第13話 所沢Dダンジョン内で、よっ散歩♪


 視聴者の多くが私の装備に興味を持っている。

 これはちゃんと全身の姿を見せたほうがいいだろう。


 私は立ち上がると、スマホから少し距離を取る。

 声が届くか不安だったけど、少しだけ声を大きくすれば大丈夫だろう。


「はい、皆さん。エンドラさんに頂ぃた装備はこんな感じです。これがエンシェントグローブでぇ、これがエンシェントブーツでぇ、これがエンシェントローブ。で最後にこの両手で握ってぃるのが、エンシェントロッドです。全部、すっごく軽くて、なんかこう綿のように、ふわって飛んでぃっちゃいそうです」



【コメント】

 ・すごい似合ってるよ!

 ・全身白銀とか神々しすぎる

 ・これ、間違いなく特級武具だな

 ・魔法使いよっちゃん

 ・仰げば尊死

 ・エンドラさん、ナイスチョイス

 ・飛んでいくw よっちゃん自体軽そうだもんね

 ・所沢Dに来ていく装備じゃないw


 

 私は喋りながらいくつかのポーズをとって、視聴者の皆さんに見せていく。

 漫画やゲームのキャラクター、あるいは魔法を使うダンジョンシーカーの真似をしたりして。


 それに対して視聴者がコメントしてくれて、ポーズの要望があればそれに応えていく。傍から見たら一人で何やってんだろうって感じだろうけど、実際には6000人ほどの人が見てくれているのだ。


 この視聴者との一体感がすごく気持ちいい。

 私の一挙手一投足に視聴者が反応してくれて、コメントまで書いてくれる。

 これがライブ配信なんだと、その楽しさに気づいた瞬間でもあった。


 私はスマホを自撮り棒にセットして左手で持つ。


「あ、もぅそろそろダンジョンの散歩しますね。一応、散歩がメィンのライブ配信なので。あ、今回、所沢Dを選んだ理由は、広くてまだ未踏の領域があるって聞ぃてるからです。その未踏の領域を散歩できたらいぃなと思うんぇすけど、誰か場所知ってます?」



【コメント】

 ・ようやく散歩開始か

 ・よっ散歩、よっ散歩♪

 ・特級武具のお披露目会じゃなかったっけ?

 ・特級武具着用して散歩とかシュールすぎるw

 ・クラスDでも未知の領域まだあるんか

 ・よっちゃん、誰も知らんから未踏なんやで

 ・少なくともヒキニートの俺は知らん

 ・天空行ったよっちゃんなら普通に見つけそうw

 ・クラスCならあると思う。でもDはなくね?


  

 クラスSだと30パーセント近く。

 クラスSSだと50パーセント。そしてクラスSSSだと80パーセントに及ぶ未踏の領域。


 単純に、クラスが上がれば上がるほど踏破が困難になっていくのがダンジョンというものだ。だからクラスSSSが80パーセントというのは充分に納得できた。


 逆に踏破難易度イージーのクラスDで未踏の領域がある可能性は非常に低い。

 なのに所沢Dダンジョンに関してはその広さゆえに、未踏の領域がどこかにあると噂されていた。


 私はダンジョンに入る。

 

 地下ダンジョンはほぼ全ての空間で闇が広がっている。

 だけどそれは未踏の領域だけだ。

 人が踏み入った場所は例外なくダンジョンシーカーの置いた霊光石れいこうせきが置かれていて、淡い青の光がダンジョン内を照らしていた。

 

 霊光石は多くのダンジョンで採掘できる。

 しかも野球ボール程の大きさで、1000平方メートを同じ明るさで照らせる優れものだ。

 

 その霊光石はギルドから、ダンジョンシーカーが1人3個以上は持つようにお願いされており、私も当然持っていた。

 

 ――いつか未踏の領域に入ったときに置けるように。


「未踏の領域を散歩したいって言ぃましたけど、見つけられる可能性は凄く低ぃので、いつも通りで進めていきますね。歩きながらなので元々拙い声が聞き取りにくかったぃするかもですけど、あと散歩なので退屈かもですけど、最後までお付き合いしてくれたら嬉しぃです」



【コメント】

 ・いつも通りでいいよ。俺はそれを求めてる

 ・未踏のは見つかったらラッキーくらいの気持ちで

 ・ダンジョン退屈でもよっちゃんの声が聴ければおk

 ・拙いのがいい

 ・ぶっちゃけ散歩はいいから声が聴きたいw

 ・音声ライブ配信もいけるで

 ・よっちゃんの声スコスコ

 ・貴重なアニメ声枠の大型ルーキーやな



 私の声が褒められている。

 これは正直驚きだった。

 自分ではあまり好きではない拙くて舌の足らない喋り方だけど、好きでいてくれる人がいる。


 これは私の自己肯定感をぐんと高めてくれた。


「――あ、皆さん、この花知ってます? バリムの花って言ぃまして、花弁から出てる気体吸うと声変わるんぇすよ。すぅぅぅぅ、――ごえがばぃばじだ? ヴェィヴェィ」



【コメント】

 ・めっちゃおっさんの声で草

 ・まず、その安易な名前をどうにかしよ

 ・声変わっても舌足らずがそのままだから身バレ必至w

 ・ヴェィヴェィ

 ・見た目と声のギャップが天と地www



「あ、すごい長ぃ直線見つけました。いつも散歩って歩いてぃるんですけど、なんかここ凄い走りたぃ気分です。ちょっと走ってみますね。わあああああああ……えっ? 早――コケッ」



【コメント】

 

 ・コケタwwwwwwww

 ・こけたw

 ・その叫びいる??

 ・ダンジョンは走っちゃいかんプークスクス

 ・なんかすげー早く感じたんだけど気のせい?

 


「ここ、夜になると頭上の穴から満天の星が見ぇる有名なスポットらしぃです。でも今は昼なんで星は全く――ボタッ――きゃっ、え? 鳥の糞?? 危なかったです。ぁと一秒早かったら頭ぃ食らってました」



【コメント】

 ・ニアミスもニアミスwww

 ・ここで運を使っちゃだめだ。糞だけに

 ・鳥の糞で有名なスポットの間違いじゃないか?

 ・見上げて目に入った奴もいるんだろうな

 ・糞よけの傘が必須だな



「なんか楽しそぅな声が聞こえますね。あ、天然の滑り台みたぃです。下まで50メートくらいぁりそうですね。これは滑るしかなぃですよね。なので滑らせていただき、きゃあああああああああああっ」



【コメント】

 ・その悲鳴は予想できたw

 ・横の婆さんが無表情だったの草

 ・ケツ、痛そう

 ・50メートル滑るbbaに全て持っていかれた感

 ・特級武具着て滑り台wwwwww



「あ、ここ綺麗です。霊光石の光と元々の赤ぃ岩肌の光沢が合わせって、なんとも言えなぃ、その、あれです。すごぃ綺麗です。みんな写真撮ってるんで有名な場所なのかもですね」



【コメント】

 ・【悲報】よっちゃん、説明をあれでごまかす

 ・えぐいほど綺麗やな

 ・よっちゃんと一緒に写真撮りたい

 ・色々と平和過ぎん? このダンジョンw

 ・よっちゃんのほうが綺麗だよ♥



「あ、このさきはモンスター徘徊領域ぃなるみたいですね。これ以上は危険なので右に進もぅと思います。……あ、今、誰かそっちに行きましたね。強そぅな装備だったので、モンスターいっぱぃ倒すのかもしれませんね」



【コメント】

 ・特級武具着てクラスDダンジョンが危険w

 ・多分、自分が私服だと勘違いしているほうに500円

 ・行くなよ行くなよ、絶対に行くなよ

 ・その誰かよりよっちゃんのほうが百倍強い

 ・ぶっちゃけバトルも見てみたい



 こんな感じでよっ散歩を続けていた私。

 いつもは大体、25~30分くらいの配信なのだけど、今日はすでに1時間経っている。視聴者と時間を共有していることが楽しくて嬉しくて、いつの間にかだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る