第61話 早くクリアの魔法が使いたいですっ。


 ウィンリーメイズ? の一撃で、3体の鬼牛が宙に舞い上がる。

 ミッキー・キャントルのときと同じように、烈風によって。


 最初のフルスイングで致命傷を負っていた、あるいは死んでいた鬼牛達が、荒れ狂う風に切り刻まれる。それにより飛散する血。――を浴びているももちんさん。


 これはおなじみの光景。

 ただ、生で目撃するそれは、3倍増しの衝撃映像だった。


 ラブランデスは、竜巻が付与された風属性の武具だ。

 よって攻撃のほとんどで風が発生する。

 風は攻撃する方向によって向きが変わり、血の狂祭時はほぼ下から上だった。


 下から上にフルスイングすることによって、ほとんどのモンスターは宙に浮く。

 血がシャワーのように降り注ぎ、それをももちんさんが浴びるのは必至だった。


 それをいつしかももちんさんが血の狂祭と言うようになり、花婿さん達にも周知され、一つのイベントとして定着していたのだった。


 でも良かったぁ。

 少し離れていたおかげで私に血は掛からなかったし。


 よしっ、ももちんさんが残してくれた鬼牛は私がきっちり倒すぞ。


 べちゃ。


 私の頬に大きな何かが当たってくっつく。

 とって見ると、鬼牛の血にまみれた肉片だった。

 500グラムステーキぐらいの。


 いやああああああっ!


 私は肉片を投げ捨てる。

 頬にべっちょり血が付いているのか、臭いがすごい。

 台東Cでのバトルで多少は慣れたけど、この距離の近さは拷問に近い。


 私は吐き気をなんとか抑えつつ、鬼牛と対峙する。


 あ、やばい。臭いが気になり過ぎてバトルに集中できない。

 

 そうだ、クリアの魔法っ。

 あれをさきに使うべきだよねっ。


「わ、我ぁアストライアと契約せし聖なる汝おぇぇぇ」

 

 臭いのせいで最後まで言えないっ。で、でももう一度っ!


「わ、我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与おえぇぇぇ」


 惜しい、もうちょいっ!

 

 なんてことをしているうちに鬼牛のターン。


 ドスンドスンと走ってくる鬼牛が、


「ぐいいにげははははは、はあああんざいでずぅぅぅぅッ」


 と頭の角で私を攻撃しようとする。


 〝食い逃げは犯罪です〟って聞こえるの、私だけ!?


 超俊足で横へ回避する私は鬼牛と距離を取る。

 正直、今のは危なかった。

 

 鬼牛の、体に似合わぬ素早さ。

 そして自身の体調不良もあり、下手したら串刺しにされていたかもしれない。


「おーい、四葉大丈夫ーっ? 体調悪いんだったらボクが変わりにやるけど」


 と血だらけのももちんさん。


 血の狂祭のせいで体調悪いんですけどっ。

 

 などと口が裂けても言えない私は、


「だ、大丈夫ですっ。クリア使えばいつも通り戦ぇると思ます」


「分かったー。ボクはほかの鬼牛が発生しないか監視してるね」


「お願ぃしますっ」

 

 ダンジョンでの敵はモンスターだけではない。

 ダンジョン罠だってあるし、モンスターの血だってその一つだ。

 不快だからといって逃げてばかりではいられない。


 とはいっても、ももちんさんみたいに全く気にしないとか無理。

 なので、クリアの魔法が普通に使えるくらいは耐えられるようにしたい。


 よーし……。

 あえて、思いっきり吸い込んでから魔法の詠唱を始めてみよう。


 すぅぅぅぅ、


「うおえええええええっ!」


 臭すぎて、私は普通に吐いた。

 

「四葉? やっぱりボクが変わろっか?」


「だ、大丈夫、ですぅぅ。い、今ので全部吐ぃたので」


 この隙を鬼牛に狙われたら大変だ。

 私はモンスターを視認。また角で串刺しにしようと突っ込んでくる体勢だ。


 私は場所を移動してクリアの詠唱を始める。

 口の中が気持ち悪いけど、これもクリアできるでしょうか??


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――クリア!」


 やった、最後まで言い切れたっ。


 刹那、光の環っかが上から下へと降りていく。

 降りきったときには頬に付いた血も、口の中の不快感も全て消え去っていた。


 私、復活しましたっ。

 口の中もさわやか。

 クリアの魔法、最高です!


 3秒後に鬼牛のタックル。

 だけど私はもうそこにはいなくて、鬼牛の背後に回っていた。


 鬼牛が右から振り返ろうとする。

 それを見て私は、左から螺旋を描くように鬼牛に超ダッシュ。

 そしてがら空きの後ろ姿に、


「てやああああああっ」


 ももちんさんに倣ってエンシェントロッドを下からフルスイング。

 ボグンッと、鬼牛の足と足の間にクリーンヒット。


「おああぁぁぁとぉぉぉぉ、なみぃぃ、い、いっじょぉぉぉ……」


 何か言いながら、鬼牛の巨体が崩れ落ちる。


 あれ? 一発で?

 もしかして会心の一撃でちゃったのかな?


「エッぐぅ、四葉。そこ狙っちゃうんだ」


「え? そこってどこぇすか」


「どこって〇〇〇に決まってんじゃん」


 っ!?

 ももちんさん、花婿さんも見てるのにそれはちょっと――っ

 私はコメントをちらっ。



【コメント】

 ・ももちんの口から〇〇〇

 ・ももちんが〇〇〇

 ・〇〇〇とももちん♥

 ・も〇も〇ちん〇

 ・はぁはぁ(*´Д`)

 ・もう一回お願いしますッ!!



 だめだめだめっ。

 花婿さん達、そういうコメントはダメだと思いますっ。


 というより、そこを狙うのがなぜエグいのだろう。

 よく分からない私だった。


「別に狙ったわけじゃなくて、フルスィングしたらそこに当たっちゃっただけぇすよ」


「ふーん。でもエンシェントロッドが一級弱の威力って星波に聞いてるけど、マジみたいだね。魔法も見てみたいかも。四葉なんか使ってー、あの鬼牛達に」


 あの鬼牛達?

 

 見ると、2体の鬼牛がフォーティーワンアイスクリームのお店からでてきた。

 フォーティーワンアイスクリームの帽子かぶって。


「「ごちゅうううもんはああおぎぃまりでしょおおおか」」


 突っ込んだらダメ、私っ。


 私は喉元から出かかった突っ込みを飲み込むと、状況把握へと入る。

 

 2体の鬼牛が、前後で並んで近づいてくる。

 例の咆哮攻撃をしてくる様子はまだない。


 だったら今すぐを使うべきだよねっ。

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