第3話 上がったさきは天空ダンジョン?
時間にして10数秒だったと思う。
超高速エレベーター(なのか?)は今は動きを止めていて、私ははぁはぁ言いながら、地面に大の字になっていた。
(なに? なんなのっ? 一体、何があったっていうのっ??)
全く状況が理解できない私はなんとか体を起こして立ち上がると、周囲に視線を向けた。
一言で言えば神殿だった。
パルテノン神殿とかああいった感じの、円筒形の柱に支えられた建築様式の。
その神殿の真ん中に私はいた。
「え? どこなの、ここ? ダンジョン??」
ダンジョンにしてはあまりにも荘厳すぎる神殿だ。
よく見ると神殿の奥に扉があり、先に進めるみたいだ。
進んだ先には、神殿の5倍ほど大きい豪奢な建物が立っている。
そのとき、ゴオオオォォォっ風が私に吹きかかる。
まるで谷間を通る強風かのようで、私はその風に押されるように地面にすっころんだ。
「いったーい。もぅ、何、今の風。……あれ?」
神殿の外に目を向ける私は、地上にいてはそのようには見えない物を視界に捉えた。雲が私の高さにあったのだ。
まさかと神殿の端によって目を凝らせば、それは間違いなく雲で、どうやらこの神殿は空中、それもかなり高いところに浮いているようだった。
「えええっ!? じ、じゃぁ、ここってもしかして……天空ダンジョン……?」
いや、そんなことはあり得ない。
天空ダンジョンがあるのは根室と箱根の頭上であり、東京の上には存在しない。
あの石柱の場所から上にあがっただけで行けるわけがないのだ。
ではここは一体どこで、何をするところなのだろうか?
考えたって分からない私は、さきほど見つけた神殿の奥に続く扉へと向かう。
それにしても明るい。地上はもう間違いなく暗いはずなのに、この神殿だけは昼のように明るかった。
まるで地上とは別世界であると主張するように。
吹きすさぶ風によろけながら私は扉へとたどり着いた。
扉は高さと幅、共に3メートルはある物々しいもので、いかにも開けるのが大変そうな重量感に、触れてもないのに溜息がでる。
両扉の真ん中にも象形文字が書かれていたけれど、強風のせいか、訳すのも面倒くさくて早速、扉を開けに入る。
しかし――。
「ん、んんんんんんんんッッッ!! 全っっ然っ、あっっかなぁぁぁいっ!!」
ぴくりとも動かないものだから、扉の形をした単なる装飾なのかと思ってしまう。
でもどう考えても扉なので、私は意地になってなんとか開けてやろうと模索する。
……あ、そうだ。両手で左右の扉の取っ手を持って開こうとしていたけど、それだと力が分散しちゃう。だったら――
私は右の扉の取っ手を両手でつかむと、思い切り引っ張る。
しかし動かない。……いや、わずかに動いた、ような気がする。
もう少し、もう少し、力が出せれば――っ。
私は後ろに倒れこむと、全体重を乗せて取っ手を手前に引き寄せる。
ギギィ……。
動いた。間違いなく。
でもそれは10センチほどであり、ひ弱な私にはもうそれが限界だと自分でも理解できた。
諦めるしかない。
そう決めたそのとき――。
ゴオオオオオオオオオオッ!!
今までに感じたことのない強風を左半身に感じた。
「ち、ちょっと、あわわわわわわっ!!?」
私の体が浮き、吹き飛ばされそうになる。
取っ手を掴んでいて良かった。もし何も掴んでいなかったら、神殿から外へダイブしていたかもしれない。
刹那、私の体が後ろへと動く。
え?? っと思ったときには、私は背中を扉の横の壁にぶつけていた。
「いったぁぁいっ」
そのタイミングで風が止み、私の体が床に落下する。
「うげっ」
尻から落ちて変な声が出る私。
でも一体、何が起きたのだろうかと扉を見れば、右の扉が開いていた。
どうやら今の強風でドアが開き、その勢いのまま私の体が壁に激突したらしい。
「開いた……扉。体中が痛ぃけど、やったっ」
私は尻や背中をさすりながら、扉の中へ入る。
真っ暗で何も見えない。私は再度ライトをリュックサックから取り出すと、建物の中を照らした。
先ほどの神殿と同じような円筒形の支柱が扉の両側に立っている。
それはどうやら建物の奥まで続いているようだ。
これ、絶対、一番奥に何かいるパターンじゃん……。
不安と恐怖に駆られる私。
だけど足が前に進んでしまうのは、これまたダンジョンシーカーだからなのだろう。草のトンネルを進むのとはわけが違うけど、ここで進まないのは多分、違うと思った。
危険だと思ったら、すぐに引き返せばいい。
幸いにもあの重い扉は開いたままだ。
私は左右にライトを向けつつ、恐る恐る前に進む。
代り映えのしない光景。
でも一番奥には絶対何か〝いる〟。
あるいは〝ある〟ことを確信しつつ私は歩みを続ける。
すると、ボォッと前方に浮き出てくる巨大な物体。
えっ? な、なに……ッ!?
ライトの光度では物体が大きすぎて、全体像を捉えることができない。
私はもう少し前に進み、物体の全体にくまなくライトの光を当てる。
こ、これって……ドラゴンの像!!?
そう。この造形は正しくドラゴンだった。
高さは首の長さを考慮しなければ、7、8メートル。
考慮すればその倍以上にはなるだろう。
横幅も高さ同様の大きさだけど、翼を広げたら20メートルくらいになるかもしれない。
特筆すべきはその頭部で、我こそが最強のドラゴンだと言わんばかりに、一本の立派な角が頭部から突き出ていた。
まるで伝説上の生き物である一角獣のように。
「あれ? ドラゴンも伝説上の生き物だけど……ああ、これ石像だもんね」
その巨体の威圧感はひしひしと感じるのだけど、石像だと分かればなんてことはない。私は安堵のためいきを吐くと、ポンっと手を叩く。
「ライブ配信しなきゃ。一応、登録者数17人いるし、誰か視聴してくれるかも」
前回配信同接者ゼロの悪夢もなんのその、ここで配信しなきゃ今後、ダンチューバーなんて名乗れない。名乗っちゃいけない。
個人勢である私の強みは、〝配信したいときに配信したいものを配信する〟である。
私はスマホを取り出すと電源を入れる。
型落ちのスマホが私の撮影道具だからだ。
現在、ダンジョン配信の主流となっている撮影道具は完全自立飛行型ドローンである。星波様のドローンのように700万を超える物から、10数万円で買える物もあり、その幅は広い。
でも私はその10数万円のドローンですら買えない貧乏人。
ということで私は、さっそくスマホを片手に配信を始めることにした。
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