第41話 ダンジョンには色々なモンスターがいるようですね。


 右手を前に出している星波ちゃん。

 見ると、黒焔の籠手ウロボロスガントレットがまるで超強力な換気扇のようにガスを吸い込んでいた。


 あ、そうだ、そうだった。

 私としたことが……っ。

 

「わたしの右のウロボロスガントレットは、付帯能力があるの。知らなかった? よっつ。推してくれているのにぃ?」


 星波ちゃんの顔がいじわるそうに変容する。


「し、知ってます知ってますっ。焦ってて忘れてました、ごめんなさぁいっ。あ、ちなみに左のガントレットは、液体系の攻撃や罠を全て吸収するですっ」


「はい、正解。って、別に責めてるわけじゃないからね」


 実際、星波ちゃんが全く不快に思っていないのは分かっている。

 とはいえ、推し失格の烙印を与えられても仕方がないほどの度忘れぶりである。

 

 何度か見たことがあったはずなのに、人間焦ると大事なことを忘れちゃうようです。って言い訳ですね、はい。

 

 でも、まさか入って15分経つと作動する罠とは思わなかった。

 宝箱を開けても問題なかったわけだ。

 ひのきの棒切れとか、普通にいらないけど。


「あれ? 入口も通れるよぅになってますね。どうしてだろ」


「ガス系の罠は、ガスが完全になくなると入口が解放されるからだよ」


「なるほどです。……で、でも本当に焦りました。モンスターに殺されるのも嫌ぇすけど、ダンジョン罠で死ぬのも嫌です。死ぬときはたくさんの子供と孫に囲まれてって決めてますから」



【コメント】

 ・なんかぶっ込んできたwww

 ・よっちゃんの理想の死発表っ

 ・そうか、いずれよっちゃんも結婚するのか・・・

 ・相手は俺の可能性も微レ存

 ・マジな話そうなってほしい。つまりダンジョンで死ぬな

 ・子供一人に転生したい♥

 


「う、うん。それでさっきとこの罠で分かったと思うけど、翻訳書を使わずにダンジョン語がすぐに読めれば、クラスCのダンジョン罠はなんてことないから。だから勉強がんばってね」


「はい、がんばりますっ」


 ずっと散歩しているだけでは、間違いなく覚えようとはしなかったダンジョン語。

 

 ううん、それだけじゃない。

 ダンジョン罠やモンスター、それにモンスターとの戦い方、更に言えばダンジョンそのものについても深く知ろうとは思わなかったはずだ。


 星波ちゃんのようになりたいと言っておきながら、その実、私はその努力を怠っていたらしい。


 本当に勉強をがんばらなくては――と私は強く心に刻んだ。


 

 ◇



「このまま最奥までいないかなって思ったけど、やっぱりいたかモンスター」


 あれから2つの罠を突破して10分ほど歩いたところで、星波ちゃんがそう言った。

 ちょっとジグザグになっている道。

 どこにもモンスターなんていない。


 もしかして上かなと見上げるけど、やっぱりいなかった。


「あの、どこにモンスターはぃるのでしょうか? えっ、もしかして透明なやつぇすかっ?」


「透明なやつだったらプレデターとかだね。レベル310。クラスAダンジョンに発生する凶悪な捕食者。でもここはクラスCだから違うよ。そもそも透明じゃなくって、ほら……壁をよく見てみて」


 星波ちゃんに言われて、私はよーく壁を見てみる。

 

 あれ?


 何か黒い影のようなものが壁の表面で動いている。

 その黒い影は両側の壁に複数存在していて私は最初、霊光石の光加減でそう見えているのかと思った。

 

 でもそうじゃない。

 あれは、あの影は生きている……?


「あの影がモンスター、ですか?」


「うん。その名もウォールウォーカー。壁に影としてしか存在できないモンスターだよ」


「あ、そうなんぇすか。じゃあ、害はなさそぅですね」



【コメント】

 ・そしてほっと胸をなでおろすよっちゃん

 ・これだから純粋なよっちゃんはw

 ・俺このモンスター知らんけど害があるのは知ってるw

 ・最奥間近で害のないモンスターおる??

 ・害があるって書いてモンスターだからね

 ・それは悪い純粋だよ、よっちゃん


 

 視聴者のみなさんに軽くお叱りを受ける私。

 

 そうですよね、ごめんなさい。

 モンスターである以上ダンジョンシーカーの敵なのだから、害がないわけがない。


 ということは何かしらの攻撃を仕掛けてくる。

 でもそれが分からない私だった。


 星波ちゃんがウォールウォーカーに近づく。

 傍まで行って分かったことがある。

 ウォールウォーカーは手足が異常に長くて、頭が非常に大きかった。

 

 壁の表面で、こちらを窺うようにしているウォールウォーカー。

 ほとんど動かないのが不気味だなぁって思ったそのとき、


「このウォールウォーカーは……」


 星波ちゃんがウロボロスソードでウォールウォーカーを攻撃する。

 しかし剣は壁にはじき返される。

 当のウォールウォーカーは先と同じようにそこにいた。


「御覧の通り、全く攻撃が効かないんだ。それは魔法も同様で多分、ホーリーヴァレスティもダメージが通らないと思う」


「っていうことは……無敵、ですか?」


「そう思うでしょ。よっつ、ちょっとそこに立って左向いてもらえる」


「あ、はい」


 なんでだろうという疑問を抱きつつ、私は星波ちゃんの指示に素直に従う。

 ちょうど、ウォールウォーカーに背中を見せる形となった。


「グギャアアアアアアアッッッ!!!」


 何っ!?

 すごい兇悪な叫び声が真後ろから聞こえるんだけどっ!!


 とっさに振り向く私。


 「ひぃぃっ!」


 目と鼻のさきに、大きな口を開いたウォールウォーカーがいた。

 まるで私の頭を丸かじりするかのような体勢で。


 その状態で止まっているのは、星波ちゃんにウロボロスソードで頭を貫かれているからだった。


「このようにウォールウォーカーは、影を見ずに背中を向けると壁から出てきて襲い掛かってくるのだけど、そのときだけ攻撃が通るの。しかも防御力が低いから、さっきのヒノキの棒切れでもけっこうなダメージを与えられるはずだよ」


「そ、そうなんぇすか。……ところでぁの、今、私のこと囮にした感じですか?」



 なんでそんなに素敵な笑顔っ!?



【コメント】

 ・最強のシーカー最強の無邪気

 ・一切の悪気なしの星波様

 ・よっちゃんといると星波様の珍しい一面見れて嬉しい

 ・小説なら傍点つくなw

 ・星波様、さっきからよっちゃん可愛がりすぎだろwww

 ・何気に囮が似合っているよっちゃん



 星波ちゃんの珍しい一面――。

 それは私も見れて嬉しい。


 星波ちゃんが私を可愛がっている……?

 まあ、それも嬉しくないことはない。


 でも、囮は似合いたくありませんっ。


「そ、それで星波ちゃん。私、このウォールウォーカーと戦うんぇすよね?」


「もちろん。こいつらは6体でいいかな。半分の3体は魔法で倒すこと。それではよーい、どん」


 よーし、がんばるぞっ。

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