だとしたら私は見逃していたということになる。


 多大な罪悪感に襲われる私。

 同時に星波ちゃんの声が聞きたくなった。


 電話すると言った翌日に早速話したけど、あれ以来話していない。

 これといった話題もないのに掛けると迷惑かなっていうのもあって――。


 でもやっぱり星波ちゃんの声が聞きたいし、お話がしたい。

 ――そうだ。

 今日電話して、ももちんさんと鋳薔薇さんのライブ配信にお邪魔した話をしよう。


 話すことはたくさんストックできそうだし。


 ゴゴゴゴゴ……。


「えっ……?」


 そのとき、地鳴りのような音が聞こえた。

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