第32話 対ボアウルフ戦。今度は星波ちゃんの番!


「ボアウルフの発生区域から先に進もう」


 星波ちゃんの先導で、私はダンジョンの先に進む。

 

 それにしてもリカバルの効果には驚いた。

 動画で魔法師がリカバルを使用する映像は何度か見たことはあるけど、あそこまでの体験は想像できなかった。


 ところでリカバルはどれくらいの気力を消費するのだろうか。

 分からないけれど、気力減少への耐性が上がれば、ダンジョン内で疲れ知らずになれるということだろう。


 俄然がぜん、モンスターとのバトルにやる気がでる私だった。


 そんな私達の前に、もう見飽きた感のあるボアウルフが現れる。

 

 数はまさかの8匹。

 私が戦っていたときは最高で4匹だったので、これにはちょっとびっくりした。

 若干、広めの場所なのでまとめて発生したって感じだ。


「お、多ぃですね。でもやるしかなぃですよね」


「うん。そうだね。でもよっつはもういいからむこうで休んでいて」


「え? いぃんですか。私、めちゃんこ元気ぇすけど」


「知ってる。その元気は次のモンスターに取っておいてってこと」


 星波ちゃんが黒焔の剣ウロボロスソードを鞘から抜く。

 黒色発光する刃から滲み出る貫禄のオーラ。

 我こそが最強の剣なり、とウロボロスソードの渋い声が聞こえてきそうだ。


 そのウロボロスソードを下に構え、ボアウルフを見据える星波ちゃん。



【コメント】

 ・おっ、星波様がやるのか!

 ・ちょっと期待していた!

 ・星波様のターンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 ・なんてことのない構えが様になりすぎ

 ・これから見れる剣技にすでに打ち震えている俺氏

 ・ボアウルフになりたい



 視聴者のみなさんもまさかの、あるいは期待していた星波ちゃんのバトルが見れることに興奮しているようだ。


「はあぁぁ……」


 そして私の口からは感嘆の声。

 やっぱり全身ウロボロス仕様の星波ちゃんはカッコイイ。

 

 なんとなく、いつものようにモニター越しに見ているような感覚になる私。

 そこにいるのになんでだろうと思った私は、ああ、そうかと合点がいった。


 私と喋っていたときのフランクな雰囲気が一切、ないのだ。


 今の彼女は星波ちゃんではない。

 諸君、とファンのみんなに声を掛けるときの鳳条星波なのだ。


「「ガウアアアアアアアッ」」


 無謀にも、星波ちゃんに襲い掛かってくる2匹のボアウルフ。

 当然だけど、ライオンに立ち向かうネコに勝ち目はない。


 ゆらり、と動く星波ちゃん。

 と、思ったら黒の軌跡だけを残すようにして――

 2匹のボアウルフの向こう側に立っていた。まるですり抜けたかのように。


「「グルル??」」


 標的を失ったボアウルフの足が止まる。

 刹那、2匹の首がずるりと落ちた。


「きゃあっ……って、ごめんなさいっ。グロすぎて叫んじゃぃました。これ、動画として編集するときモザィク、ですかね?」



【コメント】

 ・相変わらず動きが流麗すぎるっ!

 ・いつ斬ったのかマジで分からん

 ・画素数いいから断面の鮮明度がやばい

 ・確かになかなかのグロ映像だったな

 ・一応、モザイク入れとこか

 ・鋳薔薇姉さんよりかは100倍マシ



 最後はグロかったけど、やっぱり星波ちゃんの剣技は美しい。

 

 ただ、強いだけじゃない。

 魅せるバトルを意識しているような、剣と体の動かし方。

 それは自分自身を配信していることからくる、プロ意識の高さの表れなのかもしれない。


 この辺は見習わなくちゃいけないなぁ、と思う私だった。


「あ、また増えた。もう面倒くさいから、全部まとめて逝ってもらおうかな」


 4匹増えて10匹となったボアウルフ。

 確かに数が数だけに、まとめて倒したほうが時短にもなる。


 でもまとめてって……え? もしかして。


 星波ちゃんがウロボロスソードを頭上に持っていく。

 右手で柄を握り、左手で剣先を軽く支える。

 剣の切っ先はまっすぐボアウルフ達へ向いていて、まるで突き刺すかのような構え。


 ああっ、これはっ!



【コメント】

 ・奥義じゃね!?

 ・奥義きたああああああっ!

 ・おーぎッ!!

 ・マジか! よっちゃんのライブ配信で見れるとは!

 ・ボアウルフ、乙ですっ!

 ・お前達はもう死んでいる定期。

 


 そう、

 

 杖を除いたその他の武器には奥義が存在する。

 その奥義は低威力順に、〝れつごうの技・きょくの技・ぜつの技・しんの技〟となっていた。


 低威力とはいえそれは奥義の中での話。

 烈の技であっても通常の攻撃に比べればはるかに強力で、神の技に至ってはレベル1000のモンスターを一発で葬るものもあるらしい。


 ただ、その神の技までを含めた全ての奥義を発動できるのは特級武具だけだ。

 つまりウロボロスソードで、神の技を使用することは可能。


 でも今から星波ちゃんが使用する奥義が、神の技ではないことは明白だった。


 あの構えは、烈の技。

 名前はえっと、えっと、えっとおぉぉぉぉぉぉっ。


 忘れちゃった。

 どうせ、星波ちゃんが言うからいっか。



「「「「「「「「「「ガウアアアアアアアッ!!」」」」」」」」」」


 彼の世行きの確定したボアウルフ達が、勢い猛に走り詰めてくる。


 星波ちゃんの体が一瞬、沈み――、

 彼女の口が開いた。


「烈の技――黒の旋風ッ」


 星波ちゃんが大地を蹴り、前方に滑るように跳躍。

 勢いよく突き出されたウロボロスソードが、周囲に螺旋状の風を発生させる。


 鋭利な刃でもあるその風がボアウルフを切り刻む。

 おそらく何が起きたのかも分かっていないボアウルフ達が、次々と地面へと倒れていった。


 その向こうで、背中越しにちらりと横顔を見せる星波ちゃん。

 ウロボロスソードを振り血を振り払うと、鞘に収めた。

 

 めちゃんこ、カッコイイんですけどっ!!



【コメント】

 ・かっちょえええええええええ!!

 ・めっちゃカッコいいっ! 

 ・烈の技でこれよ。他の奥義はそれ以上だもんなぁ

 ・アニメ化希望っ!!

 ・魔法もいいが、やっぱり奥義もいいねっ

 ・あたしも切り刻んでッッ



「おーい。よっつ。先に進むよー」


 星波ちゃんが呼んでいる。

 私はボアウルフ達のプチ墓場を通り過ぎると、彼女のとなりに並んだ。


「す、すごかったですっ、黒の旋風っ! ライブ配信や動画では何度も見たことぁりましたけど、やっぱり生奥義はすごぃですっ、感動しましたっ」


「ふふ、ありがとう。でも黒の旋風でそこまで感動してくれる人、久しぶりかも」


「ほ、ほかの奥義も見れたりしますかっ!?」


 私はぐいっと星波ちゃんに顔を寄せる。

 自分にしては大胆だったけど、生奥義拝見への興味が勝った。



【コメント】

 ・ぐいっといくなw

 ・よっちゃんにしては積極的

 ・星波様がたじろいたの草

 ・おいらも同じ気持ち。ほかの奥義が見たいッ!


「う、うん。多分見せれると思う。ただ、絶の技以上は無理。あれは今後のためにとっておかないとだから」


 奥義は魔法と違って、気力の消費はない。

 でも回数制限が設けられていた。


 烈の技は1日で3回。

 轟の技は1日で1回。

 極の技は3日で1回。

 絶の技は7日で1回。

 神の技は15日で1回。


 ちなみに、1日の始まりは例外なく午前4時33分となっている。

 なぜ午前4時33分なのかは、最初のダンジョンが生成されたときと同じ時間とされていた。

 

 絶の技以上は無理。それは残念だ。

 でも言い換えれば、極の技は見れるかもしれないということだ。


 極の技を使ってもいいモンスターが現れたらいいな。


 それは多分、台東Cの最奥のボスだというのは予想できた。

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