エピローグ
「緊張するね」
すずは圭に話しかけていた。すずは親族から借りたパーティドレスではなく、貸衣装店で借りた首筋まで隠す露出度の少ないアフタヌーンドレスを着ている。
タキシード姿の圭もうなずき。ふと、思い出したようにすずに聞く。
「あのドレス、まだすずの家にある?」
「うん」
「肌が治ったら、もう一度着てくれないか」
「なんで?」
「きれいなすずを見ておきたい。それでもう一度キスやそれ以上のことをしたい」
「キス以上はダメだよ!」
慌てて言うすず。
「だめ?」
じっとすずの顔を見る圭。
「……えっと、いいよ」
小声で、すずは言った。
「ほら、私、胸が薄いでしょ」
「なかなか、はいともいいえとも答えにくい質問をするね。君は」
となりでは元副生徒会長と元書記。元書記は淡いミントグリーンのパーティドレス。
「それで気づいたんだけど」
元書記は元副生徒会長のそばまで寄って耳打ちする。
「かがむと見えちゃうのよね、ちくび」
「というか今かがんでないか?」
「うん」
「……」
元副生徒会長は視線を下に向ける。そこには……。
「残念、ニプレスでしたー」
体を離し、屈託なく笑う元書記。
「それはそれで」
いいものみたなと思う元副生徒会長。
「なんか準備とかあいさつとかしないのか? ドラゴンは」
遠くの方ではドラゴンとタカシゲ。ドラゴンは真っ黒いエンパイアドレス。
「なにいってんのよ。もう私は生徒会長じゃないんだから、そんなのみんな下級生に丸投げしたわよ」
「うわ、プロムやると決めたのはドラゴンなのに、実際の運営は下級生任せかよ!」
「ま、最初からそのつもりだったし……」
「ひでえ」
「私たちは楽しむ側だし……そうでしょ。タカシゲ?」
きわどいドレスの胸を広げるドラゴン。ドラゴンの胸はないとはいえ、そのきれいな肌にタカシゲの視線は釘付けになる。
「うん、まあソウダネ」
「ふふ」
そういって元生徒会長は屈託なく笑った。
「……」
圭は会場を見回す。ゆりの姿は当然無い。
誰もそれを言わない。とがめようとはしない。
圭は胸が少しきしんだが、自分が選んだ道を受け入れなくてはいけない。
ゆりは、どうしているだろうか、と一瞬考えて、今日はもう考えないことにする。ゆりもきっとそれを望んでいる――とまでは言わないが、今日という日を心苦しく過ごしたら、それはそれで失礼だろう。それはすずもわかっている。
そしていよいよ開幕。
「それでは長らくお待たせしました。これから池坂高校卒業生を送るプロムを開催いたします」
新しい生徒会長の初々しい声がして。
プロムの幕が今開く。
プロムナード・ドリーマー! 陋巷の一翁 @remono1889
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