第60話 超絶ホームランバッターらしいけど私、知りません。
モンスターの名前は
台東C踏破のあと、モンスター大図鑑を買って勉強はしたのだけど、このモンスターのことは知らなかった。
あいうえお順で今、〝う〟だから、渋谷Bの入ダンが一日遅ければ鬼牛のデータがインプットされていたはずだ。惜しかった。
その鬼牛が吉野亭がぞろぞろと3体でてきて、計4体。
「「「「いらあぁぁぁじゃまぜえぇぇぇッ」」」」
寸分のずれもない元気な挨拶。
めちゃんこ優秀な吉野亭の店員だ。
いや店員じゃない。モンスターだった。
ちなみにあとからでてきた3体は帽子をかぶっていない。
吉野亭から出てきてるのだから、そこはかぶって出てくるべきじゃない?
なんてことを思ってしまう私は、バトルに向き合う姿勢がなっていないだろう。
集中しなくてはいけない。
相手は、ダンジョンシーカーを死に至らしめることを最大の目的としたモンスターだ。
「いいじゃん、いいじゃんっ。いきなり4体。四葉は何体とやりたい? コラボ出てくれたお礼に全バトルで先に選ばせてあげる」
「……じ、じゃぁ1体で」
「え? いいの、1体で?」
「は、はい。クラスBのモンスターは初めてぇすから、まずは1体を相手に堅実にいったほうがいぃかなって」
「そっかー。でもその慎重さは大事だよねっ。あっ、四葉、耳を塞いでっ。花婿達もだよーっ!」
突然、ももちんさんが叫ぶ。
耳を塞ぐ? どうして?
疑問を過らせながらも私は耳を塞ぐ。
「おまああだぜえええましたぁぁぁぁぁッッッ!!」
とてつもなく大きな声が飛んでくる。
耳を塞いでいても鼓膜をやぶるかのような威力だ。
「う、ううううぅぅっ」
頭の中を鬼牛の声にかき回されているような感覚。
徐々に頭が痛くなり、立っていられなくなる。
まさか遠距離からあのような特殊攻撃をしてくるとは思わなかった。
ゴリゴリの物理攻撃モンスターかと思ったのに。
【コメント】
・あぶねー、ギリで音量下げた
・ぐはあああああああああ
・耳がーっ、耳がーっ
・ぎゃあああああああああああ
・叫んでるやつ勉強不足やで
・ほんとに食らった奴コメント書けねーだろw
ドローンの向こうの花婿さんまでダメージを与えるなんて、すごい攻撃だ。
ところでももちんさんは大丈夫なのだろうかと見ると、
「だいじょうーぶ? 四葉。耳の塞ぎ方がちょっと甘かったかもね」
とノーダメージかのような彼女は、私のことを心配してくれた。
「ち、ちょっとまだ立つのが辛ぃです。頭も痛ぃですし……。も、ももちんさんは大丈夫なんぇすか?」
「まーね。私にはこれがあるから」
と、肩に担いだ巨大な斧――ラブランデスを見るももちんさん。
ラブランデスがあるとどうして大丈夫なのだろうか?
「それとごめんねー。今のはあえて助けなかったの。咆哮系の攻撃食らったらどういった状態に陥るか知っておいたほうがいいかと思って。ちなみにボクもあの攻撃で体の自由が利かなくなっていたら最後だったよ。ぐちゃみそになるまでボコられていたかもね」
【コメント】
・教育的指導w
・今後のためにも必要かもな
・ま、死なんしな
・ラブランデスは最強の防具でもある
・ももちんのぐちゃみそ・・・
・よっちゃん、ソロだったらやばかったな
「ぐ、ぐちゃみそ、ぇすか。モ……モンスターの勉強、しっかりしますっ」
「学校の勉強よりかは楽勝、楽勝♪」
改めて勉強が必要だと思い知らされた私だった。
――っ!?
そんな私の思考を遮る光景が目の前にあった。
4体の吉野亭の店員、じゃなくて鬼牛が大口を開けて腹を膨らませていた。
絶対、さきののように叫ぶやつだと思った。
1体の〝おまたせしました〟の掛け声(私にはそう聞こえた)でもあの威力だったのに、こんどは4体。耳、爆発しちゃいますけどっ!?
やられる前にやるしかない――っ。
私の超俊足なら叫ばれる前に先手で攻撃できる。
走り出そうとする私。
でも、ももちんさんに手で制止させられた。
「も、ももちんんさん、なんで……っ」
「大丈夫。ボクに任せて」
ももちんさんがラブランデスを両手で握って構える。
その構えはバッターのそれであり、けっこう様になっていた。
でもラブランデスでかっ飛ばすような物体が飛んでくるわけではない。
不安の拭えない私だけど、ここはももちんさんを信じようと決めた。
なんといっても彼女はバトル中毒の金潜章。
バトルに関しては、紛うことなき百戦錬磨の猛者である。
限界まで息を吸ったかのような4体の鬼牛が、そして――
「「「「「おまああだぜえええましたぁぁぁぁぁッッッ!!」」」」」
「ミッキィィィ、マントルッ!!」
4体の咆哮に重ねるように、ももちんさんがラブランデスをフルスイングする。
グオオオオオッという烈風が巻き上がり、やがて沈静化した。
あれ? そういえば鬼牛の咆哮攻撃が来なかった。
でも一体どうして……?
その疑問をももちんさんにぶつける。
すると彼女は、
「声は空気の振動で発生する圧力波っていうのは知ってるっしょ?」
は??
「は、はい、もちろんですっ」
【コメント】
・ん?
・あれ?
・んん?
・よっちゃん?
・ほんとに?
は、花婿さん達に知ったかを疑われている。
声は、空気の振動で発生する、圧力鍋。じゃなくて圧力波、と。メモメモ……。
「ボクはその圧力波を、フルスイングの風圧で屈折させたんだ。だからここまで叫び声が来なかったわけ」
「そ、そういぅことだったんぇすねっ。助かりましたぁ。……あれ? そういぇば、みっきぃきゃぁとる? ってなんですか? そう聞こえたんぇすけど」
「ミッキー・キャントルね。超絶ホームランバッターの一人。そんな感じのフルスイングだったっしょ?」
「す、すいません。ミッキー・キャントルさんのこと知らないので」
ここは正直に無知をさらけ出す。
「詳しいことは花婿さん、ヨロッ」
え? 花婿さん達が? と、コメントを見る私。
【コメント】
・本名ミッキー・チャールズ・キャントルは
・アメリカ合衆国オクラホマ州出身の元プロ野球選手
・で、ポジションは外野手。右投両打。1950年代から
・1960年代にかけてニューヨーク・ヤンキースの主砲
・として活躍し、スイッチヒッターとしては史上最多
・の通算536本記録した。以上。
1人じゃないですよねっ!?
どういう仕様!?
とにかくミッキー・キャントルさんについて分かったので良しとする。
いや、良くないっ、良くないっ!
鬼牛、放置しちゃってるからっ。
ところでももちんさんがいない。
と思ったら鬼牛達のところへ走っていた。
私がミッキー・キャントルについて勉強している間に行動していたらしい。
「四葉っ。3体貰うかんねっ。君たちが血の狂祭の
ももちんさんが再び、フルスイング。
すいません、その方も知らないですっ。
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