第25話 エロ撫子、姐さん――愛染鋳薔薇さん。


「あ、戻って来たわね」


 星波ちゃんが指をさす。

 見るとそこには愛染あいぜん鋳薔薇いばらさんがいた。


 ももちんさん同様に、今日初めて生の姿を目にする愛染さん。

 

 動画でもそのスタイルのよさになんども溜息を出した私。

 でも実物の愛染さんはそこに、予想以上の色気が加味されていた。

 

 和で統一された武芸者のようないで立ちがまたカッコいい。

 それでいておしとやかという属性も相まって、男性受けが非常に良さそうだ。

 実際、男性のファンが圧倒的という話も聞いているけど、なるほどと納得する私だった。

 

 その愛染さんが右手に鞭を持って歩いている。

 その鞭の先にはモンスターが縛られていた。

 狼のようなモンスター。例のボアウルフだろう。


「遅くなってごめんなさい。どうしても肉質のいいボアウルフが欲しくて狩りに時間が掛かっちゃったの。50体狩って、ようやく満足できる肉を手に入れたわ。うふふ」


 50体っ!!

 肉質に拘る情熱(執念??)がすごいっ!

 

 数が尋常じゃないけど、ももちんさんの暇つぶしの40体よりかは意味のある50体のようだ。


「いつもだったら妥協しろと注意するところだが、今回は許す。今日はなんといっても潜姫ネクスト期待の新メンバーの歓迎会だからね。さあ、解体しようじゃないか、そいつをッ」


 一番合戦さんが二本の鉈をアフロの中から取り出す。

 それが通常らしいので、もう突っ込むのは止めた。

 

 ところで解体は、愛染さんではなく社長自ら行うらしい。

 バーベキューの準備やら解体やらと、アクティブに動く人だなぁと思った。


 なんてことを考えていたら、愛染さんが私のところにやってきた。


「おはよう、湊本四葉さん。知っているとは思うけどわたくしは愛染鋳薔薇。これから同じ事務所のダンチューバーとしてよろしくね」


「は、はぃっ、よ、よろしくおねがぃしますっ、愛染さんっ」


「呼び方は四葉ちゃんでいいかしら。何かほかに、これがいいという呼び方はあるかしら?」


「い、いえ、四葉ちゃんでだぃじょうぶです、はいっ」


 星波ちゃんが、よっつ。

 一番合戦さんとももちんが、四葉。

 鋳薔薇さんは、四葉ちゃん。

 視聴者の皆さんは、よっちゃん。


 色んな呼び方をしてもらって嬉しい私だった。


「私のことは今から鋳薔薇さんでお願いね。ところで四葉ちゃんに聞きたいのだけど、モンスターの部位で一番おいしいところってどこか知ってるかしら?」


「へ? 一番、おぃしい部位、ですか?」


 いきなり予想外の質問が飛んできた。

 モンスターの部位で一番おいしいところ……。

 

 え、全然、分かんないんですけどっ。


 仮に牛だとしても分からない私は、ぱっと思いついた部位を答えることにした。


「モモ肉、ですかね……?」


「うん、モモ肉もおいしいわね。今日狩ったボアウルフなんかも筋肉が発達しているから、ソトモモの歯ごたえは癖になると思うわ」


「そ、そうなんですか。早く食べたぃですね」


 良かった。

 あながち間違った答えではなかったらしい。


「でもね、一番おいしい部位はやっぱり断然、〇〇〇ピーーッ」


 っ!?

 今、何と……?

 男性のアレっぽい言葉が聞こえたんですが……。


「え、ぇっと、今なんて言ったんですか?」


 勘違いの可能性に期待を込めて、聞いてみる。


〇〇〇ピーーって言ったのよ。〇〇〇ピーーっ。もちろん〇〇〇ピーーーはオスのモンスターにしかない部位だけど、〇〇〇ピーーは味も触感も最高レベルの一品なの。タレなんかいらないわ。わたくしは焼くだけでそのまま、ぱくってほうばっちゃう。ああ……想像したら、欲しくなってきちゃったわ、〇〇〇ピーー。今日狩ったボアウルフにも立派な〇〇〇ピーーが付いているの。ああぁ……ぱくってむしゃぶりつきたいっ。でも今日はあなたが主賓だから譲ってあげるわ――〇〇〇ピーー


 がっつり男性のアレだったっ!!

 しかも7回も聞かされたので、頭の中でアレが7本浮遊している状態。

 

 私はそれらを追いやるように頭をぶんぶんと振った。


「そ、その食材、今日のところは遠慮してぉきますっ。ソトモモたくさん食べたぃのでっ。な、なので鋳薔薇さんが食べちゃってくださいっ」


「え? いいのかしら? とてもおいしいのに?」


「どうぞどうぞっ」


「あらそう? じゃあ、わたくしが頂いちゃうわね。パクっと」


 もしかしてそのアレを食べているところをライブ配信しているのだろうか。おしとやかキャラなのに??


 だとしたらそれは刺激が強すぎて、R18カテゴリなのでは??

 

 そういえば、一部界隈で〝エロ撫子〟などという不名誉なあだ名を付けられていたっけ。


 まちがいなく、それらが原因だと思った。



 ◇



「き、今日から潜姫ネクストにぉ世話になります湊本四葉ですっ。ず、ずっと、と言っても2ヵ月ちょっとですけど個人としてやってきて、事務所での活動の仕方は右も左も上も下も分からなぃド素人ですけど、一生懸命がんばりますのでよろしくお願ぃしますっ」


 びしっと90度のお辞儀。


 わああああああ、パチパチパチ――と、皆さんが歓迎してくれる。

 誰一人として私が所属することに否定的な人がいなくてよかった。


 ももちんさんと鋳薔薇さんはかなり特殊な個性の持ち主だけど、悪い人じゃない。

 早く仲良くなってコラボ配信がしたいと思う私だった。

 

 でも最初はやっぱり――、


 私は星波ちゃんにちらりと視線を送る。

 すると彼女は私の視線に気づいてくれて、にこって笑ってくれた。

 

「はい、みんなで四葉をサポートしていきましょうね。ここで使った1000万もしっかり稼いでいきましょうね。それでは四葉加入を祝して、かんぱーいっ」


 一番合戦さんが乾杯の音頭を取り、歓迎会はこうして始まった。

 社長が勝手に貸し切りしたんだろとの声も聞こえた。


 鋳薔薇さんが狩ったボアウルフの肉は、とてもおいしかった。

 ソトモモはもちろんのことウチモモやその他の部位も美味で、鋳薔薇さんが肉質に拘っただけはあるなと思った。

 

 その鋳薔薇さんはとろんとした目付きでボアウルフのアレをほうばっていたけど、その光景はやっぱりR18で私は目を逸らした。


 ももちんさんは肉を食べているときずっと、モンスターを刈るときどこを攻撃すればうまく切断できるかを説明してくれた。


 今までで一番の傑作は、巨人種のレベル530サイクロプスを連続攻撃で8つに解体したときらしい。誇らしそうに喋っているももちんだったけど、私の顔が引きつっていたのは多分知らない。


 一番合戦さんは普通に肉を食べていた。

 アフロからも何も出さなくて、至って普通だった。とにかく普通だった。


 こうして、私の歓迎会を称したバーベキューは進んでいく。

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