第37話 連続攻撃発見しました。これは使えます!


 なんか頭が重くなってきた。

 そして臭い。


 今すぐ頭巾を投げ捨てたいけど、そうはいかない。あと2、3回は食らうような気がしたから。


 私は動きながら使うべき下位魔法を選ぶ。

 

 距離もある中で、すばしっこいウータンバットにフラッシュフォースを当てるのはかなり難しいようだ。これはもうやめよう。


 では、対複数系のフラッシュアローだろうか。

 確かに数本の光の矢のどれかが当たりそうだけど、そんな数うちゃ当たるやり方でいいのだろうか。どうにもスマートでない。


 となると、残りの魔法から選ぶことになる。

 

 残りの下位魔法はえっと……ホーミングレイ、だっけ?

 え? これってどういう攻撃? これ使えばいいのかな?

 ホーミングってなんか、聞いたことあるのだけど……。


 視聴者のみなさんに聞いてみよう。

 別にそれくらいはいいよね。


 私は周囲に気を配りながら、


「あ、あの、みなさん、聖属性の下位魔法あと一つあって、それがホーミングレイって魔法なんぇすけど、ここで皆さんに質問です。ホーミングってどういう意味ですか?」



【コメント】

 ・誘導

 ・追尾

 ・追いかける

 ・補足追跡

 ・自動追尾

 ・え? 知らんの??


 

 無知ですいませんっ。

 

 ――って、これだあぁぁっ

 みなさん、ありがとうございます!


「ぁへあへうヴぁうヴぁうヴぁぁぁぁああっぁへぁへ」


 上から糞を落としたやつも腹立つけど、まずは、未だ私をバカにしているあいつにぶつけてやる。


 私はさっそくホーミングレイ使用のための詠唱を始める。

 立ち止まるのはNGなので、もちろん走りながら。


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――ホーミングレイ!」


 エンシェントロッドの先端から光線が出る。 

 まるで紐が伸びていくようにウータンバットに迫るホーミングレイ。


 案の定、避ける、一番むかつくウータンバット。

 でもホーミングレイはグンッと折れるように曲がると、そのウータンバットを追いかけた。


 そして――命中っ。


「うヴぁッ!?」


 まさか追いかけてくると思っていなかったのか、ホーミングレイの直撃を食らったウータンバット。

 

 壁から地面へと落ちていくけど、完全に落下する前に羽をぶんぶんと動かして、体勢を整えようとしている。


 威力が弱いっ?  

 もしかしたら、追尾性能がある代わりに攻撃力を犠牲にしてる?

 でも効いているのは間違いない。このまま逃がしたくは――ないっ!


 私は一瞬の判断で地面を蹴る。

 ぐんっと速度の上がった私は、ウータンバットへ一気に距離を詰める。


「許さなぃんだからぁっ」


 私はエンシェントロッドでウータンバットの頭をフルスイング。


 バコーンッ!


「ウヴァひゃ」


 奇妙な声を上げるウータンバットは、体を一回転させて地面に倒れ伏した。

 

 2級武具相当以上の打撃を食らったウータンバットの頭は、見るも無残な状態になっている。どうしてもグロくなってしまうので打撃は控えたいけれど、背に腹は代えられない。


「お見事、よっつ。超俊足を生かしたその連続攻撃、すごい良かった。その調子その調子」


「は、はいっ、ありがとうござぃますっ」



【コメント】

 ・いいじゃん! 今の連続攻撃

 ・その発想は素晴らしい!

 ・バトルに慣れ始めたか

 ・相変わらず凶悪な武器やなw

 ・弱ったところにとどめの一撃。容赦ないよっちゃん

 ・楽しくなってきたな、よっ散歩バトル編w


 

 視聴者のみなさんにも褒められたっ。

 自分としてもいい連続攻撃を発見できたと思ったので、すごい嬉しい。

 この調子であと4体、がんばるぞっ。


 私は動き回りながら、次のターゲットとなるウータンバットを探す。

 天井にもいるのが分かるけど、どうしても上を向けない。

 顔を上げた瞬間、糞が落ちてきそうな気がするから。


 !?


 刹那、横から殺気を感じた。

 殺気の方向に顔を向けると、ウータンバットが両手を広げて勢いよく飛来してくる。


 私を捕まえようとしているっ?

 まずいっ!


 魔法は間に合わない。

 体勢が悪くて、エンシェントロッドで反撃するのも難しい。

 こうなったら、しゃがんで回避するしかない。


 と私が最善だと思われる行動を選び取ったとき、私のすぐ横を黒いシルエットが横切った。


 「うヴぁひゃっ!?」


 胴体を二分割にされたウータンバットが、血しぶきを上げながら右方へと転がっていく。


「糞落としは陽動。頃合いを見計らって捕まえにくるから気を付けて」


 星波ちゃんが助けてくれたようだ。


「あ、ぁりがとうっ、星波ちゃん。以後、気を付けますっ」



【コメント】

 ・糞が陽動とかw

 ・確かに意識は糞に向く

 ・アホ面のくせに策士

 ・今のマジで危なかったなよっちゃん

 ・星波様、ナイス助太刀っ

 ・ええ、糞が攻撃だと思っていた時期もありました



 ギクッ

 

 実は、私も糞が攻撃なんだと思っていた。

 でも普通に考えればそんなことあるわけない。

 こういった思い込みもバトルでは厳禁なんだろうなと反省する私だった。


 モンスター大図鑑には書いてあるかな?

 帰ったらちゃんと読まないと。


 そのあと私は、糞と捕獲攻撃に気を付けながら、2体目、3体目、4体目と順調にウータンバットを倒していく。


 2体は、ホーミングレイを当てて落ちてきたところを近づいてフルスイング。

 1体は、捕獲しにきたところをカウンターでフルスイング。

 そして最後の1体は丁度今、ホーミングレイが直撃したところだ。


 4度目ともなると動きもスムーズ。

 私は、地面すれすれでふらついているウータンバットのそばへ一瞬で移動。

 

 もう、どのウータンバットが私の頭に糞を落とした奴か分からないけれど、さようならっ。


 エンシェントロッドがウータンバットの頭にクリーンヒット。

 鈍い音を立てるモンスターはぐるんっと一回転するとノックダウン。


 よしっ。


「星波ちゃん、視聴者のみなさん、やぃましたっ。言われた通り、5体のウータンバットを倒しましたっ」



【コメント】

 ・おう、おめでとうっ

 ・さすがよっちゃんだね!

 ・やればできる子舌足らずっ子

 ・パチパチパチパチ!

 ・さすが俺の娘や

 ・糞が頭に乗ったままなのは草だけどな



「うん。よくできました。ここでは相手の攻撃を避けながら魔法をいかに当てるかを考えてほしかったのだけど、そういえばホーミングレイがあったんだよね」


「あ、あれ? もしかしてホーミングレィはズルでした?」


「ううん、そんなことないよ。ホーミングレイも下位魔法だしね。それにホーミングレイがあったからこそ後追い打撃の発想に行きついたみたいだし、結果オーライだよ」


 良かった。


 そして嬉しい。

 連続攻撃も発見できたし星波ちゃんにも褒められた。


 びちゃっ。


 うっ!?


 ま、また私の頭の上に――ではない。

 見ると、星波ちゃんの頭の上に糞が乗っていた。


 星波ちゃんの笑顔に、超特大の青筋が浮き出た。



゛?」

 


 ――ッ!??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る