第44回 なぜいまSFなのか? (1)

 今回はなぜいまSFを書くべきなのか、書籍化の切り口で話していきたいと思います。カクヨムでSFというと日本SF大賞でも最終候補になった「横浜駅SF」が有名ですよね。これはSFファンの常識ですが、カクヨム読者のみなさんはほとんど知りません。「横浜駅SF」は柞刈いすかり湯葉ゆば本人のTwitterアカウントで投稿されたいくつかのネタツイートから本人が書き上げたカクヨムでも言わずと知れたカクヨムSFの代名詞です。カドカワBOOKSから発売されています。


 SFというジャンルはそもそも、そこに属するレビュワーや評論家、翻訳家、編集者、大学SF研から出てきたレビュワーなどの相互評価によって成り立っているジャンルであると言えます。これは他のジャンルではあまり見ない特性です。つまりそこに属している人に認められなければ、次のステップに望まれない厳しいジャンルです。ですが、その代わりにSFファンダムの存在や年単位のSFイベントのスケジュールはある程度決まっており、新規に参入するリスクはそれほど高くありません。HAL-CONやSFファン交流会などはよく知られています。SF界で有名な日本SF大会は宿泊が必要で費用もかかる大会ですが、それ以外であれば大学生くらいの経済感覚で参加ができます。

 さいきんですとSFカーニバルと呼ばれる都内のSFのサイン会が有名です。それは本連載でもレポートしましたよね。


 話を戻しましょう。今回の論点では、カクヨムからのお知らせで「「文芸」で書籍化を目指すには 「オファーの瞬間」 特別座談会」を参照します。(https://kakuyomu.jp/info/entry/offer_symposium

 文芸編集部のカクヨム班の座談会ですね。

 ここでまず注目してほしいのは、SFの文芸担当者です。彼だけは実名を公表していますよね。奥村勝也氏です。彼の経歴はもともと富士見ファンタジア文庫編集部にいたところから、SFの版元である早川書房に転職し、二年前にKADOKAWAに転職したとあります。

 彼、じつはSF界ではかなり有名な編集者です。この二年の間にさまざまなSF界のニュースがありましたが、そのどこにでも存在した敏腕びんわんSF編集者なのです。この記事でも小川哲さんの『ゲームの王国』や、カクヨムで『横浜駅SF』を書かれていた柞刈湯葉さんの『人間たちの話』、三秋縋みあきすがるさんの『君の話』が挙げられています。私の記憶が確かであれば、ほかにも竹田人造さんの『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』も担当されていたはずです。

 ほかにもSFインディーズウェブマガジン、バゴプラの企画したかぐやSFコンテストの審査員を担当されていたりします。この二年で不遇ふぐうであったカクヨムのSFにも光が当たる可能性が出てきました。


 そんな彼がKADOKAWAでもSFをやりたいと言っています。めちゃくちゃワクワクしませんか?

 SFを書いている人間ならすこしは夢を見てもいいかと思います。もちろん、公募で一次通過や過去に書籍掲載といったキャリアも物を言うかもしれません。

 一般的な文芸ジャンルはSFを取り込むことで成功してきたジャンルであるとも言えます。文芸担当者がSFを拾い上げたいのはそういう歴史的経緯も存在しているからです。

 面白い、やってやろうじゃないかと思った作者のみなさん、もうすでに戦いは始まっていますよ。

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