第46回 なぜいまSFなのか? (3)

 アマチュアレベルでもこの傾向は大きいです。ハヤカワSFコンテストの選考をひとつやふたつクリアした猛者がごろごろいますし、創元SF短編賞の選考に通ったひともたくさんいます。明確に上手いひとがたくさんいるということを自主企画を通して肌で感じています。さいきんですとこの連載に登場した武石たけし雄由かつよしさん(改名され武石勝義さん)が日本ファンタジーノベル大賞を受賞しました。

 ここでカクヨムにおけるSF業界の市場をかんたんに言ってしまえば、異世界ファンタジーのほうが若者を多く取り込んでいますし、大きいです。書き手と読者のバランスがいいのでしょう。ですからSFは比率としてかなり小さいと思ってください。過去に伊藤計劃の「虐殺器官」のオマージュ作品、凛 春燕/ばいぱーさんの「ユリシーズ・ミッチェル中尉の告白」(https://kakuyomu.jp/works/16816927861954808895 「雀蜂の命日」に収められています)が好評でしたが、カクヨムコン4の短編部門で総合3位にまで上り詰めました。なので、SF短編のみで言えば、それ以上の成功はおそらくないと思います。


 SFにも科学的裏付けを重要視するハードSFや「ドラえもん」のような世界のもの、星新一的なショートショート、すこし不思議とよばれるもの、「図書館戦争」のようなスペキュレイティブ・フィクション、スペースオペラのような騎士道物語をSFとして脚色し直したもの、「ニューロマンサー」から始まったサイバーパンク、歴史改変もの等いろいろあります。ただし、どのカラーの作品を選びとり、書くにしても、上手で、かつ美しい物語を綴ることのできる人間が同時代に存在しすぎるという問題からは離れられないでしょう。

 これはSF読者にとっては喜ばしいことかもしれませんね。おいしい料理運ばれてこないわけですから。この状況で下手な作品は書けない。この心理がますますSF業界を盛り上げ、全体のレベルを過熱させます。


 でも私はもっと気楽にSFを書くのがいいと思います。作品の良し悪しは作家同士のコミュニケーションの内側に寄るものだけではありません。見誤ってはいけません。読者にだってSFを選ぶ絶妙な嗅覚があるはずです。そのなかで自分を磨くのがいいと思います。SFは書いていてそれほど注目される分野ではないかもしれません。でも確かにそこには読者という数に寄らないひとりの人間がいます。彼らを見て書きましょう。彼らはあなたの物語を読みに来ているのです。

 SFを書く人間はたくさんのハードルを越えていかなければいけません。いっしょに頑張ってみましょうか? それとも引き下がりますか? それはあなた次第です。

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