第31話 めちゃんこ疲れました。疲労回復したいっ


 星波ちゃんが、難しすぎたとちょっと反省したのちこう言い換えてくれた。


「簡単に言えば、半径100メートル以内にいるモンスターの位置を知ることができる機能だよ」


 めちゃんこ分かりやすいっ。

 

「とってもわかりやすぃ説明ありがとうござぃましたっ」


「うん。でもその機能も今は使えないようね。スマホからデータ移行する際に何らかの不具合が起きたのかも。台東Cを出たらちょっと見てみるね」


「お願いしますぅ」



【コメント】

 ・お願いします

 ・お願いします!

 ・星波ちゃん、お願いしますっ

 ・お願いします、直してあげてください

 ・アラームはマジで必要なんでお願いしますっ

 ・よっちゃんの生存率100パーにするためお願いしますッ



 視聴者のみなさんからも、怒涛のお願いの嵐。

 

 みんなありがとうーっ。


「う、うん。お願いされました。ところでよっつ、気力はどんな感じ? 倦怠感はある? 魔法使う前と使ったあとで何か体調的なところで変化ない?」


「気力ですか? ……えっと、大丈夫ですかね。何も変わった感じはぁりません」


 これには私も安心した。

 フラッシュアローが下位魔法とはいえ、ホーリーヴァレスティの一件もあり不安だったのだ。


「そう、なら良かった。まあ、下位魔法のフラッシュアローだもんね。あと10回くらい使って、ようやく変化を感じるくらいかも」


「そうなんぇすか? あれ? も、もしかしてあと10回分、ボアウルフと戦う感じですか?」


「もっちろん。ボアウルフとあと10回戦ってもらうね。体調に変化を感じるくらいにならないと気力減少への耐性が上がらないから。もしかして、嫌になっちゃった?」


 ――って、聞こえたけど、そのあとも別のモンスターと戦う?

 10回もボアウルフと戦ったあとに?

 え? 予想以上に過酷だったりする??


「い、いぇいぇ、そんなことは全くっ。モンスターとバトルがしたぃって言ったのは私ですからっ。よぉし、がんばるぞっ」


「うん、がんばろう。あ、向こうにボアウルフ4匹、見っけ。はい、よろしくね」



【コメント】


 ・よっちゃんの顔面蒼白なのはなぜ?

 ・がんばるぞの声が裏返っていたけど?

 ・予想以上にバトル多そうで焦ってるに500円

 ・ボアウルフとは←ここ重要

 ・星波様、さらっと鬼教官

 ・スパルタからの使者かw



 視聴者のみなさんにもばればれの私の心。

 

 でも、がんばりますっ。

 ご縁からエンドラさんに頂いた特級武具です。

 ちゃんと装備してモンスターと戦わないと、使わないなら返せとか言うかもですし? うん。



 ◇



「はぁ、はぁ、はぁ、……じ、10回、終わりまひたーっ」


 私は壁を背にして座り込む。

 本当は地面に大の字になって寝転びたい。

 だけど、どこからか現れるかもしれないボアウルフを警戒するには、こうするしかなかった。


「お疲れ様。10回のフラッシュアローで計24体のボアウルフ倒しました。今日の鋳薔薇さんの記録の約半分だね。パチパチパチ。そこでもう一回、聞くけど気力の減退感じる?」


 鋳薔薇さんのすごさが分かりましたっ。

 それはさておき、


「はぁ、はぁ、……あ、あの、気力というより体力の限界を感じていまして、そ、そっちの減退ははっきり分かります」


 超俊足の移動とはいっても自分の足で走っているわけで当然、体力を消耗するし疲労も蓄積する。

 

 気力さえなんとかなればと思っていた私がバカだった。

 体力に自信のない私があれだけ走れば、疲れて動けなくなるもの当然だった。


 はあ、これ絶対、明日筋肉痛じゃん。


 そんな私に星波ちゃんが一言。


「体力の限界、ね。でもわたし思ったんだけど、聖魔法のリカバルを自分にかければいいんじゃない?」


「あっ!」



【コメント】

 ・聖魔法で回復。その発想はなかったw

 ・ポン。その手があったか!

 ・星波様、ナイスアイデア

 ・やっと気づいたか、よっちゃん

 ・敢えて使わないという縛りプレイじゃなかったのか

 ・むしろ聖魔法って本来そっち方面だよね

 


 そうだ。リカバル。

 疲労を一発で回復できる便利魔法。

 傷や状態異常を治すことはできないけれど、その利便性はいわずもがなだ。

 

 なのに度忘れしていた私。

 モンスターを倒すことばかり考えていたからかもしれない。

 教えてくれた星波ちゃんに感謝!


「ふふ。じゃあ、かけてみて。まさかエンシェントロッドで使用できないなんていうオチはないと思うけど」


「はい。で、では早速――」私は自分にエンシェントロッドの先端を向ける「わ、我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者。血の盟約に従ぃ魔力マグナの付与を授からん――リカバルッ」


 刹那、電球色のようなオレンジ色の光が私を包み込む。

 それは紛れもなく、回復系魔法を使用したときの光り方だった。


 体が芯から温かい。

 まるで熱いお風呂に浸っているような、そんな気持ちの良さ。

 

 名残惜しさを感じる間もなくその体験は過ぎ去っていき、そして私は驚く。

 さきまでの疲労困憊がウソのように消え去っていた。


「つ、疲れが吹き飛んでるっ! 視聴者のみなさん、私のHPがなんと全回復しましたっ。わああぁぁ、リカバル、すごいっ」


 私は立ち上がって万歳をする。

 特級武具の軽さも相まって、体がふわっと飛んでいきそうだ。



【コメント】

 ・いや、それがリカバルなのでw

 ・そういう魔法だよ、よっちゃん

 ・ホーリーヴァレスティよりリカバルのほうが驚いているの草

 ・まるで上位魔法使ったかのようなはしゃぎ方w

 ・その全力の万歳がまた尊死

 ・わいの疲れも吹き飛んだで



「うん。良かった。これでまたボアウルフとたくさん戦えるね。あと70体、フラッシュアローで倒しちゃおうか」


 と星波ちゃん。――え?


「ええええええええええええっ!!?」


「うそうそ。あまりにもいい反応するから、ついいじめたくなっちゃっただけ。ごめんね」


 え? ええぇぇぇぇぇぇ……。


「よ、良かったです。本当に驚いたので。あ、あの、体力はマックスですけど若干の倦怠感はありますね。フラッシュアローをたくさん使ったからですよね?」


「うん、あとリカバルも使ったからね。一個だけエナジルの実を持っているのだけど、もうちょっと気力が消費してからあげるね」


 エナジルの実。

 現在、唯一無二の気力回復のアイテム。

 魔法師だったら一つは持っておきたい実だ。


 ただ、希少度Bで流通量も少ないので持ちたくても持てない魔法師も多いとか。

 でもなんで魔法を扱えない星波ちゃんが持っているのだろう。


 私のため、なのかな?


 なんていうのは、自惚れすぎでしょうか。

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