第33話 次の相手です。名前はアルマルンジン……だっけ?


 ダンジョン内を下っていく私と星波ちゃん。

 地上のダンジョンといっても、ずっと地上にあるわけじゃない。

 どこかの段階で、地下ダンジョンのようになっていくのがほとんどだ。


 中には地下ダンジョンよりも深い地上のダンジョンもあるらしい。

 そういったダンジョンの奥底にはかなりの確率で超高価な〝ダンジョン遺物いぶつ〟が眠っているらしく、多くのダンジョンシーカー達のロマンを掻き立てていた。


 ちなみに台東Cは、そういった地上のダンジョンではなかったはずだ。

 でも最奥のボスを倒したさきには、超ではなくても高価なダンジョン遺物はあるはずだ。


 例え最奥のボスでなくても、強敵がいる部屋にも……、


「あっ」


 私は思わず、声に出す。


「よっつ、どうかした?」


「え? あ、ごめんなさいっ。あ、ぁの、私、ケルベロス倒したじゃなぃですか?」


「うん、そうだね。ホーリーヴァレスティでバシッと」


「はい。あの部屋って奥に鉄格子があって、まだ先があったと思ぅんです。もし部屋なら、そこに高価なダンジョン遺物がぁったのかなぁって」


「あー、そういうこと。確かに部屋はあったと思う。でもよっつを助けることに意識が向いててちゃんと確認できなかった。ごめんね」


「い、いやいやいやっ、別にいぃですっ、ち、ちょっと気になっただけなんでっ。ダンジョン遺物だったら何だったんだろうなぁって」



【コメント】

 ・よっちゃん、特級武具だけで我慢しよーや

 ・遺物があったとしてもう取られただろうな

 ・未踏の領域で最初の遺物。これはゲットしておきたかったな

 ・道が続いていた可能性もあったかもね

 ・ケルベロス倒したご褒美が星波様だよ、よっちゃん


 

 ケルベロスを倒したご褒美が星波ちゃん。


 そんなコメントを目にして、それは最高のダンジョン遺物だなと思う私だった。



 ◇

 


「ちょっとダンジョンの内部形状が変わっているね。わたしの記憶が正しかったら、ボアウルフの発生区域からこんなに下ることなかったもの」


「そうなんぇすか? でもやっぱりダンジョンって中が変わったりするんぇすね」


「ダンジョンは生き物。そういう人もいるくらいだから。――って、いたいた、次のモンスター」


「えっ! どどっど、どこですかっ!?」


「あそこ、岩の影で見ずらいけど……あ、出てきた出てきた。次のよっつの対戦相手はあいつ、アルマジンだよ」


 アルマジン。

 名前の由来なのか、巨大なアルマジロのようなモンスターだ。

 四足歩行ではなく二足歩行なので、中の人でもいるのかと一瞬思ったけど、もちろんいるわけがない。


「み、みなさん、あれが私の次の対戦相手のアルマルンジンです。いやぁ、硬そうで強そぅですね。でも負けません。おっきな頭にフラッシュアローぶちかましてやろうと思ぃますっ」



【コメント】

 ・アルマルンジンw

 ・何人だよwww

 ・北京原人の仲間かw

 ・二文字も増やす言い間違いが草すぎる

 ・おっきな頭にフラッシュアロー。プークスクス

 ・可愛い顔してぶちかますのギャップ♥



 え? アルマルンジンじゃなかったっけ??

 あ、アルマジンか。

 アルマジロ×人でアルマジン。よし、ちゃんと覚えました。


 と名前の確認をしている私のそばから消えている星波ちゃん。

 

 どこっ!?


 と慌てて探すと、ボアウルフ戦のときのように壁際の岩に腰をかけていた。


「がんばってね。危なくなったら助けるけど、極力一人で倒してほしいかも。よっつの成長のために」


 私の推しはボアウルフ戦同様、一緒に戦ってくれないようです。

 でも――、


「は、はい、がんばりますっ。なんかあのアルマル、アルマジン、動きが遅ぃから、フラッシュアローでちゃちゃって倒せちゃぃそうな気がします」


「下位魔法の範疇ならフラッシュアローに拘らなくてもいいよ。……それとよっつに聞きたいんだけど、モンスター大図鑑って読んだことある?」


「モンスター大図鑑……。あるのは知ってますけど読んだことはないです」


 1ページも。


「ふーん。そっか。じゃ、がんばってね」


 え? なんで聞いたの!?



【コメント】

 ・がんばってね、よっちゃん

 ・これは言うなってことだと了解

 ・お口チャックですね、星波様

 ・え、なになに? どういうこと??

 ・いや、読んだことないんかーいw

 ・多分、1ページも読んだことないんだろうな。散歩メインだったし



 なんだろ。

 星波ちゃんや視聴者の皆さんの反応が、なんかおかしい。


「グオオオオオオッ」


 その理由を考える暇もなく、アルマジンがにじり寄ってくる。

 と思ったら走ってきた。

 でもそれでもボアウルフに比べたらはるかに遅くて、私は余裕で魔法の詠唱を始める。


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――フラッシュアローッ!」


 数本の光の矢がアルマジンめがけて飛んでいく。

 そのうちの2本がモンスターに命中。


 やったっ。


 と、思ったのもつかの間、アルマジンは平然としている。


 あれ? あんまり効いてない、のかな??


 アルマジンのレベルがどれくらいかは知らない。

 だけどクラスCダンジョンである以上、ボアウルフとそう変わらないはず。

 

 実は効いているけどそう見えないだけで、実際は瀕死の状態だったりして。


 そんな期待を抱きつつ、私はもう一度、フラッシュアローを使用してみる。


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――フラッシュアローッ!」


 今度は一本だけが頭部に命中。

 でもやっぱりアルマジンは怯むことなく、私に向かってくる。


「グオオオオオオオッ」


 アルマジンが腕を上げて攻撃の体勢へと入る。

 私はエンシェントブーツの力を借りて、高速で退避。


 フラッシュアローが効かない?

 魔法といっても矢だから? 硬そうな皮膚だし。

 あるいは、効いてるけど鈍感なだけ?

 まさかやせ我慢??


「えーっ、どうしたらいいのっ?」


 ヒントを知りたくて、ちらりとコメントを見る。



【コメント】

・お口チャック

・お口チャック

・お口チャック

・お口チャック

・お口チャック

・お口チャック



 え? バグったっ!??

 そう思っても不思議ではない、視聴者様の謎のシンクロ率100パーセント。

 

 そ、そうだ、別の魔法を使ってみようっ。


 フラッシュアローのように対複数系魔法ではなく、単体に特化した魔法。

 それでいて星波ちゃんに言われた通り、下位のカテゴリのやつ。


 よしっ、


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者、血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――フラッシュフォース!」


 エンシェントロッドの先端に凝縮されるサッカーボール大の玉。

 それがアルマジンに見事ヒット。


 これは効いただろうと、ガッツポーズの用意をした私は愕然とした。


「グオオオオオオオッ」


 全っ然、効いてなぁぁぁぁぁぁいっ!

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