第36話 めちゃんこむかつく奴とバトりますっ。
「烈の技――黒の旋風ッ」
本日2度目の奥義を放つ星波ちゃんが、アルマジンの集団へと高速で猛進。
螺旋の風が巨大なミキサーとなって、アルマジン達を切り刻む。
まるで、ドラム式洗濯機の中で回るかのようなモンスター達は、やがてその勢いを失うと地面へと落下した。
「はへえええええええぇぇぇぇ」
2度目だろうが何度目だろうが、多分、このさきもずっと驚くのだと思う。
それほどに黒の旋風はすさまじかった。
「よし、先に進もっか、よっつ」
蛾を退治したみたいに、なんてことのない顔の星波ちゃん。
「は、はい」
私はアルマジンの死体をぽんぽんと飛び越えながら、星波ちゃんのところへ。
アルマジンの発生区域を抜け、それからしばらく歩き続けた先で、
「あ、あそこから徐々にダンジョンの色が変わっていってるの分かる?」
星波ちゃんが、〝あそこから〟と指をさす方向に目を凝らす私。
確かにここと向こうでは若干色が違っているような気がする。
霊光石の光の加減というわけでもなさそうだ。
進んでいくと、何やら緑色の染みらしきものがはっきりと見えてくる。
色の違いはこれが原因らしい。
ダンジョンのかなり広い空間ほぼ一帯がそんな感じだけど、これは一体?
「星波ちゃん。あの緑色のは一体なんぇすか?」
っ!?
私はぎょっとする。
星波ちゃんを見ると、彼女が防災頭巾みたいなのをかぶっていたからだ。
お口チャックだけど、ぶっちゃけ――ださい。
あ、でも私これ、星波ちゃんが付けているの以前、動画で見たことあるかも。
でもなんでかぶっていたんだっけ?
【コメント】
・なぜに頭巾??
・お、懐かしい
・知らん奴はにわか
・この緑のって、ああなるほど
・やべ、分からん。どうして頭巾なんだ??
・ウロボロスターバンか??
視聴者のみなさんは、知ってる人と知らない人で二分されているようだ。
私はもうすこしで思い出しそうな感じ。
「あの緑色のは、ウータンバットの糞だよ」
「えっ、糞っ!?」
糞……糞……糞――あ、思い出したっ。
「うん。だから糞よけに頭巾装着しているのだけど、はい、よっつのもあるよ。かっこ悪いけど、直に食らったら最悪だから早く付けたほうがいいかも。ちなみに防御力はゼロ」
私は星波ちゃんから真空パック包装の頭巾をもらう。
袋を破ると、頭巾が膨らんで頭にかぶれるサイズになった。
私は頭巾を装着する。
1秒後。
頭に、びちゃっていう不快な音が響いた。
つまり糞が落ちた。
「あ」
【コメント】
・あぶねえええええええ
・ギリギリセエエエエエエエエフ
・なんちゅータイミングwww
・あ。の一言が全てを物語るw
・所沢Dでもあったな、こんなことw
・新品の頭巾がいきなり糞まみれとか草
「えっ? この辺まだ落ちてこないと思ったんだけどっ! で、でも、よっつ、良かったね、装着したあとで。そうそう簡単に当たったりしないからもう大丈夫だと思う」
びちゃっ、びちゃびちゃびちゃびちゃっ!!
私の頭に糞がいっぱい落ちてきた。
なんで私だけッ!!?
星波ちゃんだってすぐとなりにいるのに???
その星波ちゃんは白目になってガタガタと震えていた。
【コメント】
・wwwwwwwwwwwwwwwww
・大草原不可避
・草草の草www
・全然大丈夫じゃないですよ星波さまw
・やべえ、笑い死にしそうw
・簡単に当たりまくっていますがwww
「う、うううう、ううううううううっ」
「よっつ!? ど、どうしたの?」
「絶対、許さない」
沸々と怒りがこみ上げる。
「っ! ……も、もしかしてわたしのこと?」
星波ちゃんが蒼ざめた顔で私を見ている。
やばい、勘違いさせてしまったようだ。
「ち、違ぃますよっ。もちろん、ウータンバットとかいぅやつですっ。絶対に許さなぃんだから。わ、私の頭にうんち落としたやつからエンシェントロッドでぶったぉしてやりますっ」
【コメント】
・よっちゃんキレた!?
・ガチギレよっちゃん
・うんこ食らってスーパーよっちゃん覚醒
・落とした奴今から謝ってもすまねーからな!!
・怒ってるよっちゃん可愛い♥
・頭巾ださいけどなw
「う、うん。その意気だよ、よっつ。本当は走り抜けたいんだけど、戦って経験値を溜めないとね」
「はいっ」
「ウータンバットは壁か天井に張り付いているから厄介なんだけど、よっつには魔法があるから大丈夫。ここでは5体倒してみよっか」
「はいっ、がんばりますっ」
「あんまり顔上げずにね。……糞が口に入るかもだから」
糞が口に入る。
想像しただけで死にたくなる。
私と星波様は本格的にウータンバットの発生区域に足を踏み入れる。
そこかしこにあるやつらの糞。
遠くのほうでびちゃっと音がする。本当に不快な音だ。
私は壁に張り付いている、1体のウータンバットを確認する。
オラウータンのような体に蝙蝠の羽が付いたモンスター。
だからウータンバット。
安易なネーミングだけど、モンスターの大半はそんな感じだ。
「うヴぁうヴぁうヴぁうヴぁぁぁぁ」
にやついた顔でうヴぁうヴぁ吠えているウータンバット。
私をバカにしている?
近くにいるし、あいつが私に糞を落とした奴かもしれない。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
私は怒りのエフェクトを纏いながら魔法の詠唱を始める。
「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い
光の玉がにっくきウータンバットに直撃。
かと思いきや、ウータンバットはバサバサと飛んで回避した。
なんのそのと、続けてフラッシュフォース。
でもやっぱり回避されて、3発目も難なく逃げられた。
「うヴぁうヴぁうヴぁうヴぁぁぁぁああっぁへぁへ」
にやついた顔で、舌をべろべろーんと出すウータンバット。
今のは間違いなく私をバカにした。
むかつくううううううううっ!
私は地団駄を踏む。
【コメント】
・うざっ
・マジでうぜー
・いらつくな、あのうんこ野郎
・むかつくわぁ、あのにへらモンキー
・舌、ひっぱったろか
・ホーリーヴァレスティを使おう。俺が許す
ですよねっ!
視聴者の皆さんも私と同じ気持ちのようだ。
でも、ホーリーヴァレスティは使用できない。
下位魔法しか使っちゃいけない指示だから。
――そうだ、下位魔法。
フラッシュアローとフラッシュフォースのほかに何がある?
星波ちゃんの言い方からして、アルマジンのように魔法が効かない相手ではないはずだ。つまりウータンバットに有効な、聖属性の下位魔法があるはずで……。
「よっつ。あんまり同じ場所に立ちっぱなしは止めたほうがいいよ。もしかしたらまた糞の直撃食らうかもだから」
星波ちゃんの忠告。
それもそうだよねと動こうとした刹那、
びちゃぁぁっ!
4度目の糞を脳天に食らった。
むかつくうううううううううううっ!!
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