第39話 ダンジョンに無知な私は色々勉強が必要ですね。はい。


 私と星波ちゃんはウータンバットの発生区域を抜ける。


 ちなみに糞のついた頭巾は畳んで袋に入れてある。

 ダンジョンでゴミの投げ捨ては厳禁だからだ。


 持ち帰るのはちょっと……という気持ちがあったのは確かだけど、ルールを守らなくてはならない。特にダンチューバーは視聴者の皆さんが見ているので、モラルに反する行動はご法度だ。


 それに星波ちゃんと私は潜姫ネクストの一員だ。

 事務所の評価が下がるようなことは絶対にできない。


 そう。私は特別枠といっても潜姫ネクストのメンバー。

 個人での活動に縛りがないといっても、行動は慎重にならないとなぁと肝に銘じるのだった。


「転移門発見。途中で戻るなら多分これが最後の転移門になると思うけど、どうする? 戻る?」


「い、いえ、ここまで来たら最奥まで行きたぃです。あ、でも視聴者の皆さんにも聞いたほうがいぃですね。もう2時間半近くライブ配信してますし、疲れてぃる方もいるかもなので」


「そうだね。最奥のボスまで倒すとなると、あと一時間は掛かるだろうからね」


 私は立ち止まると、ドローンと向き合う。


「みなさん、こんなに長い間、ライブ配信にお付き合ぃくださいましてありがとぅございます。ダンチューバーを始めて、最長となるライブ配信だと思うんぇすけど、みなさん、お疲れではなぃでしょうか? 散歩もしないでバトルばっかりぇすけど、退屈じゃないでしょうか? それが心配な私です」



【コメント】

 ・逆に疲れが吹き飛ぶよっちゃんの全て

 ・退屈どころか楽しすぎてやばい

 ・気にする必要はないよ。見たい人が見てるだけだからね

 ・長い時間よっちゃんのライブ配信見れて幸せ

 ・バトルと書いて散歩とも読む

 ・最後までやり切ったよっちゃんで乾杯させてくれっ!

 ・よっちゃんが最奥のボス倒さんとパンツ履けん罠作動中


 

 私の心配は杞憂に終わった。

 ずらっと流れるコメントの全てが、私が台東Cを踏破することを願っていた。


 私の気持ちと視聴者のみなさんの気持ちは一緒。

 台東Cを踏破できるという高揚感もあって、私は、


「最奥のボス倒すまで続けてもいいですかーっ」


 と手を上げて叫んでいた。



【コメント】

 ・いいでーすよーっ!!

 ・いいぇすよーっ

 ・もちろんイエスッ

 ・やったれ、よっちゃんっ

 ・頑張り屋さんなよっちゃんスコ

 ・ボスなんかぶっ倒しちゃえええええええ



 「はーい、がんばりまぁぁぁすっ!」


 ふと視聴者数を見れば、なんと136,855人。

 それだけ多くの視聴者が応援してくれているという事実が、私にかつてないやる気を授けてくれる。


「ふふ、良かったね、よっつ。みんなの応援があるとがんばれるよね」


「はいっ、めちゃんこやる気でましたっ。なんかちょっと気力も上がったよぅな気がします」


「ああ、分かるそれ。実際、それで助けられたこともあるし、視聴者の皆さんの応援って本当に大事だよね」


「はいっ」


「でもやっぱり、それだけ多くの人が一丸となって応援してくれるのは、よっつの人柄がなせる業だと思う」


「は、はぁ、そぅですかね」


「うん。よっつってひたむきで純粋だから応援したくなっちゃうもん。もちろん、わたしもそのうちの一人だよ。あーあぁ、私も生でこのライブ配信を見たかったなぁ。たっくさんコメントしたのにな」


 不意打ちでそんなことを言う星波ちゃん。

 顔が赤くなったのが自分でも分かる。

 推しに応援したくなると言われるこの状況は一体、なんでしょうか?


「こ、ここにぃるんですから見れませんよ。そ、それで、つ、次のモンスターはどんなのぇすかっ?」


 恥ずかしくて話題を次のバトルへ。


「次のモンスターは会ってみないと分からないよ。ダンジョンの内部形状が変わるように発生するモンスターも変わってくるから。ただクラスCに見合ったモンスターであることは確か」

 

「あ、そ、そうなんぇすね。すいません、なんか勉強不足で。ダンチューバーやってぉきながら、ダンジョンのダの字もモンスターのモの字も知らなぃ私です」


「大丈夫。これから勉強していけば。色々覚えることはあるけれど、そんなに難しいことじゃないから」



【コメント】

 ・その通り、これから勉強していけばいい

 ・よっちゃんなら余裕だよ

 ・誰だって最初は知らないことだらけさ

 ・まずはモンスター大図鑑ゲットしような

 ・若いし頭が柔軟だろうからよっちゃんならすぐにダンジョン博士

 ・KEDOKAWAのダンジョン超辞典もおススメやで



 コメントにもあるモンスター大図鑑。

 それにダンジョン超辞典。

 

 確かにこの辺は最低限、手に入れておくべきだろう。

 台東Cを踏破し終わったらさっそく本屋で買おう。なければネット通販で。


「はいっ、これから勉強してぃきます。ダンジョン語とかも理解しておかないとぇすしね」


「うん。ダンジョン語の解読が必要なダンジョン罠とかもあったりするし、覚えておいたほうがいいかもね」


「はいっ。……あ、道が二手に分かれてますね」


 私と星波ちゃんの目の前に現れた、二つの道。

 英語のYのようになっているその道は、鏡に映したかのようにそっくりだ。

 さて、どっちに進めばいいのだろう。


「いいタイミングで現れたかも」


 星波ちゃんが、うんうんと頷く。


「どういうことでしょぅか?」


「これ、どっちかが最奥に続く道で、どっちかがそうでない道。ダンジョン罠の一つだよ。道と道の間にダンジョン語が彫られているの見える?」


「えっと……」私は目を凝らす。「あっ、確かに文字が彫られてぃます」


「うん。あのダンジョン語を解読すれば、どっちが最奥に続く道か分かるはず。よっつ、解読してみる? あ、でも翻訳書持ってたっけ?」


「はいっ、私、無知なんで翻訳書はいつも肌身離さずしっかり持ってますっ」



【コメント】

 ・そのどや顔は違うと思うw

 ・はっきりと無知と述べるその潔さよ

 ・自信満々に無知www

 ・一瞬、できる子かと錯覚させる罠

 ・そうでない道ってどこにつながってるんだ?


 

 そうですよねっ、本来は翻訳書なしに翻訳できたらドヤ顔ですよね。

 ところで私も同じ疑問を抱いたので、星波ちゃんに聞いてみようと思います。


「あ、あの、星波ちゃん。そうでない道っていぅのは、どこにつながるのでしょぅか」


 星波ちゃんの顔から笑みが消える。

 代わりにあるのは、純粋な恐怖そのものだった。


「それ……本当に、聞きたい?」


 最強のダンジョンシーカーの星波ちゃんがそんなに恐怖を覚えるって……。


「え? ……あ、あの、や、やっぱりいぃです。聞くの止めます」


「ううん、聞いて」


 ええええっ!?


「嫌です嫌ですっ、お耳チャックですっ」


「だめ、聞かせる」


星波様が私の耳元に強引に口を寄せる。


「き、聞きたくなぃですぅぅぅっ――」


「実は……」


 いやああああああっ。


「ただの行き止まりでしたー、アハハハ」


「えっ? ……も、もう、またそうやって驚かすんぇすからぁ」


 あー、良かった。ただの行き止まりで。

 私はほっと胸をなでおろす。

 途端に緊張感が波が引くように去っていった。


「って言うのは嘘で、一歩進んだ瞬間に骨まで溶かす池に落ちたり、あるいは致死率100パーセントの毒ガスが噴射したり、あるいは天井が落ちてきて圧死したり、あるいはレーザートラップで体がさいころステーキになるか、色々あるよ♪」


 ッ!??



【コメント】

 ・弛緩したところに強烈な一発がエグすぎるwww

 ・これはひどいww

 ・嘘でしたーも微レ存?いやないか

 ・顔面蒼白で固まってるよっちゃんも♥

 ・意外とおちゃめだな、星波様w

 ・星波様、よっちゃんで遊びすぎなの草

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