第7話 なんだか凄そうな装備をいただきました!


 なにやらちょっとご機嫌なエンシェントドラゴンが、ここがどこなのかを皮切りに色々教えてくれた。


 今私がいる場所は、〝白の龍廟りゅうびょうの間〟という場所らしい。

 20ある龍廟の間にはドラゴンが一体づつ存在していて、いつもは別の世界にいるけど人間がきたときだけその体を物質化するという。


 龍廟の間は主にダンジョンの中にあるのだけど、この〝白の龍廟の間〟のように単体で天空にあるのが3つあるらしい。


 現在、ドラゴンに認められてマスターとなったのは私を含めた7人で、そのうちの4人が日本人だという。その日本人にマスターの称号を与えたドラゴンは、エンシェントドラゴン、ニーズヘッグ、リヴァイアサン、ウロボロスの4体だとか。


 なぜ、わざわざドラゴンが龍廟の間で人間の相手をしているのか。

 それは地球にダンジョン生成をした神による要請であり、しぶしぶ従っているだけとの話だった。


「やっぱりダンジョンって神が作ったんですか。ネットじゃ、そぅじゃないかって話はぁりましたけど、やっぱりかぁ」


『作った理由は分からんがな。何か意味があるかもしれんし、単なる暇つぶしかもしれん』


 暇つぶしで、超ド級の天変地異的なものを発生させてほしくないんですけど。


 それはさておき、さっきのドラゴンの名前ででてきたウロボロス。

 確か以前、星波様がSS級ダンジョンで倒したドラゴンがそんな名前だったような……。


『役割を終えた我とこの白の龍廟の間は、もうじき消える。早く去ったほうがいい』


「えっ、消ぇちゃうんですかっ? で、でもどこから帰ればいぃんですか? 転移門とかないんですけど」


『転移門なら我が元居た場所にある。そこに我の〝欠片かけら〟も一緒に置いてある。持っていくがいい』


「あなたの破片? 体の一部? 肉片? そんなもの貰ってもなぁ」


『肉片などではないっ。分かりやすく言えば、装備品だ。白銀の杖エンシェントロッド白銀の法衣エンシェントローブ白銀の手袋エンシェントグローブ白銀の靴エンシェントブーツ――。我の名を冠し我の力が備わった極上の装備品をお前にやろうといっている。ところで剣でなく杖なのは、お前の長けた知略を考慮してのことだ』


 ダンジョン内で通用する武器や防具はダンジョン内でしか手に入らない。

 人間が作成した武器は、例外なく一切の殺傷能力が排除される。


 つまり最初に武器や防具を手に入れるには、攻撃力防御力共にゼロのままダンジョンに挑むことになる。


 言い換えれば、勇気と死の覚悟を持ったものだけが、ダンジョンシーカーとしてダンジョンに挑めるのだ。


 でもそれはダンジョン生成初期の話。

 今ではダンジョンで手に入れた装備品の売買が盛んに行われている。


 なので、ルーキーなのに装備品はいっちょ前なダンジョンシーカーがいるのも事実だった。


 ちなみに私の今の装備は攻撃力防御力共にゼロ。

 ウバウバイーツの配達でも着用している、いたって普通の私服だ。

 ダンジョン産の装備品は高くて買えない私だった。


 そんな私が、なにやら能力のすこぶる高そうなエンシェントシリーズ一式をもらえるという。

 ルーキーなのにいっちょ前なダンジョンシーカーになるのだろうか。


「あ、ありがとうござぃます。使ぃこなせるか分かりませんけど、大事にしますね」


『うむ。エンシェントマスターであるお前にしか扱えない装備品だ。ダンジョン配信とやらもその幅が広がるだろう。さあもう行くがいい。ここが消えたらお前は地上に落ちることになるぞ』


 それはまずいと私は、


「では失礼しますね。こっちのほぅも失礼します」


とエンシェントドラゴンの首をよじ登り、扉のわずかな隙間から向こう側へと行く。


『湊本四葉よ』


 神殿のほうからエンシェントドラゴンが呼びかけてくる。


「はい、なんでしょぅか?」


『ダンジョンを決して甘く見るな。神の作りたもうた物は本来、人間如きが立ち入っていいものではないのだからな』


 人間以上の生物であるドラゴン。

 だからこそ、その言葉には重みがあった。


「うんっ、甘く見ない。でも楽しもぅと思う」


『ふん。最後に会った人間がお前で良かった。さらばだ』


 エンシェントドラゴンの体が、キラキラとした砂のように消えていく。

 自分の世界に戻っていくのかもしれない。


 ということはこの場所がなくなってしまうのも時間の問題だろう。

 私は急いで奥に走っていく。


 あった。転移門。

 円形の魔法陣の上で〝湊本四葉をスタート地点へ〟と言えば、多分あの石碑があった場所に帰れるだろう。


 でもその前に――。

 本当に装備品があった。

 

 杖、法衣、手袋、靴、全てがエンシェントドラゴンと同じ白銀色であり、とてつもなく神々しい。


 私に合ったサイズ感で軽装備なのは私専用だからなのだろうか。

〝私にしか扱えない〟と言っていたし。


 でも、これを私が着用するの? 

 駆け出しダンジョンシーカーの鉄潜章てっせんしょう持ち&ただいま絶賛同接ゼロのド底辺ダンチューバーの私が?


 絶対に力の数パーセントも引き出せない自信があった。


 それはそうと、この装備品を持っていかなくてはならない。

 ちんたらしているとこの場所も消えてしまうから――って、なんとなく扉のほうを見ると、サラサラと霧散していく神殿が見えた。


 やっばーいっ。


「み、みなさん今日の配信はぃかがだたでしょぅかまた次回のよっ散歩で会いましょご視聴ありがとうござえすた」


 噛み噛みだけど、こんな状況で言い切った自分を褒めたい。

 

 ライブ配信を終えた私はスマホをリュックに入れる。

 次に白銀の法衣を持ちあげる。

 あまりにも軽くて投げてしまうところだった。

 

 杖も手袋も靴も同じように軽い。

 まるで綿のような重量感。


 防御力が低そうと思ってしまったのはさておき、この軽さはありがたい。

 私は全ての装備品を両手で持つと、転移門の中へ。


「湊本四葉をスタート地点へ」


 すると視界がぶれて、私は一瞬にして地上へと降り立ったのだった。

 

 降りた先は雑草の中。

 白の龍廟の間に行くときにあった広場や石碑、それに雑草のトンネルも影も形もなくなっていた。


 私は雑草をかき分けて、道へと出る。


「ふうぅ。なんかすごぃ一日だったな。そんなすごぃ一日を誰ともリアルタイムで共有できなぃ悲しさよ。……帰って動画編集しよ」


 それすら視聴者ゼロのままだったら、むせび泣いてもいいでしょうか。


 私はぽつんと置かれていた原付にまたがる。

 武具を落とさないように気を付けながら家路へと就いた。



 ◇



「これで、よしっと」


 私は動画を公開する。


 ほぼほぼ音声だけの箇所は、エンシェントドラゴンと私が喋っているところ以外は短くして、それ以外はそのままにしておいた。


 なんせ、エンシェントドラゴンである。

 彼(彼女?)が映っている映像をカットするなどできるわけがない。

 時間にして32分と少し長い気がするけれど、どうせ誰も見ないんだし――


 ううん、17人の登録者は見てくれるはずっ。いや、見てくださいっ! むせび泣きたくないんでっ!!


 タイトルは【白の龍廟の間でエンシェントドラゴンを倒しちゃいました】

 サムネイル画像はもちろん、エンシェントドラゴン。


「あー疲れたぁ」


 私はベッドに横になると、目を瞑る。

 

 動画の再生数は気になる。

 だけど、ウバウバイーツの配達、明日は何件いけるかなってそっちのほうばかりに意識が向いちゃって…………。


 そんな私の意識はすぐに深淵へと落ちたのだった。

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