第28話 モンスターの臓物と血の臭いに慣れておかないといけません。


「そんな感じで楽しくバーベキューをやりまして、つぃさっき終わってみんな帰ったところなんです。そして今度は視聴者のみなさんとこぅして一緒につながってぃるわけです、はい。……そ、それでですね。今から台東Cをよっ散歩という流れなんぇすけど……ここでみなさんに重大発表がありまーす」



【コメント】

 ・!?

 ・っ!?

 ・すわ事務所の移籍かw

 ・立て続けに重大発表!!

 ・飽きんな、この舌足らずっ子は

 ・待って、全裸になるから

 ・まさかΣ( ̄□ ̄!)


 

 すごい胸がドキドキしている。

 

 視聴者のみんなの歓喜が想像つくから?

 本当に星波ちゃんとコラボできる嬉しさから?


 とにかく早く口に出してすっきりしたい――っ!


「じ、実は今日のよっ散歩、私一人じゃなぃんです。実はコラボの相手がぃまして――この方ですっ」


 私のアイコンタクトで、星波ちゃんがフレームインしてくる。


「みなさん、こんにちは。鳳条星波です。うぇいうぇい。今日は私のほうから無理言って、潜ネク仲間のよっちゃんのよっ散歩に同行させていただくことになりました。よっちゃんだけを愛でたい方には申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」



【コメント】

 ・!?

 ・!?

 ・っ!?

 ・ふぁっ!?

 ・ ( 'ω')ファッ!?

 ・えっ、本物の星波様!!?

 ・うそやろ????

 ・星波様キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 ・星波様のうぇいうぇい頂きました!

 ・これは嬉しすぎるコラボ

 ・みんな帰ったってゆーたよね、よっちゃん!?

 ・星波様も愛でちゃうっ♥

 ・みんなに星波様は含まれずw

 ・どこかで期待していたけども、やったーっ!!


 

 星波ちゃんが、うぇいうぇいやってくれたーっ!!


 予想していたけど、この反響はすごい。

 これが戦闘力(登録者数)516万である星波ちゃんの破壊力。

 今日はどんなライブ配信を見せてくれるのだろう。楽しみだなぁ、わーい。


 って、これ私のライブ配信っ!!


 漆黒のウロボロスマスターが私をちらちらと見ている。

 早く進行しろとばかりに。


 星波ちゃん、ごめんなさーいっ。


「そ、そそ、そぅなんですっ。今日はなんと同じ事務所の鳳条星波さんがコラボ出演してくれるんですっ。い、いま、星波ちゃんが無理言ってって言ぃましたけど、そんなことなぃですからねっ? でていーい?って聞かれて、もちろんですと答ぇて、このコラボが実現しました。

 で、では、さっそくよっ散歩を始めましょう」


「うん。始めましょう。えっと最初はどっちの墓場に行くんだっけ? よっつ」


「最初は、ぇっとボアウルフの墓場ですね」



【コメント】

・よっちゃんせなちゃんコンビ、いいなこれ

・黒と白の対比が美しい

・星波様はよっちゃんをよっつって言うんだな

・どっちの墓場ってどういう会話w

・ボアウルフの墓場!パワーワード出たw

・もう一つの墓場が気になるんだが!?

・よっちゃんぽとせなちゃんぽ



 私はぎこちない一歩を踏み出して、ボアウルフの墓場へと向かう。


 他愛もない会話――主に全てが奇抜な一番合戦さんについて――の話をしながら、のんびり散歩を続ける私と星波ちゃん。


 その星波ちゃんはバトルメインのダンチューバーだ。

 だから散歩なんて退屈かなって思っていたけれど、そんなことはなさそうだ。

 私が単純からかもしれないけれど、散歩を純粋に楽しんでいるように見えた。


 視聴者のコメントにもちゃんと対応してくれて、緊張でちょっとぎこちない私としては非常に助かった。


「そこを左に曲がるとモンスター徘徊領域だよ。あ、ほら、血の臭いしてきた」


 星波ちゃんが言った通り、鼻を撫でる鉄錆の臭い。

 一瞬、ももちんさんがいるのかと思ったけどそんなわけがない。

 実際、そこにいたの――わっ!!?    


 ボアウルフの死体が所せましと転がっていた。


「ひいいいいいいいいいいっ!!」


 あまりの凄惨な光景に私は悲鳴を上げた。



【コメント】

 ・正にボアウルフの墓場www

 ・これはひどい。姐さんやりすぎで草

 ・モザイク入れなきゃあかん案件

 ・よっちゃんには刺激が強すぎる

 ・そりゃ悲鳴も上げるR18映像w

 ・ボアウルフの怨嗟の声が聞こえてくるレベル

 ・平常運転のエロ撫子さん



「ど、どうやらボアウルフの墓場に到着したよぅです、ね。うっぷ、血の臭いすごっ」


 血の臭いもそうだけど、衝撃のグロ現場も半端ない。

 やっぱり液晶越しとリアルは全然違う。

 私はまた吐きそうになって、その場にしゃがみ込む。


「大丈夫? よっつ。モンスターとのバトルを繰り返していけば、じきになれるよ。モンスターの臓物や血の臭いなんて、本来ダンジョンシーカーには当たり前のものだしね」


 なんてことなさそうな星波ちゃん。

 最高ランクのダンジョンシーカーには、見慣れ過ぎて嗅ぎ過ぎてもはやダンジョンの一部みたいなものなのだろう。


 その点、私は、今までモンスター徘徊領域にすら入ったことのなかったド素人。

 エンドラさんやケルベロスを倒したといってもバトル初心者である。


 そのエンドラさんが言っていた。


 今私が着用している白銀エンシェントシリーズがあれば、ダンジョン配信の幅が広がると。


 でもそれって、前提としてモンスターの臓物や血の臭いに慣れておかなければならないんだと思う。


 そうだ。だったら――


「あ、ぁの星波ちゃん……と、視聴者のみなさん」


「どうしたの? 気持ち悪いならライブ配信中止にしてもいいと思う」


「ううん、そうじゃなぃんです。私――モンスターと戦いたぃですっ!!」



【コメント】

 ・!?

 ・どうした急に!?

 ・血に魅入られた?ももちんかw

 ・散歩の合間にバトル??

 ・そもそも戦ってしかるべきの特級武具

 ・よく言った!

 ・それって星波様のバトルも見れるってこと!?

 ・よっしゃ、ホーリーバレスティよろ

 ・いきなりのバトル共演やばすぎるだろ



 良かった。バトル配信に反対の人は見た限りいない。

 

 実はこの結果はある程度予想できた。

 先日、編集した【エンシェントドラゴンさんからもらった武具を身に着けて、所沢Dをよっ散歩♪】なのだけど、ケルベロス戦への反響がすごかったのだ。


 またあんなバトルが見たいという声が数多くあり、散歩にバトルを組み込めたらいいなと思っていた矢先の臓物と血の臭い。


 でもって、ここから先はモンスター徘徊領域。

 バトルしない選択肢はなかった。


 この私の判断をコラボ相手はどう思っているのだろうか。

 

「バトル、いいねっ。うん、やろうっ」


 笑顔が素敵な星波ちゃん。

 つまり、めちゃんこ乗り気だった。

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