脂肪燃焼機

兎波志朗

第1話 脂肪燃焼機



マサルはいま、今世紀最大の疑問に頭を抱えていた。


それは、親友のフトシの体型のことだ。


高校のクラスメイトのフトシとマサルは中学時代からの親友でお互いある共通点から仲良くなった。

それは二人ともかなりの甘党と言うこと。

ただの甘党ではない、かなりの甘党だ。

ケーキバイキングに行けばケーキをホールで食べ砂糖の入ってない食べ物は食べ物じゃないと提唱しどんな食べ物にも砂糖をかける、かなり甘党の二人。


そんな甘党の二人は体型もそれなりでクラスの平均体重を上げその二人の体型から不思議の国のアリスに出てくるトゥイードルディーとトゥイードルダムと呼ばれている。


マサルとフトシ、通称ディーとダムは一応思春期の男の子、フランクフルト男子が世間で流行っていると言うがそんなの全然嘘っぱちというのはフランクフルトの二人が1番よく知っている。モテるために脱フランクフルトを試したことはあるがやはり食べ物と天秤にかけると食べ物に動いてしまい二人は結局フランクフルトのまま日々を過ごしていた。


そして話を戻して今現在、男2人でスイパラでケーキを食べに来ているのだが、そんなフトシにありえない変化が起きていた。


(フトシが、、、痩せてる)


マサルは目の前でケーキをがっついているフトシの様子が変わっているのに理解が出来なかった。夏休みに入り2週間前後会わなかったがTwitterの投稿はほぼデザートテロで痩せようとした動きは一切なかった。それなのに久々にあったフトシはフトシではなかった、ホソシだ、まるで流行りの転生して名を変えホソシに生まれ変わったようだ。一体なにがフトシをホソシにしたのか?

運動?いやフトシはマット運動するくらいなら俺はロールケーキに包まりたいとぬかす程運動を嫌っている。食事制限?いやいや今目の前でケーキをどか食いしてる男にそんな節制する力はない。


もはや本当にフトシではなくホソシという男と会っていると言った方がマサルには説明がついた。


(なぜなんだ、、、?)


そんなことを会った時から考えているとあまりに不思議な顔をしていたのかホソ、、いやフトシがマサル話しかけてきた


「どうしたんだよマサル?さっきから全然食べたてないじゃないか?」


「いやちょっと考えごとを、、、」


「なんだよ、なんだよ考えごとなんてらしくないぞ!あ!さてはこの後の晩御飯の行き先だな?それはもう決まってあるから大丈夫だって10ポンドのシフォンケー」


「それが、そうじゃないんだ」


「え…違うのか!?おいおい飯じゃなかったらなんなんだよ!?俺たちトゥイードルディーとトゥイードルダムだろ?おい、ダム!しっかりしろよ!お前がダムじゃなかったら俺はただのディーになっちまうよ!ただのデブになっちまう!」


いや、お前もうディーのおもかげねぇじゃねぇか!最初からこの場にダムしか居ないんだ!ただのデブしかいないんだよ!、、、というツッコミは心にしまいこのままでは要領を得ないのでマサルは本題を切り込むことした。


「しっかりしてるわ!お前こそどうしたんだよその体型!」


「…ふぇ?」


「ふぇ?…じゃねぇよ!明らかに体型変わってんだろ、会った時からずっと気になってたわ!」


マサルが体型の話しを切り込むと突然フトシは恥ずかしがり


「…あ、き、気付いた?」


「誰でも気づくわ!一体どうしたんだよ?」


「えっ、やっぱ気付いた?いやー照れるな〜まいったなー気付いたか〜」


フトシは体型のことを聞かれモジモジとバツが悪い感じでしゃべるが滲み出る喜びと勝ちほこった感を抑えきれてないようだ。


「フトシ、お前いつからダイエットなんてしたんだよ?」


「いやーそれが実は…知りたい?」


「そりゃそうだよ、なんなんだよ?どうやったんだよ?」


「えーどうしょっかなー…んー」


何故か妙に勿体振る元デブのフトシ。

いつもならこの手のノリは軽くスルーするが今回はそうはいかない。

なんてったってフランクフルト体型の男が2週間足らずでフランクフルトの衣どころかソーセージまで消えただの棒になっている。

しかもヤバい薬で痩せたか脂肪を剥いだ様子もない、なんなら以前より健康そうな見た目だ。

思春期ど真ん中のマサルはそれにあやかりたくてしようがない、この場でスルーしてしまえば夏休み明けからマサルはただのデブになってしまう。


「なぁ、教えてくれよ!俺たち親友だろ!?ダムとディーだろ!?」


「そうだな…マサルがそこまで言うなら教えてやるよ。ちょっと今からウチによってくれ、ただし絶対にこのことは内緒だからな?」


そう言ったフトシにマサルは頷くと晩御飯を食べずにフトシの家へと向かった。




「は?」


マサルの第一声はそれだった。

フトシの家に着くと部屋に案内され今一度誰にも言わないか?と最終確認され頷くと引き出しから大事そうに出したそれを見て思わず出た言葉だった。

フトシの手には手持ち扇風機が握られていた。


「え?これ?」


「そう、これだ。」


「いやいやふざけんなよ、なんの冗談だよ?」


「冗談じゃないんだよ!信じてくれよ!!」


最初こそデブの俺をおちょくってるんだと思ったがフトシはかなり真剣な表情だ。


「マジなのか?」


「マジだよ、ほら」


そう言いフトシはマサルに手持ち扇風機を渡した。

ほらと渡されたが見れば見る程何処にでもある手持ち扇風機にしか見えない。


(これでどうやって痩せるんだ?)


困惑したマサルだが扇風機を渡されたんならとりあえずスイッチを入れてみるかとスイッチを押してみた。


ブゥイーブゥイー


やはり普通の扇風機だ。

やっぱりおちょくってるのか?

そう思いながら扇風機を顔に当てているとマサルは変化に気がついた。


(なんだ?汗が止まらない?)


なんと扇風機を当てている箇所から汗が止まらない。ドンドン湧き出てくる。


「どうだ?ただの扇風機じゃないだろ?」


「フトシ!どういうことだよ!?」


「その扇風機は、あてた箇所の脂肪を消せるんだよ!」


「なんだよそれ!?」


「実はこれ、アメリカで肥満対策として作られた脂肪燃焼扇風機なんだ!」


なんとこの一見冴えない手持ち扇風機はアメリカで開発されたダイエットマシーンらしい。

しかしこんな機会が開発されたなんてニュースをマサルは知らない。一体どうやってフトシは手に入れたんだと疑問が生まれる。


「俺は夏休み中にどうしても痩せたかった、しかしラクをしたい!そんな時ネットを見てるとこれのページを見つけた、アメリカにも俺たちみたいにラクして痩せたい奴らはわんさかいる、そんな奴らが集まって開発したのがこの扇風機、そしてこの扇風機はまだ開発段階、最終チェックとして希望者にこの扇風機を使ってもらう募集をしてたのさ、俺は怪しいと思ったけど無料だったから思わず申し込んだ!そして届いて試した結果が、この身体さ!」


マサルはフトシの話しが終わると歓声を上げていた、今後の人生でこれほど素晴らしいプレゼンがあるだろうか、ビフォーとアフターを知ってるぶん効果は絶大だった。


「凄い!凄いよフトシ!!そんなものを見せてくれるって言うことは?」


「そうだよマサル!それを使ってくれ、一緒に生まれ変わろう、もう俺たちはマサルとフトシじゃない、ヤセルとホソシになろうじゃないか!」


「フ、フトシ…」


マサルは本当に良い友達をもったと思った。

これで痩せれる、痩せれるんだ!


「マサルは親友だからな!あ、そうそうただ一つ注意しなきゃいけないことがあって、まだ開発段階だから強には、…あれマサル?」


なんとマサルはいち早く痩せようと思いフトシの話しを聞かずに帰ってしまった。




話しも聞かずに帰ってきたマサルは自室の鏡の前で自分の脂肪にお別れを告げていた。


さっきからフトシから電話が鳴り止まないが留守電を入れてきたから後で確認しよう、そうそんなの後回し後回し、痩せるのが先だ。


小さい頃から太っていたマサルはフラフープを持たされ土星のモノマネしろよと虐められてきたがもう違う、マサルはヤセルになる決心をした。


「…よし」


ブゥイーブゥイー


扇風機を動かし当てる場所からどんどん熱くなり汗が出て来ている、こんな簡単に燃焼出来るなんてとマサルは感心していた、しかし


1時間後


マサルは大量の汗はかけどあまり変化が見られない、やはり小さい頃からの蓄積かなかなか痩せない、しかも1時間も腕を使っているので腕も疲れてきた。


「ダメだー、もっと劇的かと思ったけどそんなことなかった」


パッと痩せれると思ったマサルだがそんなことはなかったようだ、1日1時間でフトシはあの体型になるのに会ってない期間、つまり2週間はかかったに違いない、つまりマサルも2週間たてばあぁなるのだろうが夏休み終わりまでもう1週間しかない。このままでは痩せたフトシとちょいデブのマサルになってしまい、夏休み後のスタートダッシュに乗り遅れてしまう。


(さて、どうしたものか。)


困り果てたマサルは扇風機をチラッと見てみると強さを調整出来るスイッチを発見した。


「なんだよ!今までは弱だったのか!強があるじゃねぇか!」


フトシも言ってくれたらいいのにとブーブー言いながらマサルはスイッチを強に切り換えた、するとさっきとは回転の仕方が変わり、力強い回転に変わっていた。


(す、凄いこれなら)


マサルは恐る恐るお腹に当てると凄まじい勢いで発汗していった。


「凄い!これは凄い!!」


マサルのお腹はみるみるうちに痩せていく、みるみるみるみる痩せていく、みるみるみるみるみるみる煙を出しながら。


「ん?煙?」


マサルが身体の異変に気付いたのは強にしてから数分後そこには発汗しながら煙を上げる自分の身体があった。


「え?なに?なになにどういうこと?熱い、なんだか身体が熱い。」


マサルがそう感じた時にはもう遅く身体のあちこちが熱を出して煙を上げている、一体どういうことなんだ?焦るマサルはさっきのフトシの留守電を思い出しこれのことを言いたかったのかと留守電を再生した。


「もしもし?マサル!?さっき聞かずに帰っただろお前!?いいか!絶対に扇風機を強にするなよ!その扇風機はまだ試作段階だから強にすると文字通り脂肪を燃焼しちゃうんだ!つまり脂肪が燃え始めるからな!?いいな?絶対に扇風機を強にするなよ!?」


「そ、そんな」


マサルは留守電を聞き終わる頃には全身から煙が上がっていた、そしてついに腕から火が付いた…


う……ゔぁァァァァァァァァァァ!!!!








夏休み明け痩せたフトシの回りにはクラスメイトが周りを囲っている、痩せたフトシのことを凄い凄いと讃えていた。




しかし、そこには現在火傷で入院中のため1番の親友の姿はなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脂肪燃焼機 兎波志朗 @NAMIUSAGI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ