獣の哭き声

鳴深弁

獣の哭き声



きっついんだよ。


真っ暗な世界で、獣が哭いていた。


空間を震わせる声に、それは私自身だと厭気が刺す。


うちに秘めた獣を認識して、息が上手くできなくなりそうで、

生きてることを確かめるように強く目を瞑った。


真っ暗な世界で哭いてる獣は想いが溢れて、制御できないらしい。

暴れないように呼吸を意識した。



好きなのに


愛おしいのに


こんなにも苦しい。


大切なものを


大切にできなくて


自身から大切なものが護れなくて


いつも失う。


失って


喪って


亡って


感情のタガが外れるといつもこうだ。


頭が痛くなって、身体が呼吸がままならない、まるで本能に生きる獣そのものみたいだと嘲笑う。



身体が、心が軋む。

バラバラに壊してくれと咆哮をあげる。



愛し合って育む事が、どうしてこんなに難しいのか。

想い出が、あの人から貰った時間が本当に眩しくて、

大好きで大切なのに、壊して、失くして、そんな愛し方しかできない。


涙で、切なさで、息が詰まる。


上手く呼吸が出来ない。


愛してると心が叫ぶのに、

身体がままならなくて、私から護れなくて、本当にごめん。ごめんなさい。


一人泣いて、鳴いて、哭いた。


護りたいと願い、手を伸ばす、

手の中の貴方を守ろうとする程、爪が食い込む。

護りたい気持ちと反比例し、怖くなって手を放そうとする醜い獣の手を、

温かな声で「大丈夫」優しくいう貴方に胸が締め付けられる。


その声が、笑顔が、愛しくて、悲しくて、辛い。


私なんかを大切にする貴方を失くしたくないと叫んで、手を放した。


貴方が居たから強く成れた、強くあろうとした、もっと高みをと目指せた。


それなのに私から貴方を護れなくて、ごめんなさい。


愛しいのに、愛してるのに、手を放す事しか出来なくて、そんな愛し方しか出来なくてごめんなさい。


真っ暗な世界で獣は咆哮をあげ、


闇に呑まれる瞬間を待ち焦がれる。



お願いだから、私という獣がもう誰も傷付けませんように。

私の命を賭して叶うのであれば、大切なあの人が笑っていてくれますように。


薄れゆく意識の中で、獣は哭いた。


音は静かに闇へ呑まれて消える。

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