第43話 お待たせしました。ようやく台東C最奥のボスとのバトルですっ


「見える? よっつ。あの巨大なアーチ」


 星波ちゃんが、ダンジョンの先に指を向ける。

 霊光石の光でぼうっと浮かび上がる曲線的な解放部。

 よく見ると、アーチの部分に装飾のようなものも確認できた。


 今までずっと、地下を無造作に掘り出したような内部だったけど、あのアーチだけは人工的だ。

 

 もちろん人が介在したなんてことはなくて、あれはエンドラさんの言う神の御業に違いない。


「はい。はっきりと。あのさきには最奥のボスがいるんぇすよね?」


「それは間違いないよ。やっと到着。ここまで長かったね。丁寧にバトルをこなしていたからってのもあるけれど」


「はいっ、おかげさまで私、すごぃ成長できたような気がします。星波ちゃん、本当にありがとぅございましたっ」



【コメント】

 ・確かに今日一日だけで相当バトル慣れしたな

 ・これが子の成長を見守る親の気持ちか

 ・俺からもありがとう。よっちゃん鍛えてくれて

 ・フィールドの広がった今後のよっ散歩も楽しみ♪

 ・伸びしろがすごい。まだまだ上に行けるよ!

 ・この勢いで最奥のボスもやっつけちゃえっ

 


 そして忘れちゃいけない、十数万の視聴者のみなさんの応援。

 本当に長々と付き合ってくれてありがとうございますっ。

 

「うん。でもその感謝は最奥のボスを倒してから。ここで死んだら全てが水泡に帰す。ま、ここはクラスCだし、わたしがいる限りそんなことは起きないけど」


 なんという力強いお言葉!

 だからといって油断は大敵。

 自分の身は自分で守るようにしなければいけません。

 


 ところで――最奥のボス。

 

 ダンジョンの主として、シーカーを待ち受ける最後の試練。

 あるいは倒せば多くの名誉と名声を与えてくれる、最大のトロフィー。

 もちろん、それ相応のダンジョン遺物だって手に入る。


 ダンジョンのクラスに準じたシーカーランク者が踏破すれば、踏破者として名を残すことになり、ギルドで多くの恩恵を受けることができるのもまた魅力的だ。


 その中にはシーカーランクのアップも含まれていて、今回私はそれが最大の目的だった。


 私の今のシーカーランクは銅潜章。

 (歓迎会のときにギルドアプリで確認したから間違いない。やはりケルベロスはそれだけの相手だったらしい)

 

 よって台東Cは、正に銅潜章に準じたダンジョン。

 ランクアップの大チャンスである。一回踏破しただけじゃ無理かもだけど。

 

 ちなみに、どのクラスのダンジョンにどのシーカーランクが準じているかというと、

 

 クラスDダンジョンが鉄潜章

 クラスCダンジョンが銅潜章

 クラスBダンジョンが銀潜章

 クラスAダンジョンが金潜章

 クラスSダンジョンが虹潜章


 である。


 ダンジョンのクラスには更に上のSSとSSSがあるけれど、虹潜章でもかなりきついということもあり、除外されていた。


 そんな除外されているSSダンジョンを踏破したことのある星波ちゃん。

 しかもソロで。言葉は悪いけど、化け物である。

 その化け物星波ちゃんと一緒に、クラスCダンジョンの最奥のボスとバトル。


 え、楽勝なんじゃない?

 わーい、簡単に銀潜章になれるかも。やったぁっ。


 ――とそんな単純な話じゃない。


 私は星波ちゃんに聞いてみる。

 

「あの星波ちゃん、今回の最奥のボスぇすけど、星波ちゃんと共闘して私は評価されるのでしょぅか?」


「どういうこと?」


「ク、クラスCのボスなんて、虹潜章の星波ちゃんには楽勝の相手じゃなぃですか。だから星波ちゃんが、ちゃちゃっとボスを倒しちゃったら私、何も活躍してぃないわけでして」


「ああ、それなら大丈夫。ボスはよっつ一人で戦ってもらうから。私は極力、観覧者に徹しようと思ってる」


「ひ、一人で、ぇすかっ!?」



【コメント】

 ・マジか。よっちゃん一人で

 ・最後まで厳しい星波様

 ・ボスはさすがに共闘かと思っていた

 ・実際、そうでないと踏破にはならんか

 ・まさか下位魔法限定のままか?

 ・ほーりーヴぁれ使っちゃあかんの?



 これは確かにめちゃんこ厳しい。

 でもホーリーヴァレスティ使えば大丈夫かな? ボス戦だしいいよね。


「今、よっつ、〝ホーリーヴァレスティ使えば大丈夫かな? ボス戦だしいいよね〟とか思わなかった? それはNGだよ」


 一字一句全て、読心されてる!


「え? だ、だめなんぇすかっ?」


「それはそうだよ。だってホーリーヴァレスティは強力すぎるから。でも問題はそこじゃなくって、使用したあとのガス欠にある」


「ガス欠、ですか」


「うん。今のよっつは、ケルベロス戦のときよりも魔法使用時の気力減退量は減っていると思う。でもホーリーヴァレスティの反動にはそれでも耐えられない」


「はぁ」


 私もそんな気がする。

 使った自分だから分かるけど、それほどまでにホーリーヴァレスティは凄まじかった。


「今回のバトルには私がいるから、正直ガス欠になっても大丈夫なのだけど、いなかったらって想像してほしいの。ダンジョンはファンタジーでゲーム的だけど、そんな杓子定規にいくわけでもない。そばに頼れる人がいない状態で、ホーリーヴァレスティが命中しなくてボスを倒しきれなかったらどうなる?」


「ガス欠で動けなぃ私は、ボスに殺される」


「うん。大正解」


 にっこりと笑う星波ちゃん。

 え? 笑うとこ??



【コメント】

 ・嬉しくない正解だなw

 ・星波様の満面の笑みが草

 ・実際、ありうる最悪の事態だな

 ・下位魔法で倒せってか。

 ・確かによっちゃんが倒さなきゃ意味がない

 ・やべぇ、ちょっと心配になってきた



「そ、そうぇすよね。これから先、誰にも頼れなぃときがくるかもしれなぃですし……分かりましたっ」


 これからもずっとそばに星波ちゃんがいると思っていた。

 でもそんなことはない。

 

 このさき、一人でダンジョンに潜るときだってあるし、もしかしたら誰かを守る立場になるときだってあるかもしれないのだ。


「ただ、中位魔法の使用はオッケー。もちろん、自分の気力と相談してだけど」


「中位魔法っ! 使ってもいいんぇすかっ? やった」


「あと、知らないみたいだから魔法の詠唱の省略も教えておくね。1回目はちゃんと詠唱するのだけど、2回目からは〝更なる付与を授からん〟からで大丈夫だよ」


 視聴者の誰かが魔法の詠唱は省略できるのではと言っていたけど、本当だったようだ。


「あ、ありがとぅございますっ。そこからですと、すぐに魔法を使ぅことができますね」

 

 そうこう話している内に、巨大なアーチの下にやってきた。

 この先にボスがいる。

 だとするともう見えるはずだけど、どこにもいない。あれ?


 ってことを星波ちゃんに言うと、


「ボスはアーチをくぐってから発生するから、まだどんなボスかは分からないよ。ちなみにアーチから出ればボス戦からは退避することができる。その選択肢は考慮してないけどね」


「あ、あの、どんなボスかは全く分からないんぇすか? 大体、こんな奴だよーくらぃも?」


「レベル450のケルベロス相当、あるいは運がいいとそれ以上のレベルの激レアボスが出ることもあるから、そこはよっつの引きに期待」



【コメント】

 ・運がいい?悪いじゃなくて??

 ・最強のシーカーはどうやら価値観が違うらしい

 ・ソシャゲのガチャかよwww

 ・激レアボスの排出率が知りたい

 ・排出率は5パーセントくらいか?

 ・すでにフラグは立ってるw



 ケルベロス相当と聞いて一瞬、楽勝じゃんと思った私。

 でもそれは、規格外の上位魔法ホーリーヴァレスティがあったからこそだ。

 中位魔法までしか使えない制約の中、もしも激レアボスが出てしまったら……。


 私はごくりと唾を飲み込むと、星波ちゃんと一緒にアーチをくぐった。

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