6—5 新たな夢

 空の食器が散らかる食堂に、騎士団のいびきが響き渡る。

 お腹を膨らませた騎士たちは幸せそうな寝顔を浮かべていた。


 シェノはメイティを抱きながら、メイティはミードンを抱きながら、ミードンはトマトを抱きながら、すうすうと寝息を立てている。


 ほんわかとした空気感の中で、僕は目を細めちゃう。


「みんな寝ちゃったね」

「当然よ。あれだけの戦いの後だもの」


 そう言うイーシアさんは優しく微笑み、シェノたちに毛布をかけていった。

 僕もイーシアさんを手伝い、みんなに毛布をかけながら、ついでに食器も片付ける。


 美味しいご飯に騎士団のみんなの楽しいお話、メイティの圧勝で終わったボードゲーム大会。食器を片付けるたび、勝利のお祝いパーティーの楽しさを思い出し、僕の頬は緩んじゃう。


 それでもさすがに、片付けを終える頃には思わず大あくび。

 イーシアさんは僕の手を取り言った。


「フフフ、レンくんも眠たそうね。ほら、自室に戻りましょ」


 ということで僕は、眠気の中でイーシアさんに連れられ、艦内を歩く。

 艦内を歩く最中、イーシアさんがふと僕に尋ねた。


「ねえレンくん」

「うん?」

「自分の出生の秘密を知って、シェノちゃんたちを守り切って、レンくんは夢を叶えたわよね」

「そうだね」

「じゃあ、これからレンくんは、どうしたいのかしら?」


 イーシアさんの質問に対する答えは、すぐに出た。


「僕の夢は、みんなを守ること。これはマゾクとの戦争が終わるまで、完全には叶えられないと思うんだ。そして僕は、マゾクを倒せるだけの力がある。だから、騎士団と一緒にマゾクと戦って、戦争を終わらせる。なんて、ちょっとやりたいことが大きすぎるかな」


 やっぱり曖昧な夢だけど、本気の夢だ。

 笑われちゃうかもしれないけど、これが僕の新しい夢なんだ。

 僕の答えを聞いて、イーシアさんは笑うどころか、目を輝かせた。


「まあ! 大きな夢を語るレンくん、すっごくかわいいわ!」

「うっ……その言い方、なんか恥ずかしいよ……」


 伏し目がちになる僕。

 キラキラとした瞳で遠くを見つめたイーシアさんは、懐かしそうな顔をした。


「戦争を終わらせるなんて、1100年前のことを思い出すわね。艦長も同じようなこと、言ってたわ」


 つまり、僕は1100年前から続く戦争に終止符を打とうとしていることになる。

 当然、それは僕一人でできることじゃないよね。

 となると、一緒に夢を叶えてくれる人が必要になるのだけど――


「シェノとメイティ、騎士団のみんなは、僕の夢に協力してくれるかな?」

「そこは心配ご無用よ! みんなもレンくんのことが大好きだから、絶対にレンくんに協力してくれるわ!」


 自信満々なイーシアさんの答えに、僕はまたも恥ずかしい気持ちに。


 ただ、みんなが僕のことを大好きかどうかは別として、イーシアさんの言う通りだろう。

 シェノたちだって、僕と同じく誰かのために戦い続けている。そんなシェノたちなら、僕と一緒に戦ってくれるはず。


 将来のことを考えて、僕は自然と拳を握っていた。

 それに気づいたイーシアさんは、機械の手で僕の頭を撫でながら、優しく笑った。


「みんなを守るレンくん。なら、私はそんなレンくんを守るわ。これからも一緒に頑張りましょうね」

「うん! よろしくね、イーシアさん!」


 マゾクに作られた存在である僕と、プロテクター・オートマタであり空中戦艦そのものであるイーシアさん。

 僕たちは純粋な人間ではないけれど、そんなことはどうでもいいんだ。

 きっと僕たちなら、大きな夢も叶えられるよね。


 さて、気づけば僕は自室に到着していた。

 自室のベッドに腰掛けた僕は、目の前で着替えはじめるイーシアさんに尋ねる。


「ところでさ、なんで僕の部屋まで来たの?」

「もちろん、一緒に寝るためよ!」

「いや、さすがに一人で寝られる――」

「あれだけ激しい戦いの後よ! レンくん、すっごく疲れてるはず! もしレンくんが疲労や筋肉痛で苦しんでいたら……うん、私がそばでレンくんを見ていてあげないと!」


 直後、イーシアさんはパジャマ姿で僕のベッドに潜り込む。

 一緒にお風呂に入ってきたり、心配だからと僕のベッドに入ってきたり、1100年間も僕を見守り続けてくれたり。


――やっぱり最強の空中戦艦は過保護すぎる。

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最強の空中戦艦(巨乳のお姉さん)が過保護すぎる! ぷっつぷ @T-shirasaka

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