第58話 ももちんさんと一緒に渋谷Bに潜ります!


「こ、こんぃちは。湊本四葉でーす。うぇいうぇい。今日はももちんさんのご好意もありまして、ライブ配信にぉ邪魔させてもらってます。み、みなさん、よろしくお願ぃしまーす」


 私のライブ配信じゃないのに、いつもの乗りでうぇいうぇいやっちゃったっ。

 良かった? ダメだった?

 反応がこわいかも……。



【コメント】

 ・よっちゃんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 ・正に期待のルーキーちゃんだね!

 ・うぇいうぇい

 ・おー、これがあのよっちゃんかっ

 ・よろしくね、よっちゃん

 ・うぇいうぇいっ

 ・サイドポニーテールが可愛い


 

 良かった!

 ちゃんとうぇいうぇいで返してくれる人もいるし、歓迎されてるっ。


 安堵感で心が満たされる。

 そもそも、ももちんさんと私は同じ事務所。

 花婿さん達が、私を邪険にする理由なんてなかった。


 なんか勝手によそ者に厳しいイメージを抱いてすいませんっ。


「はいはい、みんな四葉が可愛いからって熱視線を送らない。でも実際、四葉って可愛いよねー。……って見てたら血ぃ、吸いたくなってきちゃった。いただきまーすっ」


「え……えっ?」


 ももちんさんが加えたストローの先を私の首に当ててくる。

 私にも使うとは思わなかった!


「んーっ、おいしーっ。乙女の味がするー」


 ももちんさんの吐く息が首にかかり、めちゃんこくすぐったい。


「きゃっ、く、くすぐったぃですぅ」


 私は逃げようとする。

 でもももちんさんに抱きしめられて、そのままチューチューされた。


「四葉の血ぃ、四葉の血ぃ、いっぱい吸っちゃう、四葉の血ぃ」


「きゃぁ、きゃぁ、くすぐったぃっ、くすぐったぃぃ、あははははは」


「まだまだ吸っちゃうぞー、んーっ、おいちーなー、おいちーなー」


「止めてぇ、止めてくださいっ、ももちんさーあはははははっ」


「全部吸いきるまで離さないよー」


「あはははははははっ」



【コメント】

 ・なんか尊死劇場が開幕したんだがw

 ・冒頭からキャッキャウフフ

 ・よっちゃん、きてくれてありがとう

 ・控えめに言って最高かよ

 ・100点満点の百合

 ・ええのぉ、ええのぉ



 ◇



 10分後。

 私とももちんさんは、モンスター徘徊領域の前にいた。

 

 その間、何をしていたかというと、もちろん血を吸われていたわけではない。

 主に事務所の社長、一番合戦いちまかせさんの話で盛り上がっていた。

 星波ちゃんのときもそうだけど、あの社長は雑談のネタとして重宝がられているらしい。


「ではでは、ここからは四葉と一緒にモンスターとバトっていくよー。ケチャップ増し増しバージョン血の狂祭の――」ももちんさんがいかにもアイドルっぽいポーズを決め――「始まりだよっ♪」


 ポーズは、ももちんさんが〝パステルぱすてる〟という地下アイドルグループに所属していた頃からやっていたものだ。


 ただしそのポーズをするときは、絵の具ぶちまけパフォーマンスのときだけだった。

 その絵の具がまさかモンスターの血に変わるなんて一体、誰が予想できただろうか。

 

 ……でもケチャップ、血の増し増しバージョンなんてあったんだ。

 てゆーか私もやっぱりモンスターとバトるんだ。

 


【コメント】

・増し増しバージョンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

・よっちゃんいるからサービスか

・血の豪雨が降るぜぃっ!

・ドローンには掛からんようにな

・血だらけのももちんたん♥

・よっちゃんも真っ赤っかだね



 私も真っ赤っか。

 

 え? 私もモンスターの血を浴びる可能性があるってこと?

 血の臭いへの耐性がほぼない私には過酷すぎる試練なんですが!?

 

 いや臭いだけじゃない。

 武具も汚れるし髪や素肌にだって当然、血がべっちょり付くだろう。


 めちゃんこ逃げ出したい。

 でもそれはできない。

 私のための(頼んでないけど)、ケチャップ増し増しバージョンなのだから。


 ――だったらあの魔法に頼るしかない。


「……あ、あのぉ、ももちんさん」


「ん? なに? 四葉も滝のようなケチャップ全身で浴びたいって?」


「全く思ってなぃですっ。むしろ、極力浴びたくなぃですっ。……で、でもそれは無理だと思ぃますので、クリアの魔法使ってもいいぇすか?」


 クリア。

 身体や武具の汚れをきれいさっぱり落としてくれる聖属性の魔法だ。

 ダンジョン踏破にほぼほぼ役立つことのない魔法ということもあり、使用する気力は聖魔法の中で一番少ない。

 

 何回使うことになるか分からないけど、1〇9に付くまでにガス欠になることはさすがにないだろう。


「えー、浴びっぱなしでいればいいじゃん。別に大丈夫だよ、死ぬわけじゃないしさ」


 死ななきゃなんでも我慢できるわけじゃないですよっ?


「それでもやっぱり――ごめんなさいっ」


 腰を90度曲げての謝罪。


「そっかー。それは残念だけど、いいよ。無理強いはしたくないしね。血は浴びることになるんだしそれだけで十分。でも、浴びているうちにくせになって逆に欲しがるかも。そうなったら四葉に吸血姫2号のニックネームをあげちゃう~」


 普通にいらないですっ。


「は、花婿さん達も、興ざめするよぅなこと言ってごめんなさいっ」


 もちろんこちらも90度の謝罪。



【コメント】

 ・気にしなくていいよ!

 ・結局、血は浴びるってところが重要

 ・よっちゃんファンの心情もあるしね

 ・ももちんになれるのはももちんだけだから

 ・吸血姫2号はおあずけってことでw

 ・謝罪が綺麗だなw



 ところでモンスターとのバトル。

 モンスター徘徊領域を避けて1〇9には行けないので、それは覚悟していた。


「……でもクラスBかぁ」


「クラスBがどうかした?」


 無意識に声に出していたらしい。


「あ、モンスターとのバトルなんぇすけど、私、クラスCのモンスターとしか戦ったことなぃから大丈夫かなと思いまして」


「それを言うならケルベロスと隻眼のオゥガはクラスSやSSのモンスターだよー。そいつら倒してるんだし、大丈夫じゃない?」


 レベル450のケルベロスとレベル530の隻眼のオゥガが、クラスSだとただのモンスター。あんなのが多数で出てくるとかハードモードにも程がある。

 

「あれはあくまでもボスといぅ位置づけぇすからねぇ。でも、そのボスを倒したっていぅのは自信につながってぃるので、私がんばりますっ」


「その意気だよ、四葉っ。だいたい星波にバシバシしごかれて強くなったっしょ? クラスBのモンスターなら平気平気っ。それになんてったって、ボクがいるし? なんなら四葉はモンスターの血だけ浴びててもいいよん」


 拷問ですけど、それ!!

 どちらかというと、モンスターとバトルだけしていたいですっ。


 ……星波ちゃんにしごかれたわけじゃないけど、星波ちゃんと一緒に台東Cを踏破してバトルに慣れたのは事実。

 だから確実に私は強くなっているはず。


 それに銀潜章にランクアップしたいし。


 渋谷Bダンジョンは1〇9に行くので、踏破するわけじゃない。

 それでもクラスBに発生するモンスターを何体も倒せば、ランクアップだって可能かもっ。


 よーし、がんばるぞっ。

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