第35話 とにかくひたむきにがんばりたいと思います。
「ち、ちょっとよっつ。今、エンシェントロッドで殴って倒したよね?」
駆け寄ってくる星波ちゃん。
なにやら戸惑いを浮かべたような顔だ。
「は、はい。魔法が効かなぃので殴っちゃぃました。星波ちゃんの言った通り、エンシェントロッドで倒せましたけど、良かったでしょぅか?」
「いいわけないよ」
「えっ? だ、ダメだったぇすか? でも魔法が効かなかったので……」
「アルマジンはあらゆる下位魔法が正面からじゃ効かないのは確か。でも背中の甲羅に当てればフラッシュフォース2発で倒せたはずだよ。だからわたしは、エンシェントロッドで倒せるって言ったんだけど……」
――えっ!?
【コメント】
・その発想はなかったんだろうな
・その発想がなかったんだよね
・その発想は難易度が高かったかな
・その発想が出てこなかったに500円
・その発想が発想できなかっただけだよね
・よっちゃんすこ
そうです、皆さん。
その発想はなかった。
背中にまで考えが及ばなかったのは、正面=全身という思い込みがあったからだろう。
はっきり言ってポカミスレベルの失態です、はい。
ところで今、星波ちゃんが言ったことは多分、モンスター大図鑑を読んでいれば書いてあったんだと思う。だからあのとき彼女は、私にモンスター大図鑑を読んだことがあるか聞いたのだ。
「ご、ごめんなさい。星波ちゃんの言ったこと勘違ぃして受け取って。モ、モンスター大図鑑さえちゃんと読んでぃれば、エンシェントロッドで叩くなんてことしなかったと思ぃます」
「そう、それっ。わたしがいいわけないって言ったのはそこ。別に魔法で倒さなかったから怒ってるとかじゃないの。ねえ、そのエンシェントロッドって打撃系の武具でもあるの?」
打撃系。
こん棒やフレイル、メイスやハンマーなどがその打撃系の武器だ。
それら打撃系の攻撃力も兼ね備えている杖など、聞いたことがない。
「わ、分かりません。確かにちょっと硬ぃ杖なんだなぁって思ぃましたけど」
【コメント】
・ちょっとでアルマジンの頭粉砕できんだろ
・まるでスイカ割るみたいだったが
・2級武具くらいの打撃力はあったよな
・持ち替えた説はまだ捨てきれん
・特級武具ならあり得るか
・アルマジンあと10体殴ってみよか
「そうだね、アルマジンを10体――とは言わないけど、あと2体ほど叩いて倒してみようか。それでその杖が打撃系も兼ね備えているか分かると思う」
一緒にコメントを眺めていた星波ちゃんが、コメントの一つをチョイス。
私もそこは気になったので素直に承諾。
少し歩いたところでまたアルマジンが2体出てきたので、さっそくバトル開始。
今回は魔法ではなく打撃で戦うこともあり、意識は殴ることに集中。
さきは、ちょっと頭に血がのぼって正面から攻め込んでいった。
けどあれは多分、危ない行為なんだと思う。
アルマジンはボアウルフに比べて動きが遅いといっても、緩慢というわけではない。何度か私に向かって手を振り下ろしていたけれど、あれをまともに食らったらこっちの頭が粉砕する可能性だってある。
せっかく超俊足のエンシェントブーツがあるのだから、隙を突く方法がいい。
私はかく乱するように右へ左へと走り回る。
すると1体のアルマジンが、がら空きな背中を見せる。
魔法を食らわせたいところだけど、ここは指示通りの打撃で。
「てやああああああっ!」
私はエンシェントロッドを後ろに構えながら、アルマジンの背後へ。
こちらに振り向こうとしているアルマジンの頭を後ろから、バシンッ。
ベキッ!
変な方向に曲がったアルマジンの頭がひび割れる。
プシャアアアッ
と思ったら、どす赤い血を噴出させて地面に倒れた。
私はそのままターンして、もう1体のアルマジンに迫る。
ちょうどこちらに向こうとしているけど、攻撃のモーションに入るには至っていない。
いける――と判断した私は、躊躇なくアルマジンの頭をボカンッ。
ベコッ!
脳天をへこませたアルマジンの頭に亀裂が生じる。
プシャアアアッ
さきほどのアルマジン同様に血を飛散させると、地面に突っ伏した。
「み、みなさん、ご覧いただけましたでしょぅかっ? アルマジンの頭プシャーを。このエンシェントロッド、やっぱり打撃系武器としても使えるよぅですっ。これは大発見ですねっ」
【コメント】
・頭プシャーw
・完全に打撃系じゃん!!
・全然痛そうでないのに頭粉砕とか草
・これで確定だな。エンシェントロッドは遠近両用万能武器
・確かに大発見。我々は歴史的瞬間を目にしたようだ
・回復もできる打撃系杖とかチート級かよ
大発見とか言っちゃったけど、コメントを見る限り本当に大発見のようだ。
今までこういった2種類の攻撃系統を兼ね備えた武器はなかったのだろうか。
「うん、間違いなく打撃系も兼ね備えているね。私の見立てでは1級に近い2級武具って感じ。でもびっくりした。そんな武器初めてだから」
「や、やっぱり星波ちゃんも初めてぇすか? どこにもなぃんですかね、こういった武器」
「仮に所有していても黙っているダンジョンシーカーもいると思うから分からないけど、少なくともわたしは知らない」
「そ、そぅですか。エンドラさんは何も言ってなかったぇすけどね」
「自分で気づけってことなんじゃない? どんどんモンスターと戦ってさ」
――どんどんモンスターと戦う。
つい先日まで、安全領域で散歩の配信をしていただけの私には考えられない状況だ。
でもエンドラさんに特級武具を頂いた私が求められているのは、そのモンスターと戦うことなんだと思う。
幸い、そのモンスターと戦うことに否定的な視聴者はいないようだ。
むしろ、モンスターと戦っている私を応援してくれる方がとても多いと感じている。
だったら私のやることは一つ。
「はいっ、どんどんモンスターと戦ぃますっ」
「うわ、びっくりした。黙っていたと思ったらいきなり叫んでどうしたの?」
「あ、すぃません。……視聴者のみなさんの期待に応ぇるには、どんどんモンスターと戦って強くなんなきゃなって思って、つい」
「ひったむきぃ、よっつ」
【コメント】
・ひったむきぃ、よっちゃん
・ひたむきなよっちゃんが好きです!
・ひたむきすぎてよっちゃんのことどんどんすこる
・ひたむきなよっちゃんがてぇてぇ
・ひたむきなよっちゃんにきゅんっ
「え? ひたむき、ですか。そうですかね」
「うん。とっても。ってことで次のアルマジンいってみよう」
星波ちゃんが指をさす。
そちらに視線を向けると、遠くにアルマジンが2体見えた。
「はいっ、あ、また頭プシャーですかね?」
「ううん。今度は魔法で。あと何体くらいいけそう?」
「ガス欠寸前まで、がんばりますっ」
その後、私はフラッシュフォースでアルマジンを12体やっつけた。
気力の減退がやばかったので、星波ちゃんからエナジルの実をもらって食べた。
コーラで流し込みたいほどまずかった。
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