第30話 ダンジョン内は油断大敵ですね。死ぬかと思いました。


「私、気づきましたっ。こうやって逃げながら話してぃるじゃないですか?」


「「「ガルアアアアアアッ!!」」」


 私はまた(以下略)逃げる。


「この話すのを魔法の詠唱に変ぇれば、移動した先で魔法を――」


「「「ガルアアアアアアッ!!」」」


 私はまた(以下略)逃げる。


「唱えられると思ぅんですっ」


 つまり移動しながら文言の前半。

 そして移動先で文言の後半を詠唱するわけである。



【コメント】

 ・その発想はなかった

 ・俺は最初から気づいてた(キリッ

 ・誰か追いかけるボアウルフの頑張りも褒めてやれw

 ・追随するドローンも性能すごい

 ・詠唱の文言大丈夫か??

 ・間違えてほーりーヴぁれ使うに500円



 うん。詠唱の文言は大丈夫。

 ホーリーヴァレスティも間違えて使わないから、500円の投げ銭ゲット。


 ちらと星波ちゃんを見れば、こくりと頷く姿。

 あとは噛んでやり直しにならないように気を付けるだけ。


 よしっ。


 「「「ガルアアアアアアアッ」」」


 私はまた(以下略)逃げる。


「わ、我ぁぁアストライアと契約せしぃぃ聖なる汝を崇める者ぉぉおぉ」


 ちょっと変な詠唱になっちゃった!

 でもそのままいくしかない。


 私は超俊足で異動した先で、続きの詠唱を口にする。


「血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――フラッシュアローッ」


 お願い、うまくいって――っ。


 という私の願いが精霊アストライアに受け入れられたのか、エンシェントロッドの先端がぼうっと光り――、


 幾つもの光の矢が、こちらに迫りくるボアウルフに向かって発射された。


 ボアウルフ達の頭部や体にその数本が突き刺さる。

 断末魔の叫びを上げ、地面に倒れるモンスター。

 

 フラッシュアローは、聖属性の下位魔法に分類されるので威力は低い。

 とはいえ、レベル40から50のモンスターまでにはほぼ即死のダメージを与えられる優れた対複数系魔法だ。


 ということは、死んだボアウルフのレベルはそれくらいなのだろうか。

 

 それにしても、1匹逃さずにフラッシュアローが当たったのは幸いだった。

 対複数系といっても、運が悪いと全て当たらないときもあるのだから。

 何度も追いかけっこして、ボアウルフも疲れていたのかもしれない。

 

「みなさん、やりましたっ。ボアゥルフ達をやっつけました。フラッシュアローで大丈夫かなっていぅ不安はあったんぇすけど、ご覧の通りです。走りながら詠唱できることも知れて良かったですね。ちょっと詠唱怪しいかなぁって思ったんぇすけど、アストライアさんが許してくれました」



【コメント】

 ・おめでとう、よっちゃん

 ・うまくいって良かった!

 ・ほんと詠唱微妙だったけどなw

 ・アストライアの苦笑が見えた

 ・フラッシュアローもなかなか神々しいな

 ・あれ?

 ・やばい

 ・うしろ

 ・よっちゃん、うしろうしろっ



「え……?」


 うしろ?

 後ろが一体――と振り向けば、ボアウルフの顔が迫っていた。

 吐き散らす涎と獰猛な牙がはっきりと見える。


 うそ。そんな。


 私は目をつぶる。死んだと思いながら。


「グエェェ……」


 ?


 痛くない。

 というより噛まれていない。

 私は恐る恐る目を開ける。


 白目を剥いて舌をだらりと垂らしたボアウルフの顔が眼前にあった。

 頭部を横から剣で突き刺されている。

 その剣が引き抜かれると、ボアウルフは地面にくずおれた。


「全ての意識をライブ配信に持っていくのは厳禁、だよ」


 星波ちゃんがウロボロスソードで倒してくれたようだ。

 

「あ、ありがとうござぃますっ、……わ、私、私、本当に死んだかと思って……はぁぁぁぁ、油断しちゃってごめんなさいっ」


 体が震えている。

 本当に生きてて良かった。


「今度からは気を付けてね」星波ちゃんがウロボロスソードを鞘に収める。「とはいっても、どうしても配信がメインになってくるとやりがちなミスだったりするんだけどね」


「多ぃミス、なんですか?」


「うん。〝ダンチューバーがモンスターに殺されるきっかけとなる行いナンバーワン〟だもん。ベテランダンチューバーでもそのミスがきっかけで何人も命を失っているしね」


 そこで私は思い出す。

 過去にダンチューバーの動画を漁っているとき、


【グロ注意!!】ダンチューバーがモンスターに食われる映像100選


 なるものがあったことを。


 もちろん視聴などしなかった。

 だけど、そこには今の私のようなミスによって命を失った人がいたのかもしれない。


「あ、改めてありがとうござぃました。今後は気を付けますっ。み、皆さんもお騒がせしました。配信中に食われなぃように気を付けますっ」



【コメント】

 ・マジで焦った

 ・汗がどっと出たわ

 ・油断大敵。周囲をしっかり確認してな

 ・星波ちゃんありがとー!!!!

 ・ってところにまた出ないよな??

 ・よっちゃん食われるところはマジで見たくない

 ・星波ちゃんお願いよっちゃん守ってあげて!!



 本当に油断大敵ですね。

 私が食われるところなんて誰も見たくないでしょうから、本当の本当に気を付けます。


「あれ、でもおかしいな。よっちゃんのドローンって私が使っていた『オーディンVer.14』だから、モンスター警戒アラームが鳴るはずなんだけど」


「モンスター警戒ァラーム……ですか?」


「うん。ドローンにモンスターの気配を感じ取るセンサーが内蔵されているのだけど、ドローンを中心に半径50メートルで反応する優れもの」


「気配を!? そんなすごい機能があるんぇすかっ。やっぱりスマホとは違ぃますね」


「当然。だってこれ、ハイクラスのドローンだからね。てゆうか、モンスター警戒アラームくらいならミドルクラスにも普通に搭載されているけど、そのほかにもこいつには〝実空間構造化技術〟が用いられているの」


 じつくーかんこうぞーかぎじゅつ??

 

「そ、それは一体どのような機能で……?」


「半径100メートルのダンジョン内の全体を解析し状態を把握したのち、3D点群と画像に加えて移動体センサから得られるセンシングデータを相互活用し、モンスターの位置を把握する機能だよ」


 頭から煙が出る。


「せ、星波ちゃん、ごめんなさい。私、バカなんでほぼほぼ理解できてぉりません。み、みなさんはどぅでしょうか??」



【コメント】

 ・安心しろ。俺もさっぱりわからん

 ・じつくー……なにそれおいしいの?

 ・いいドローンだってことは分かった

 ・理解するんじゃない。感じるんだ

 ・今のって古代ダンジョン語だよね??

 ・よっちゃん、可愛い♥

  


 良かった。

 みんな分かってなくてほっとする私だった。 

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