第44話 私、激レアボスを引いちゃいました。
アーチをくぐると、そこには開けた空間があった。
ケルベロス戦と同様、あるいはそれ以上のバトルフィールドが。
誰かが置いたであろういくつもの霊光石が明かりを灯しているけれど、空間の広さをカバーしきれていない。
私も霊光石を使ったほうがいいかと思った矢先、空間の真ん中に大きな魔法陣が浮かび上がる。
翠色の転移門とは違う、血のように真っ赤な魔法陣。
いかにも禍々しいモノが出てくるかのようなそこから発生したボスは――
大きな……どころではない、15メートルはありそうな筋骨隆々な体躯のモンスター。
人と獣を合わせたようなその見た目はさながら鬼のようで、手にはとてつもなくばかでかいこん棒を持っていた。
着衣は簡易的な鎧で、まるで単なる装飾といった感じ。
右目は眼帯が付けられているけど、怪我でもしたのだろうか。
「おめでとう、よっつ」
「な、何がぇすか?」
「あれ、激レアの隻眼のオゥガ。ちなみにレベルは530」
「えっ!? 激レアボス引ぃちゃったですか、私っ?」
【コメント】
・持ってるな、よっちゃん
・狂暴そうなのでてきたな・・・
・レベル530ってケルベロスより上か
・エンドラさん、ケルベロスの流れ的にまあ納得
・かっこいいな、隻眼のオーガ
・フィギュアがあったら欲しい
「よっつって、つくづく持ってるよね。エンドラさんには出会うは、ケルベロスには遭遇するはでさ。羨ましいなぁ、その引きの強さ」
「はぁ、私としては今回に関しては引きが弱くてよかったんぇすけど」
ケルベロスよりレベルが80も上の隻眼のオゥガ。
そんな強敵をホーリーヴァレスティ他、上位魔法なしで倒すとかできるのだろうか。
不安しかない私だった。
「ノーヒントは可哀そうだから教えてあげる。あいつには打撃も魔法も効く。そして弱点もある。さあ、がんばろう」
「ヒントをありがとぅございますっ。――視聴者の皆さん、では隻眼のオゥガとバトってきます。応援よろしくお願ぃしますっ」
【コメント】
・おう、声張り上げて応援したるわ
・コメント気にせずにバトルに集中っ!
・ガンガンいこうぜ&いのちをだいじにっ
・今日の経験を生かしていこうっ!
・弱点が肝。そこを探っていけ!!
・逃げるのは恥じゃないからな
「ウボオオオォォッ」
バトル開始というのが分かったかのように、隻眼のオゥガが雄たけびを上げる。
するとズシン、ズシンと私に近づいてくるボス。
大地が揺れ、「あわわっ」と私はよろけそうになる。
その一歩一歩が大きいからなのだろう、余裕を持たせていた間合いを一気に詰められた。
隻眼のオゥガがこん棒を振り上げる。
やっばっ!
体勢を立て直した私は、エンシェントブーツの付帯能力でその場を離れる。
ズオオオオンッ
こん棒が地面を抉り、再び地面が揺れる。
それも、先よりも大きく。
また私の体が揺らぐ。
でも震源地から距離が離れていることもあって、なんとか倒れずにすんだ。
それにしてもとんでもない一撃だ。
あんなのを食らったら、ぐっちゃぐちゃのミンチ四葉になることは確実だ。
そんな死に方、絶対いやっ。
というより、痛くて苦しい死に方は断固拒否。
なのでそうならないためにも、あなたには早く負けてもらいますっ。
「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い
前に向けたエンシェントロッドの周囲に、4つの光の渦が等間隔に発生する。
刹那、光の渦から前方に向かって放射される光線。
ヴァニシングノヴァ。
中位魔法であり、下位魔法であるフラッシュアローの強化版だ。
どれだけ強化されているかというと、矢からライフルの銃弾に変わったくらい。
とはいえ、それは比較の話であって威力はライフルの比ではない。
そのヴァニシングノヴァの4つの光の銃弾が、隻眼のオゥガに迫る。
「ウボオオオォォッ」
隻眼のオゥガがこん棒を振り回し、ヴァニシングノヴァの2つの光の弾を消し飛ばす。残り1つも外れる。だけど、もう1つがボスの胸に命中。
「ウググゥゥ」
唸る隻眼のオゥガ。
でもそんなにダメージを負った感じはない。
1つだけだったから?
せめて3つ当たれば、もっと手ごたえを感じることができるはずっ。
「更なる付与を授からん――ヴァニシングノヴァッ」
覚えたての魔法詠唱省略で、2度目のヴァニシングノヴァの発動。
――だったのだけど、隻眼のオゥガによるこん棒の一振りで今度は3つが消失。
残りの1つが辛くも足に当たったけど、隻眼のオゥガはちょっと唸るだけで、ダメージの程は小さそうだった。
【コメント】
・こん棒の一振りで魔法消失かよ・・・
・中位魔法のお披露目だってのにマジか
・効いてるのか効いてないのか分かんねーな
・HPゲージとかマジでほしいわ
・一旦、魔法止めたほうがよくないか?
・弱点に当てればいい説あるんじゃね?
弱点――。
でもその肝心の弱点がどこにあるのか分からない。
とりあえず魔法を使っていく?
ううん、だめ。すでに気力の減退を感じているのにやみくもに使いたくはない。
だったら打撃を試してみる?
そうするしか――ん?
隻眼のオゥガの空いている左手が、右目に付いた眼帯をつかんでいる。
するとその眼帯をゆっくりと横にずらした。
赤く光る目。
なんで赤いの? と疑問を抱いたその瞬間――
その赤い目からこれまた赤い光が照射され、私に迫ってきた。
「わっ!?」
まさかの攻撃に驚いたものの、私は高速移動で避ける。
でも追いかけてくる赤い光線。
かなりの熱を感じる。要するに高熱のレーザー光線みたいなものなのだろう。
当たったら、こんがり四葉ができあがりそうだ。
「ひええええええっ」
しばらく逃げ続けていると、ようやく赤い光線攻撃は終わった。
【コメント】
・目から怪光線でたあああああ
・中二病かと思いきやリアルにビーム打ってきよったwww
・眼帯の使い方を分かってるなw
・そうくるとは思わなかった!!
・奴にとっての魔法みたいなものか
・距離取り過ぎると使ってくる攻撃かもしれん
はい、中二病ですね。
目に隠する呪いや能力を封印した体で、格好つけちゃうアレ。
それはさておき、距離を取ると使ってくる攻撃はその通りっぽい。
どうやら遠くで様子を見ることを許してくれないらしい。
こうなったら、いよいよ打撃という選択肢しかなくなってくる。
こん棒の一撃は怖い。
でもこのままじゃジリ貧だ。
エンシェントブーツの超俊足さえあれば、こん棒攻撃を避けるのは簡単だ。
地面をたたいたときの振動がネックだけど、一応、対応策も考えた。
よーし、攻め込むぞっ。
私は一度大きく深呼吸すると、隻眼のオゥガに向かって走り出した。
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