第4話 エンシェントドラゴン、現る。
自撮り棒にスマホをセットして、ライブ配信のクリック。
私は自分を中心に撮影へと入る。メインであるドラゴンの石像はもちろん、あとだ。
「み、みなさん、こんにちは。ではなく、こんばんは。ダンチューバー四葉でーす。うぇいうぇいっ。えっと、き、今日はですね、午後にすでにライブ配信をしたんですけど、これはどぅしても配信しなきゃとぃう状況に置かれてまして、もう一回、配信しちゃぃまーす」
相変わらずの舌足らずと活舌の悪さにうんざりする私。
とはいえ、いい加減これが私なんだと受け入れなければならない。
「じ、実はですね。クラスDダンジョンの帰りに怪しぃ草むらを見つけたんです。なんかトンネルみたぃになってて、なんだろうなぁって入って進んだら、変な石碑みたぃなのが、あったんですね。そ、それでダンジョンではおなじみの象形文字が書かれていたんぇすけど、それを翻訳して声にして出したんです。そしたら、急に体が上昇して空に浮かぶ変な神殿に到着したんです」
同接は未だゼロ。
だけど後で動画を見られる可能性も僅かにあるのだから、このまましっかりやっていこう。
「その神殿は今は扉のぁっちにあって」
スマホを扉のほうに向ける私。
「その扉を抜けて今、このとても大きな部屋にぃるんですけど」
そして今度は今いる空間を移す。ドラゴンの石像が映らないように。
〝空に浮かぶ変な神殿〟というファクターが凄い重要なのに、映さないのはどうなんだろうか。と自分でも思うけど、ドラゴンの石像を映したあとでいいかと開き直る。
それと、扉が重くて強風が開けてくれた話は省くことにした。
なんかどうでもいい気がして。
「そこにはなんと――」
ちょっと声を大きくして。
「こんな大きなドラゴンの石像が――」
え?
ドラゴンがこっちを見ている。
深海のような深い蒼い瞳でもって私を凝視している。
先までは間違いなく両眼とも石だったはずなのに、今は違った。
言葉を失った私は、まるで自分も石像になったかのように固まる。
そんな私の眼前で、石像だったはずのドラゴンが命を吹き込まれたように、色を付けていく。
暗闇の中で白銀色に輝いていくドラゴンの体。
やがて全ての箇所が白銀色になると、ドラゴンが大きく身じろぎをした。
『扉が開いたかと思えば、ようやく人間がやってきたか』
ドラゴンの声が脳を震わす。
まるでこの大きな部屋自体が話しているかのように、声の圧力が凄かった。
人間の言葉を普通に話しているけれど、人知が到底及ばないドラゴンだからこそ可能なのかもしれない。
「…………」
『26年か。我が命の長さにくらべれば取るに足らない刹那の時だが、人間ごときに睡眠を邪魔されたというのがどうにも不愉快だ』
寝ていただけなのか。
そして、私がドラゴンの睡眠の邪魔をしてしまったと。
「…………」
『しかし、いずれ強者が来ることは分かっていたのでそれは良しとしよう。もう知っているだろうが、我が名はエンシェントドラゴン。ドラゴン族の始祖であり、父であり、王であり、最強である。貴様は何ものだ? 人間の女。答えよ』
人間の女って……?
私は周囲に人間の女がいないか探す。
いなかった。
「に、人間の女って……わ、私、ですか?」
私はなんとか声を絞り出す。
声帯までは固着していなかったようだ。
『そうだ。貴様以外に誰がいる』
「そ、そうですよね」
『さあ、答えよ』
多分、ここで正直に答えなかったら、口から吐き出される炎で焼き殺されるんだろうなぁ。と私はどこか他人事のように思った。
「わ、私の名前は湊本四葉です。歳は16歳です。し、仕事はダンチューバーでダンジョン配信をしています」
と言っちゃったけど、ダンジョン配信の収入はゼロである。
親の仕送りと、
『ダンジョン配信? なんだそれは』
「ぷふぅぅっ」
最強のドラゴンの口から、ダンジョン配信とかwww
『っ! 貴様、何を笑っている。我を侮辱しているのか』
エンシェントドラゴンの両目が吊り上がる。
多分、めちゃんこ怒ってる。
「ご、ごごごごご、ごめんなさいっ。違ぃます違ぃます。ち、ちょっと思ぃ出し笑いしちゃってっ。すぃませんっ、すぃませんっ」
高速のお辞儀を繰り返す私。
人生で、こんなに謝罪のお辞儀をするのは初めてだった。
『ほう、我を前にしてそんな余裕があるとは、〝対峙し戦う者〟だけのことはある。どうにも強そうには見えんが、秘めたる力を隠しているというわけか。それで? ダンジョン配信とは何か答えよ』
非常に気になることを言っていたけど、今はダンジョン配信について説明したほうがいいだろう。
「ダ、ダンジョン配信とは――……」
『ふむ、なるほど。ダンジョン内で風景、あるいはモンスターとの戦いやダンジョン産の食材での料理を撮影し、視聴者の皆さまにお届けするお仕事だと』
ぷっ……むぐ。
笑っちゃダメ、私っ。焼き殺されちゃうっ。
「は、はい。わ、私ぁもっぱら風景専門でして、今日もクラスDのダンジョンで散歩しながらライブ配信してぃました。あ、ちなみに私の名前から取って、〝よっ散歩〟って言ぃます」
『聞いてないことまで話すでない』
ピシャリと言い放つエンシェントドラゴン。
「す、すぃませんっ」
『さて、貴様のことは分かった。こうして聞いたのは、例え人間であっても、我と〝対峙し戦う者〟である以上、消し去る前にどのような者であったか知りたかっただけだ』
消し去る??
そういえば、〝対峙し戦う者〟というのが気になっていたけど、また出てきた。私は「あ、あのぉ……」と恐る恐る、それが何なのかエンシェントドラゴンに聞いてみた。
『何を言っている。そのままの意味だろう。我と〝対峙し戦う者〟とは貴様のことであり、これからそれが始まるのだ。安心するがいい。苦痛を感じる間もなく、我の業火で灰まで消し去ってくれようぞ』
え?
ええっ?
えええええええええええええええっっっ!!??
「ち、ちょ、いやいやいやいやっ、わ、私、あなた様と戦ぅつもりなんて一ミクロンもなぃですけどっ!?」
『ふん、何をバカなことを。あの扉を抜けてきた時点で、貴様が我と戦う意志があることの証明ではないか。扉の文字を読んだであろう。〝我、エンシェントドラゴンと戦う意思のあるものだけが入ることを許す。意思なきものは去れ〟と」
それ、訳すのめんどうくさくて読まなかったやつっ!
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