第17話 3人のトップダンチューバーがすごすぎる件。
潜姫ネクスト。
小規模ながら、今最も勢いのあるダンチューバー事務所。
その要因は当然、在籍する3人のダンチューバー達の活躍によるものだ。
◇
金潜章持ちで、主な愛称は〝
年齢は18歳。
チャンネル登録者数312万人。
モデル然とした肢体と艶やかな黒髪を持つ愛染鋳薔薇は、名前とは裏腹に御淑やかである。大和なでしこに憧れて料理配信を主に行っているけれど、食材のために無慈悲にモンスターを刈る姿は悪鬼羅刹そのものとも言われている。
使用武器は1級武具の、
その鞭で攻撃されると、全ての罪を洗いざらい吐露してでも逃げ出したい痛み、且つ敵に回したことを心の底から後悔するほどの激痛にのたうち回るらしい。モンスターの気持ちは分からないけれど。
◇
金潜章持ちで、主な愛称はももちん
年齢は17歳。
チャンネル登録者数355万人。
小柄で愛くるしい見た目である元地下アイドルの彼女は、バトル専門のダンチューバーだ。しかも、モンスターとのバトルが恍惚の境地と言い切るほどの戦闘中毒者であり、その荒々しい無双ぶりは大いに視聴者を熱狂させていた。
使用武器は1級武具のラブランデス。
風の属性であるそれは一振りごとに竜巻を起こす両刃の斧であり、切断され肉片となったモンスターが宙を舞うまでがセットの魅せる武器でもあった。一見、重そうだけど本人いわく、ピコピコハンマーくらいの重量らしい。
◇
虹潜章持ちで、主な愛称は星波様
年齢は17歳。
チャンネル登録者数516万人。
誰もが認める最強のダンジョンシーカーの一人であり、ギルド公認のダンチューバーでもある黒衣の剣士。鮮やかにして流麗な剣技、何者にもひるまない凛とした佇まいはもはや聖女の域に達していて、膝を付いて崇めたくなるほどだ。
使用武器は特級武具の
ウロボロスを倒して手に入れたその剣は、いくつもの焔の軌跡を描きモンスターを斬り倒す黒龍の牙。一度でも斬られたら最後、一切の反撃の余地を与えられることもなく絶望と恐怖の底に直行することになるだろう。
その、鳳条星波――星波様が私を助けた?
ここが潜姫ネクストの事務所というのも充分に驚きだけど、私を助けたのが星波様という話には遠く及ばない。本当なのだろうか。
「い、今の話本当なんですか? ぁの星波様が私を助けたって……」
「本当だよ。キミがガス欠で倒れた瞬間、あの子はすぐに助けに向かったんだ。自宅からヘリでね。で、キミが入った壁の向こうへと入り、キミを抱えて脱出。この事務所に連れてきて今に至るってわけ」
頭がほわああんとして、言葉の理解に追いつかない。
やがて言葉の意味を理解する私は、それでも信じられなくて「星波様が私を……星波様が……」と呟くことしかできなかった。
でもちょっと待って。
私が倒れた瞬間、すぐに助けに向かったってことは……。
「あ、あのっ」
私は前のめりになる。
「おっ、なんだ?」
「も、もも、もしかして星波様、私のラィブ配信を見てたんですかっ?」
「うん。視聴してたって言ってた。始まる前から待機してコメントも何度か書いたって言ってたよ」
ッ!?
あぁ、やばい。
やばいやばいやばやばのやば。
恥ずかしすぎて嬉しすぎてガチでやばすぎる。
あれ? なんか目の前が真っ白になっていく。
なんか体も軽いし魂が抜け出ていきそう……。
あは、あは、あはははははh
「うぉぉいっ、ち、ちょっとどうした!? 戻ってこい、えっと、こいつ名前なんだっけ?? あ、そうだ、湊本四葉っ」
なんか体が激しく揺れている。
「ほわぁ? あれぇ、ボンバーファンキーさん何してるんですかぁ」
「誰がボンバーファンキーさんだ、こら。キミが現世から旅立とうするから止めたんだよ。……ま、キミの立場からしてみれば信じられないサプライズだろうけど、これは事実だからね。今度、会ったときにでも礼を言ってやってくれ」
頭を振られて気持ち悪い。
だけどおかげで我に返る私。
ちゃんと星波様に感謝を伝えなければならない。
でもうまく言えるだろうか。
ただでさえ舌足らずで活舌が悪いのに、そこに憧れの星波様を前するという非現実が加わった状態で。
「ほ、星波様は今この事務所にはぃないんですか?」
「いないよ。キミをここに連れてきたあと、別のクラスAダンジョンに向かったから」
「はぁ、そぅですか」
良かった。衝立の向こうにいたらどうしようかと思った。
言葉もまとまっていない今、100パーセントの感謝を伝えられない自信があったから。
一番合戦さんが眼鏡のブリッジを中指でくいっと上げる。
「ところでキミって個人勢だよね」
唐突になんだろうか。
「え? はぃ。もちろんです」
「生活は大丈夫? 今回のライブ配信は大盛況で投げ銭だってたんまり入ってきただろうけど、今までド底辺のダンチューバーだったんだし」
ズバッと言ってくる一番合戦さん。
「そ、そぅですね。一応ウバウバイーツでの収入がありますけど、きつぃですね。あ、で、でも今、一番合戦さんが言ったように投げ銭の収入もぁるんで、今後は大丈夫……なはずです」
「確かにね。キミは今やうちの星波と同じドラゴンマスターの称号を持っているし、その特級武具だってある。それはとてつもなく大きなアピールポイントだ。キミの可愛らしい風貌と舌足らずな喋り方も相まってね」
顔が熱くなる。多分、真っ赤なはずだ。
何と言っていいか分からなくて、「いや、ははは……」と笑うに留めた。
「どんどんチャンネル登録者も増えて、比例するように視聴者も増えるだろう。うん、生活には困らないかもしれない。でも個人勢だとどこかの段階で限界を感じるかもしれない」
「はぁ、そんなもんなんでしょぅかね」
先日までど底辺だった私には、どこかの段階がどこなのかさえ分からない。
というより、一番合戦さんは何を言いたいのだろうか。
「それで物は相談なのだけど、その大きなアピールポイントをもっと効率よく使う気はないか?」
「と、言いますと?」
「潜姫ネクストの一員にならないか? キミをこの事務所に迎えたい」
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