第11話 エンドラさんから頂いた特級武具を身に着けてみる。

 

 私は今、家にいる。

 ウバウバイーツの配達を切り上げて。


 多分、あのまま配達を続けても身が入らないし、気が散って事故に合いかねない。だったら意識の全てを、動画がバズったことに向けたほうがいいと思ったのだ。


 で、ベッドであぐらをかいて腕を組んでいる私。

 どうしたらいいのか分からなくて、その状態ですでに10分経っていた。


「……そうぃえば、装備品、ちゃんと身に着けてなかったっけ? まずはそこからかな」


 エンシェントドラゴンから頂いた装備品4点は今、壁の下に陳列されている。

 

 古びたアパートのワンルームに並べて置いても、その神々しさは失われていない。一体、これらの装備品はどれほどの価値があるのだろうか。


 価値というのはすなわち、等級のことだけど……


 私はそこで思い出す。

 あまりにも今更で、私は自分の頭をコツンと叩いた。


 エンシェントドラゴンと同じドラゴンであるウロボロスを倒したのは、やっぱり星波様だ。そして彼女は全身黒の装備を身に着けている。


 装備品の名前は、


 黒焔の剣ウロボロスソード黒焔の鎧ウロボロスアーマー黒焔の籠手ウロボロスガントレット黒焔の靴ウロボロスシューズ


 それらは特級武具であり、鳳条星波を鳳条星波たらしめる最強の装備だった。

 ちなみに能力の高い順に上から、特級・1級・2級・3級・無級。

 ちなみに無級とは、ダンジョン製ではない全ての着衣である。


「だったら同じェンドラさんからもらったこの装備も特級武具、だよね……?」

 

 おそらくそうだ。

 見た目、あるいは能力に多少の違いはあれど、そうに違いない。

 

 私はまずエンシェントブーツを履いてみることにした。

 まるで履いていないかのような軽さに改めて驚く。

 

 その後、エンシェントローブ、エンシェントグローブを身に付けて、最後にエンシェントロッドを握る。


 やはり重さをほとんど感じない。

 一体、どんな材質でできているのだろうか。

 ダンジョンは未だ未知で溢れているけれど、これもその一つだった。


 姿見の前に立ってみる。

 

 予想以上にカッコいいし、ロッドとローブがなんとなく私っぽい。

 これが仮に星波様のように剣と鎧の剣士風だったら多分違ったと思う。

 

 私のことを分かっているエンシェントドラゴンに感謝である。

 知略に長けているとはこれっぽっちも思ってないけれど。

 

 私はひとしきり姿見の前でポーズを決めて悦に浸ると、ロッドを眺めた。


 剣や槍、斧や弓が物理攻撃用の武器ならば、ロッドは魔法攻撃・支援・回復とマルチに使える優秀な武器である。しかも複数ある武器の中で魔法を扱えるのはロッドだけなので、必然的にレアな武具となっていた。


 例え3級であっても、価値はほかの同級物理攻撃用武具の3倍ほど。

 これが特級だったら価値は数十倍に膨れ上がるだろう。

 

 そして私のエンシェントロッドは、ドラゴンから頂いたこの世にたった一つの武器。その価値はもしかしたら数百倍になるかもしれない。


 ただエンシェントマスターである私専用らしいので、ある意味価値はゼロかもしれないけれど。


「でも魔法かぁ。詠唱ってどぅやったっけ? それと属性はなんだろ?」


 私はネットで〝ダンジョン魔法詠唱属性〟で検索。

 次に、ページの一番上の〝杖を手に入れたらダンジョンで魔法を唱えよう!〟というサイトをクリック。


 ずらりとでてくる詠唱の文言と属性、及び属性に付随する精霊と魔法の種類。

 それらは先人達が手に入れてくれた、ダンジョンの未知だったもの。


 そう、その全ては最初は誰も知らなかった。

 ただ、ダンジョン内で手に入れられるアイテムの中に杖があったことから、魔法が使えるのだろうということは予想できた。


 ダンジョン内を探索し、魔法を唱えるために必要な〝詠唱の文言・属性・精霊・魔法の種類〟をかき集めたダンジョンシーカー達。何十、何百という命を失い、ようやく魔法が当たり前に使えるようになったのが4年前のことである。


 それでもまだ完全に解明されたわけではない。

 特に魔法の種類はまだあるはずだというのが、大方の予想だった。


「さて、と……」

 

詠唱の文言はあとで覚えるとして、さきにエンシェントロッドの属性を知っておかなければならない。


 属性は〝火・水・雷・風・土・氷・闇・聖・無〟とあるけれど、さてどれだろう。


「口から火を吹ぃたし、やっぱ火かなぁ。それとも頭の角でも攻撃すごかったし、無属性の無かなぁ。あとは白銀エンシェントってぃうのがなんとなく聖属性っぽぃんだよね。……うん、多分どれかだと思う」


 3つに絞った私。

 

 あとはその3つの属性毎の精霊、及び呪文の種類を、詠唱の文言と一緒に頭に叩き込んでおけばいい。


 ――と思ったけど、忘れる可能性が大なので紙に書いておくことにした。

 

 今この場所で試せればいいのだけど、魔法はダンジョンでしか発動しない。

 人間の作った武器がダンジョンで無用の長物になるのと同じ理屈だ。


 ここから先は異世界ファンタジーです。

 ファンタジーの武器と魔法以外使用禁止。

 

 と一線引いてるダンジョンだけど、それもエンシェントドラゴンの言う神の気まぐれみたいなものだろうか。


 さて、こうなるとダンジョンに行くしかない。

 なのだけど、元々行くつもりだったのでそこは問題ない。

 ウバウバイーツを切り上げた時点で決めていたことである。


 問題はダンジョンで何をすべきか、である。


 私はYaaTubeで自分のチャンネルを確認。

 登録者数は12.6万人。


 最初に確認したときより、3000人くらい増えてる……。


 また、フラッする体をなんとか支える私。

 どうにも現実感が希薄で困る。

 このありがたい状況をちゃんと受け入れなければ。


「でも、この人達って私に何を求めてぃるんだろ。いつも通りの散歩? それともバトル? 多分どっちかだと思ぅけど……どうしよぉ」


【白の龍廟の間でエンシェントドラゴンを倒しちゃいました】の動画がバズって、配信者である湊本四葉という人間に興味を持ってくれた。だから登録してくれている。


 で、その他の動画はダンジョンの散歩であり、それが私のスタイルだということは多分理解してくれているはずだ。


「うんっ、決めた」


 そしてライブ配信の予約を行う。

 配信予定日時は14時30分。

 配信タイトルは【エンシェントドラゴンさんからもらった武具を身に着けて、所沢Dをよっ散歩♪】〟


 ただの散歩だから私服でも良かった。

 だけど特級武具を気に入ってしまった私は、この格好でダンジョンに行くことにした。


 もちろん原付で。

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