第42話 私は脳内シミュレーションでがぶりんチョ対策を練ります。
――と意気込んだものの、どうやって倒すのかと悩む私。
さきみたいに囮役と倒し役が2人いれば、なんてことのないモンスターなんだと思う。でも1人で倒すとなると、一転して難しい相手になるのだった。
視線を合わせず背中を見せないと、ウォールウォーカーは壁から出てこない。
照れ屋かっ。
なんていう突っ込みをしている場合じゃない。
真剣に倒し方を考えなくては。
1人で倒す。
そうなると囮役と倒し役を一人でこなすことになるのだけど……。
えー、無理じゃない? そんなの。
ウォールウォーカーが出てくるタイミングを見誤れば、頭からがぶりんチョである。
タイミング……。あ、そういえば。
私は、囮になったときのウォールウォーカーの行動を脳裏に浮かべる。
ふむふむ、だとするとタイミングはある程度つかめるかも。
でも全てのウォールウォーカーが同じような行為をするだろうか。
……。
…………。
……………………。
「そこは賭けるしかないよねっ」
【コメント】
・!?
・いきなり何をっ!?
・不穏すぎるんですがっ!!?
・賭ける??え、命??
・いやマジで何をする気だ?
・めちゃくちゃ心配なんですけど!!
・よっちゃん……?
あ、視聴者のみなさんが心配しちゃってる。
私が今から何をするか、ちゃんと説明したほうがよさそうだ。
「あっと、私が今から何をするかと言ぃますと、囮役兼倒し役です。あの、さっきのウォールウォーカーなんぇすけど、私をがぶりんチョする前に叫んだじゃなぃですか。あのタイミングで振り返ってぶん殴れば倒せると思うんぇすよね、はい」
【コメント】
・なるほどね。それはいい作戦……か?
・ガブリンチョって可愛く言っても頭失うからね?
・無言でガブリンチョされたらどうする?
・物静かなウォールウォーカーだっているかもしれん
・だからこその賭けか
・ここは星波様の見解をっ!!
星波ちゃんの見解。
確かにそれは欲しいところ。
私は星波ちゃんをちらり。
「いい作戦だと思う。というよりそれ以外にない。ただ、叫び声に驚いて動くのが遅くなった場合、そのがぶりんチョをされちゃうから気を付けて」
良かったっ。
私の賭けは唯一の倒す方法だったらしい。
がぶりんチョされないように気を付けますっ。
星波様がそういうなら、と視聴者のみなさんも納得してくれたようだ。
私はウォールウォーカーのいる壁に近づく。
ほぼほぼ動きがないのが不気味だけど、怖がってはだめだ。
恐怖で身が
ゆっくりと体の向きを変え、視線を合わせずに背中をウォールウォーカーに向けたその刹那――。
「グギャアアアアアアアッッッ!!!」
「きゃあああああっ」
私は叫び振り返りながら、エンシェントロッドをぶん回す。
ボゴンッと鈍い音がしたと思ったら、ウォールウォーカーの顔が吹き飛んでいた。
元が影だからなのか、サラサラと消えていく壁を歩くモンスター。
やったっ。
叫んじゃったけど、うまくいったっ。
【コメント】
・よっしゃ、ナイスフルスイングっ
・いいよいいよ、タイミングばっちり!!
・これはホームラン性の当たり
・メジャーリーガーもびっくりの場外ホームランッ!
・やきゅーも得意なのかな、よっちゃんは♥
・あたしもぶん殴ってッ!!
今の一撃で自信のついた私は、続けて別のウォールウォーカーを倒しに向かう。
相変わらずの動きの少ないウォールウォーカーに背中を見せる私。
「グギャアアアアアアアッッッ!!!」
「――ッ!」
フルスイングからのボゴンッ。
ウォールウォーカーの頭がはじけ飛び、やがて全身が霧散した。
2体目もなんなく撃破。
叫び声も上げなかった私、よくやったっ。
「ナイス、よっつ。でも物理攻撃はそれでよくても魔法はどうする?」
そうだ。
魔法で3体倒さなくてはいけないのだ。
でも魔法か……。
私は頭の中で自分の行動をシミュレーションする。
1
私はウォールウォーカーのところへ行き、視線を合わせずに背中を見せる。
そこで詠唱開始。
「我ぁアストライアと契約せし聖なる――」
「グギャアアアアアアアッッッ!!!」
がぶりんチョっ(死)。
だめだめ、背中見せてから詠唱とかあり得ないでしょ。
2
私はウォールウォーカーのところへ向かいながら、魔法の詠唱を開始する。
「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者――……」
その状態で、ウォールウォーカーに背中を見せる。
「血の盟約ぃ従い
「グギャアアアアアアアッッッ!!!」
がぶりんチョっ(死)。
なんで詠唱の途中で背中見せた私!? 慌てない、慌てない。
3
私はウォールウォーカーのところへ向かいながら、魔法の詠唱を開始する。
「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い
その状態で、ウォールウォーカーに背中を見せる。
「グギャアアアアアアアッッッ!!!」
振り向いて、
「フラッシュフォ――」
がぶりんチョっ(死)。
――だめ、間に合わない。あの瞬間に魔法の名前を言ってる暇なんてない。
じゃあ、どうしたら……あ、そうだっ。
4
私はウォールウォーカーのところへ向かいながら、魔法の詠唱を開始する。
「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い
その状態で、ウォールウォーカーに背中を見せる。
「グギャアアアアアアアッッッ!!!」
その声を聞いた瞬間、私は走り出してがぶりんチョを回避。
すぐさま振り返ると、「フラッシュフォースッ」と発動。
光の玉がウォールウォーカーの口の中に入るや否や、モンスターの体は粉みじんとなって消えた。
これだっ、これなら倒すことができるっ。
「視聴者のみなさん、いくつかのシミュレーションの結果、魔法でのウォールウォーカーの倒し方を発見しましたっ。今からぉ見せしますね。うまくいく自信は99.99パーセントぁりますっ」
【コメント】
・そこは100パーセントって言ってほしかった!
・0.01パーセントが逆に不安なんだがっ!?
・0.01が来るフラグ立てちゃあかんよ、よっちゃんっ!
・いやでもほぼほぼ100パーだし、大丈夫だろ
・俺はよっちゃんを信じる
・0.01パーセントはうまくいきすぎる自信だな、うん
私はシミュレーション4を実行に移す。
魔法の名前を残して詠唱を終えた状態で、背中をウォールウォーカーに見せる。
叫びながらがぶんりんチョを仕掛けてくるモンスター。
私は走り出し、振り向きざまにフラッシュフォース。
痛っ。
勢い余って反対側の壁に当たってしまう私。
これは想定外の出来事だけど、すでにやるべきことはやってある。
大きな爆発音が聞こえる。
私のフラッシュフォースを食らったウォールウォーカーがはじけ飛んだのだ。
「みなさん、ウォールウォーカーを倒しましたっ。やったぁぁぁっ」
「グギャアアアアアアアッッッ!!!」
私が追突した壁からウォールウォーカーが飛び出してくる。
そのタイミングで、〝やったぁぁぁっ〟と振り上げたエンシェントロッドがウォールウォーカーにクリーンヒット。
モンスターは死に、私は図らずも2体を連続で倒した。
【コメント】
・おおおおおおおおっ!!
・すげええええええええええっ
・またしても魔法と打撃のコンビネーションッ!
・会心のばんざい攻撃、えげつねえええ
・これは誰も想定できなかったと思う。なんというバトルセンス!
・どんだけ成長する気だよ、俺の推しは
え? あの、……実はこれ、えっとぉぉ……。
「すごいじゃん、よっつっ。まさかそうやって2体倒すとは思わなかった。その打撃までシミュレーションしてたんだよね?」
ちょっと感心したような表情の星波ちゃん。
「も、もちろんだよっ、えへへ」
それが嬉しくて私は嘘を吐いたのだった。
その後、私はウォールウォーカーを4体倒した。
嘘を真実とするべく、魔法とばんざい攻撃のコンビネーションを繰り返したのは言うまでもない。
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