第38話 星波ちゃんは私をよっつからごっつにしたいようです。


 星波ちゃん、めちゃんこ切れてるっ!?



【コメント】

 ・!?

 ・あれキレてる?

 ・星波様ガチギレ

 ・笑いながらキレるってのが一番怖い

 ・奥義確定

 ・やっちまったな。ウータンバット

 


 「よっつ、私から離れてもらえる?」


 笑顔が消え、静かな怒りを携えている星波ちゃん。

 怒りからなのか、体の周囲の大気が揺らめいている。


 これはとんでもないことになる。

 ウータンバット達が。


「わ、わっかりましたぁっ」


 私は急いで、その場から離れる。

 ウータンバットのいないところへ移動すると、星波ちゃんを見る。

 するとそのタイミングで、星波ちゃんの頭にまた糞が落ちてくる。


 あっ!


 と思った矢先、ウロボロスソードの一撃で糞が霧散した。

 そこへ今度は2体のウータンバットが左右から迫る。

 しかし星波ちゃんに近づいたときには、2体とも胴体を二分されてあの世に旅立っていた。


 場の空気が一変する。

 

 星波ちゃんの怒りのせい?

 あるいは、星波ちゃんがやばいダンジョンシーカーだと認識したウータンバット達の焦りから?


 今や、天井や壁にいたウータンバット達の全てが星波ちゃんをターゲットにしている。

 

 このまま放っておいたらやられる。

 だから今この場で、この人間を殺さないといけない。


 そんな極限の思考が透けて見えるようなそんな――。


 星波ちゃんが腰を少し落とす。

 次に左手を斜め上にかかげ、ウロボロスソードを持った右手を下に構える。

 

 その構えを見るに、まるで剣を振り回すかのようだ。

 いや、実際にこれはそういった奥義。

 奥義の名前は、ごうの技――黒の咆哮。



【コメント】

 ・マジか!黒の咆哮!!

 ・黒の咆哮キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 ・ウータンバット如きに轟の技かよ!? 

 ・1日1発限定激の技を刮目せよっ!!

 ・いざ、お掃除開始や!

 ・ウータンバッド、乙ですっ!!



 数体のウータンバットが一斉に星波ちゃんに襲い掛かる。

 

「轟の技――黒の咆哮ッ」


 同時に星波ちゃんが剣を斜め上に一閃。

 発生した黒色の輪がドーム状に膨れ上がり、周囲の壁と天井を覆いつくす。


 黒の咆哮は広範囲攻撃だ。

 前方のみへの攻撃である黒の旋風より威力は劣るものの、それでも特級武具ウロボロスソードの轟の技である。


 レベル250くらいまでのモンスターであれば、抗うこともできずに命を散らすことになるだろう。


 文字通りの咆哮と、ウータンバット達の苦痛の叫喚が混じり合う。

 やがて全身を切り刻まれたウータンバット達が、糞さながらに地面へと落下してきた。


 その数はざっと15、6体。

 そんなにもウータンバットがいたのかと私は驚いた。


 ――けどそれ以上に、黒の咆哮の圧倒的剣技に私は大興奮。


「はへえええええええええええええっ」


 と感嘆の声が勝手に出ていた。



【コメント】

 ・殺虫剤で蝿が落ちてくるかのようにwww

 ・レベチにも程があるw

 ・異世転生者のチートスキルやな、もう

 ・初めて見たけど俺TUEEEEEEEEすぎる!!

 ・そこにシビれる、あこがれるゥゥゥッ!

 ・はへえええええええええええええええええっ


 

 視聴者のみなさんからも、当然のように感嘆の声が上がる。

 

 超高価なドローンということで、画像も鮮明でブレもほとんどない。

 星波ちゃんの動画をあまり見たことのない方は、いい意味で衝撃的な体験ができたのではないかと私は思った。


「よっつ、終わったよ」


 星波ちゃんが手を振りながら、私のところにやってくる。

 掃除が終わったかのようにすっきりとした顔。

 でも頭の上には糞が乗っている。


「お、お疲れ様ですっ」


「うん。でも全然疲れてないけどね。この先も少しウータンバットの発生区域が続くけど、戦わずに突破しちゃおう。よっつの超俊足には及ばないけれど、私のウロボロスブーツも俊足は付帯されているし」


「そうぇすね。もう糞は食らいたくなぃですしね」


「うん。って、ははは」


 急に星波ちゃんが笑いだす。


「え? どぅかしました?」


「だって、よっつの頭、糞がすごいから。ごめん、笑っちゃいけないけど……ははは」


「で、ですよね。私今、頭の上に糞が4つ乗ってますもんね」


「よっつの頭の上に糞がよっつ! あはははは。あー、おかしい。座布団100枚」


 今度は腹を抱えて笑い出した星波ちゃん。

 

 座布団100枚って何??

 ――は、さておき、


「う、うまぃこと言ったわけじゃないぇすからね。だいたい、星波ちゃんの頭の上にだって糞ぁるし。けっこう、まぬけですよ?」


「あ、言ったな。だったらこの糞を――」星波ちゃんが頭巾を取って「よっつの頭になすりつけて、ごっつにしてやるー」


 星波ちゃんが糞のついた頭巾を近づける。


「きゃあああっ、ち、ちょっと止めてくださいっ」


 逃げる私。


「待てー。ごっつにしてやるー」


 追いかけてくる星波ちゃん。


「止めてくださいぃぃぃっ」


「え? 足早っ、超俊足禁止っ」


「だってごっつになるの嫌ですもんっ」


「よっつがごっつになるだけだって」


「よっつでいいですぅ」


「待て待てー、ごっつにしてやるー」


「話聞ぃてますっ!?」



【コメント】

 ・俺達は何を見せられているんだ?

 ・ウータンバットの死体に囲まれて追いかけっこw

 ・え? なにこの尊い光景

 ・よっつをごっつwww

 ・マジで仲いいなこの二人

 ・星波様、本当に楽しそうで草

 ・緊張感ゼロ過ぎて笑うしかないw

 ・これも百合の一つの形

 ・最高だな、今日のライブ配信は

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