シャイガイが体内で発電して東京を救うらしい

ブロッコリー展

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いつもほぼ確実にタマゴトーストサンドのコーヒーセットを注文してたから、今日はマスターに二度聞きされた。


「ベーコントーストサンドのセットで」と小さい声でシャイガイはもう一度言った。


もっとも危険なシャイガイにしては珍しいことだった。


売れてない芸人のサイン色紙のあるこの地下の喫茶店には彼の他には常連の社長と呼ばれている客しかいなかった。


手を動かすマスターを相手に社長は健康の話やゴルフの話、それから知ってる人がいるところではできない話を大きな声でしていた。


それまで薄暗かった店内の照明がいっきに明るくなって、そのことに驚いたように二人はキョロキョロした。


どの店舗も政府の出した節電令のせいで薄暗い中での営業を余儀なくされていた。国家への貢献度に応じて電力が融通された。全ての電力網は一括給電方式のエネルギー統治。


深刻なエネルギー不足。廃スマートシティだらけ。国民の不満は募った。


でもシャイガイが来店するといつも明るくなった。


なぜなら彼は体内で発電して周囲に絶えず給電できるのだから。


彼は国家転覆を狙う革命組織が秘密裏に誕生させたエネルギーマン。見た目はどこにでもいる普通のシャイな青年だが彼はとてつもないエネルギーを体内で生み出すことができる。


人体の気穴のひとつお腹のあたりの「神気穴』とブラックホールの作りが似ていることに着目して開発された人体ブラックホール発電でそれを可能にしていた。


何かの引き金で暴走が起こると地球を1京回破壊する威力があり、非常に危険なので性格はシャイな人物が選ばれた。今はまだ彼一人だ。


彼の座る小さなテーブル席へ、ベーコントーストサンドとコーヒーのセットをマスターが笑顔で運んできた。


もっとも危険なシャイガイは小さくお辞儀した。


「おっ打った、打った」と社長が店内のテレビに向かって声を上げた。


テレビではプロ野球中継。近くのスタジアムでのデイゲーム。もうナイターはできない。あしからず。


ホームチームが9回の裏に反撃に出ていた。



「よし、あと2点だ同点だ!」


地元チームへ二人が声援を送る。


それを見てシャイガイは急いで食べ始めた。急いで食べ終わらなければいけなくなったから。


このまま延長戦突入ということにでもなれば、時間的に照明の明るさ不足で日没コールドとなってしまう。


でも彼が行けば試合は続けられる。


もっとも危険なシャイガイは日々地道な活動を続けているのだ。


猫舌にこのホットコーヒーは熱い。


会計。


「いつもありがとうございます」と髭のないマスター。もしかしたらこの人はもう気づいているかもしれない。have a good energy


店を出るときもう1点入った歓声背中に聞いた。


地上に出て、すぐの道で信号待ち。黄昏時。


隣に立つOLさん二人組の話し声。


「だからね……、いつもニコニコ笑っていなさいって、そう言われたの」


「課長に?」


「そう、ミッキーマウスもドラえもんも人気キャラはみんないつも笑ってるでしょ」


「こうね、こうね、たしかに」


二人とも手で口角を無理やり持ち上げてながら笑い合っている。


「だから……、いつも笑ってなさいって、そしてみんなから好かれなさいって、仕事もきっとうまくいくよって」


「そうなんだ、あっ、少なくともあなたの笑顔は効果あるみたいよ、わたしのスマホに」


「なによそれ」


「だって充電器なかったはずなのに、満タンなってるんだもん。すごいわー、ビッグスマイル」


信号がflying気味に変わった。


道を渡るシャイガイ。


その際、彼は自分でも笑顔を作りかけて、やめた。


彼がもし誰かを明るくできるとするならそれは電力によってだけなのだ。


彼が歩く先にある各家庭が次々と明るくなっていく。アットホームって配れる。


通りで一斉にパーティーの始まり。go my way


電力不足休憩中の町工場の人たちも作業場に飛んでいった。


彼はスタジアムを目指して早歩きだ。白いスニーカー。


都市テツラ  領域パエーゼ  人民ポープロ  支配者シニョーレ  ……


今はまだ狭い範囲にしか給電できないが、いずれは改良されて一人でで都内全域をカバーできるくらいにはなるだろう。


そこまで頑張ったら彼にはしてみたいことがあった。


恋。


もっとも危険なシャイガイは安全保障上の理由により、まだ恋を知らない。can I?


恋はきっと電力なしで明るくなれるはずだ。


スタジアムが見えてきた。でもちょっと間に合いそうもない。


電気自動車タクシーを拾った。


後部ドアが開く。


「ごめんなさい、お客さん、ちょうど電欠してて……」


すまなそうなドライバーの顔。


タクシー業界は少し前までは自動運転化が進んでいたけど、電力を使いすぎるためドライバーが戻ってきた。


「行けるところまででいいんです」シャイガイは彼らしく言った。


「いや、ご迷惑かけちゃってもあれなんで、閉めますね……すいません」


ドライバーは運転席で向き直り、メーターを見てハッとした。


ドライバー仲間からエネルギーマンの都市伝説を聞いたことがあった。


すぐ振り返る、「お、お客さん」


でもそこにはすでに彼の姿はなかった。

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シャイガイが体内で発電して東京を救うらしい ブロッコリー展 @broccoli_boy

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